アパートの図面と確認済証が手元にないとき|築古アパートのオーナーが役所と設計事務所を当たる順番

相続で引き継いだ昭和55年築のアパート。屋根と外壁をまとめて直す相談で、設計事務所の方から「検査済証はありますか」と聞かれました。仏壇の引き出しにも、貸金庫にも、権利証と登記識別情報しか入っていない。前の管理会社に問い合わせたら「うちは平成19年からのお付き合いですので」。

結論からお伝えすると、確認済証と検査済証は、紛失しても再発行されません。ただし、代わりになる書類が役所に残っていることがあります。そして、その残り方は同じさいたま市の中でも区によって20年以上ちがいます。順番に見ていきます。

図面や確認済証が手元にないときの当たり先4つをまとめた図。市役所の建築計画概要書、建築台帳記載事項証明書、設計事務所の保存図書、前の管理会社の引き継ぎ分。

再発行されない、と役所が書いています

さいたま市の案内は、この点をはっきり書いています。「確認済証や検査済証は、一度発行されると、紛失した場合においても再発行ができません」。そのうえで、代わりに「建築台帳記載事項証明書」があり、これは市に現存する台帳に記載されている建築物について、建築確認済証等の交付年月日および番号が台帳に記載されていることを証明するもの、とされています。

つまり、証明されるのは「番号があった」という事実であって、建築確認そのものの写しでも、検査済証の代わりでもありません。ここを取り違えると、設計事務所に渡したあとで話が止まります。

役所には、建物が壊されるまで残っている書類があります

もう一つの当たり先が建築計画概要書です。根拠は建築基準法第93条の2で、特定行政庁は、確認その他の処分に関する書類のうち国土交通省令で定めるものについて、閲覧の請求があった場合には閲覧させなければならないと定めています。

その「国土交通省令で定めるもの」を並べているのが建築基準法施行規則第11条の3第1項で、第1号に建築計画概要書が入っています。そして同条第2項に、実務でいちばん効く一文があります。

特定行政庁は、前項の書類(同項第七号及び第八号の書類を除く。)を当該建築物が滅失し、又は除却されるまで、閲覧に供さなければならない。

建物が建っている限り、閲覧できる状態で置いておく義務が役所の側にある、ということです。「昭和の建物だからもう残っていないでしょう」は、条文の上では逆です。残っていないとすれば、それは古いからではなく、その自治体がその年度から台帳を作っていなかったからです。

さいたま市なら、いつの建物まで取れるのですか?

ここが、さいたま市の特殊なところです。5市が合併してできた市なので、旧市ごとに記録の始まりが違います。2026年7月29日時点の市の案内では、建築計画概要書の閲覧・交付ができる年度は次のとおりです。

  • 旧大宮市(西区・北区・大宮区・見沼区)……平成7年度~
  • 旧岩槻市(岩槻区)……昭和54年度~(ただし建築基準法第6条第1項第1号・第2号・第3号の建築物は昭和57年度~)
  • 旧与野市・旧浦和市(中央区・桜区・浦和区・南区・緑区)……昭和46年~

昭和55年築のアパートで考えると、浦和区なら概要書が閲覧でき、大宮区なら閲覧できません。同じ市内、同じ築年でこれだけ違います。

旧大宮市には、昭和46年度から平成6年度までの空白があります

もう一枚の表と重ねると、もっとはっきりします。建築台帳記載事項証明書の交付ができる年度は、同じ案内でこうなっています。

  • 旧大宮市(西区・北区・大宮区・見沼区)……昭和25年度~昭和45年度、および平成7年度~平成11年4月30日
  • 旧岩槻市(岩槻区)……昭和32年度~平成11年4月30日
  • 旧与野市・旧浦和市(中央区・桜区・浦和区・南区・緑区)……昭和25年度~平成11年4月30日

旧大宮市の行だけ、途中が抜けています。昭和46年度から平成6年度までは、台帳証明も出ず、概要書も閲覧できません。この時期は、まさに木造アパートが数多く建った時期です。西区・北区・大宮区・見沼区に昭和40年代後半から平成初期のアパートをお持ちなら、市から出てくる紙は原則としてありません。

なお建築台帳記載事項証明書は、令和5年7月18日以降、平成11年4月30日以前に建築確認処分された物件に限定されています。それより後は「処分等の概要書」の写しを取ります。手数料は一通400円で、郵送での交付は行われていません。窓口に行く必要があります。

設計事務所に残るのは15年です

役所で出なかったときの次の当たり先が、設計した事務所です。ただし期限があります。

建築士法第24条の4第2項は、建築士事務所の開設者に、業務に関する図書の保存を義務づけています。中身を決めているのは建築士法施行規則第21条で、第4項が対象の図書を並べています。配置図、各階平面図、二面以上の立面図、二面以上の断面図、基礎伏図、各階床伏図、小屋伏図、構造詳細図、そして工事監理報告書です。

