アパートに防犯カメラを設置するとき|築古アパートのオーナーが掲示・保存期間・警察への提供で分ける3点
共用階段の下に置いてあった自転車が、2週間で3台に増えていました。そのうち1台のサドルが切られている。管理を任せている担当の方から「カメラを付けたほうがいいと思うんですが、入居者の同意って要るんですかね」と聞かれました。
結論からお伝えすると、入居者一人ひとりの同意は要りません。そして、多くの記事が書いている「利用目的を公表しなければならない」も、防犯目的のカメラであれば当てはまらないことがあります。ただし「防犯カメラ作動中」の掲示は、別の条文の側から必要になります。ここが入れ替わって覚えられているので、順番に分けます。

大家がカメラを付けると、法律のどこに入るのか
個人情報保護法第16条第2項は、個人情報取扱事業者を「個人情報データベース等を事業の用に供している者」と定めています。入居者名簿や申込書を持っている以上、1室しか貸していない方でも、ここに入ります。この点は入居申込書と身分証のコピーはいつまで持てるのか|大家も個人情報取扱事業者ですで詳しく扱っていますので、そちらに譲ります。
そのうえで、個人情報保護委員会は「カメラに関するQ&A」(ガイドラインQ&Aからの抜粋)で、カメラ画像の扱いをまとめています。以下はそのQ&Aの内容です。
「作動中」の掲示は、利用目的の公表とは別の話です
Q1-13(令和5年5月追加)は、防犯目的で設置し、顔特徴データの抽出を行わない従来型防犯カメラについて、こう書いています。
- カメラで特定の個人を識別できる画像を取得する以上、利用目的をできる限り特定し、その範囲内で使う(法第17条)
- ただし「カメラの設置状況等から利用目的が防犯目的であることが明らかである場合には、『取得の状況からみて利用目的が明らかであると認められる場合』(法第21条第4項第4号)に当たり、利用目的の通知・公表は不要と考えられます」
- 一方で、法第20条第1項(不正の手段による取得の禁止)の側から、「カメラにより自らの個人情報が取得されていることを本人において容易に認識可能といえない場合には、容易に認識可能とするための措置を講じなければなりません」。その例として作動中であることの掲示が挙げられています
つまり、貼り紙が根拠にしているのは第21条(利用目的の通知・公表)ではなく第20条(適正な取得)です。「公表義務があるから貼る」ではなく「気づけない場所に隠して撮らないために貼る」。この読み違えは、カメラの置き方に効いてきます。植栽の陰や、雨どいの裏に目立たないよう仕込むほど、掲示の必要性は上がります。
顔を見分ける機能が付いていると、何が変わりますか?
変わります。Q1-14は、顔識別機能付きカメラシステムについて「設置されたカメラの外観等から犯罪防止目的で顔識別機能が用いられていることを認識することが困難であるため、『取得の状況からみて利用目的が明らかであると認められる場合』(法第21条第4項第4号)に当たらず、個人情報の利用目的を本人に通知し、又は公表しなければなりません」としています。
さらに、利用目的の特定にあたっては「犯罪防止目的であることだけではなく、顔識別機能を用いていることも明らかにして」特定する必要があるとされ、照合用のデータベースに登録する場合は、登録対象を利用目的の達成に必要な範囲に限る登録基準を作らなければならないとされ(法第18条第1項)、担当者の誰が判断しても同じ結論になる文書化された統一的な基準を作ることも重要だとされています。
ここが、いま実際に踏みやすいところです。家庭向けの安いカメラにも「人物検知」「顔登録」を売りにした製品が増えています。買ったカメラに顔登録の機能があって、それを使うなら、掲示だけでは足りません。使わないなら機能を切っておく、というのも一つの決め方です。

警察に映像を渡すとき、入居者の同意は要るのか
要りません。理由は2段あります。
1段目は、そもそも第三者提供の制限(法第27条)がかからない場合があることです。Q1-41は「特定の個人情報を検索することができるように『体系的に構成』されたものでない限り、個人情報データベース等には該当しないと解されます。すなわち、記録した日時について検索することは可能であっても、特定の個人に係る映像情報について検索することができない場合には、個人情報データベース等には該当しない」としています。
録画機に日付と時刻で頭出しするだけの、ふつうの防犯カメラの映像がこれに当たります。個人データでなければ、同意を要求している第27条の対象外です。
2段目は、仮に個人データに当たるとしても、第27条第1項第1号が「法令に基づく場合」を同意の例外にしていることです。捜査関係事項照会はここに入ります。
あわせて、犯罪行為が映ったこと自体は要配慮個人情報ではありません。Q1-31は「単に防犯カメラの映像等で、犯罪行為が疑われる映像が映ったのみでは、犯罪の経歴にも刑事事件に関する手続が行われたことにも当たらないため、要配慮個人情報に該当しません」としています。
さいたま市のガイドラインは、貼り紙に名前まで求めています
法律の話とは別に、自治体が設置者向けの物差しを出しています。「さいたま市防犯カメラの設置及び運用に関するガイドライン」は、罰則のあるものではありませんが、市内で設置する側が何を求められているかが具体的に書かれています。とくに次の5点は、法律の条文からは出てきません。
- 設置の表示:撮影区域またはその周辺に、防犯カメラを設置していること、及び設置者の名称を表示する(第2の3)。「防犯カメラ作動中」だけでは足りない、という書き方です
- 保存期間:原則1か月以内。超える場合