そして第5項が期間を定めています。作成した日から起算して15年間。帳簿のほうも、各事業年度末に閉鎖した日の翌日から15年間です(同条第3項)。

この15年という数字が、築古物件では効いてきます。昭和55年築のアパートについて、設計事務所に法律上の保存義務はもう残っていません。それでも古い図面を保管し続けている事務所はありますし、施工した工務店に残っていることもあります。ただし「法律で持っているはずだ」という前提で問い合わせると、話が噛み合いません。お願いする側として聞いてください。

図面がないと、次に工事するときに何が起きるか

ここまでの話は、紙が揃うかどうかの話ではなく、工事ができるかどうかの話につながります。

増築、改築、移転、大規模の修繕、大規模の模様替、あるいは用途変更をするとき、既存部分も含めて建築基準法令に適合している必要があります。国土交通省「既存建築物の現況調査ガイドライン(第4版・令和8年3月)」は、この既存部分の扱いを次のように整理しています。

  • 直近の工事について検査済証の交付を受けている場合(その後に適合しなくなる改変がないこと)は、既存不適格として緩和が使える
  • 検査済証がなくても、現況調査の結果、着手時の建築基準法令に適合していたことが確認できれば、同じく緩和が使える
  • ただし「直近の建築等の工事の着手時を特定できない場合は、計画建築物全体を現行の建築基準法令の規定に適合させることとします」

3つ目が、書類を失ったことの実害です。着手時期が特定できないと、直す部分だけの話ではなく、建物全体を今の基準に合わせるところから見積もりが始まります。現況調査は、一級建築士・二級建築士・木造建築士がそれぞれ設計や工事監理ができる範囲で実施でき、指定確認検査機関が行うこともできます。

2025年4月からは、大規模の修繕・模様替に建築確認が要る範囲そのものが広がりました。この点は再建築不可の家は貸せるのか|2025年4月から大規模リフォームに建築確認が要るで扱っています。確認申請が要る場面が増えたぶん、書類が無いことの影響も広がっています。

思いどおりに進まないこともあります

台帳の記載事項は物件ごとに違い、検査済証の有無が記録されていないこともあります。市も「記載できる事項や検査済証の有無については年度や物件ごとに異なります」と書いています。窓口で取れたからといって、必要な情報が全部載っているとは限りません。

また、台帳証明を請求する前に、原則として建築確認済証の年月日と番号を調べておく必要があります。分からない場合は、登記簿等で建築年度と建築当時(確認申請時)の地名地番を調べたうえで、台帳の保管状況を電話で問い合わせる、という手順が案内されています。相続で引き継いだ物件では、まず登記簿からになります。

図面を取りに行く順番を5段でまとめた図。登記簿で新築年と地番を控える、市の窓口で建築計画概要書を閲覧、台帳記載事項証明書を請求、設計事務所と施工会社に照会、建築士に現況調査を依頼。

今日やることを1つだけ選ぶなら

物件の登記事項証明書を1通取って、新築年月日と、当時の地番を書き写してください。これが無いと、役所も設計事務所も調べようがありません。逆に、この2つが分かっていれば、電話1本で「台帳が残っているかどうか」までは分かります。

そのうえで当たる順番は、上の図のとおりです。市区町村の建築の担当窓口で建築計画概要書を閲覧し、出なければ建築台帳記載事項証明書、それでも出なければ設計事務所と施工会社に照会する。揃わない分だけを建築士の現況調査に回します。持っている書類は、融資を受けるときにも見られます。何を揃えておくかは築30年を超えたアパートでも融資がつく条件|オーナーが先に整える資料にまとめてあります。

いま何も出てこなくても、慌てて工事を止める必要はありません。必要になるのは「大規模の修繕」以上の工事をするときです。売る予定も大きな工事の予定もないうちに、静かに一度だけ調べておく。それがいちばん安く済みます。

出典

  • 建築基準法(昭和25年法律第201号)第93条の2/建築基準法施行規則(昭和25年建設省令第40号)第11条の3(e-Gov法令検索・2026年8月31日確認)
  • 建築士法(昭和25年法律第202号)第24条の4/建築士法施行規則(昭和25年建設省令第38号)第21条(e-Gov法令検索・2026年8月31日確認)
  • さいたま市「建築計画概要書等の閲覧及び写しの交付、建築台帳記載事項証明書並びに道路位置指定図の写しの交付等について」(更新2026年7月29日)、「建築計画概要書等が窓口に並ばずに取得できます」(更新2026年5月22日)
  • 国土交通省「既存建築物の現況調査ガイドライン(第4版)」令和8年3月

年度の区切りや手数料、窓口の場所は変わります。さいたま市でも令和8年4月1日の組織改正で、概要書等の交付と台帳記載事項証明の交付は北部建築指導課(大宮区役所6階)と南部建築指導課(中央区役所別館2階)の所管になりました。埼玉県・千葉県西部・栃木県南部でも自治体ごとに扱いが違いますので、動く前に必ずご自身の物件のある市区町村でご確認ください。建物ごとの法適合の判断は、建築士・指定確認検査機関にお願いしてください。

Follow me!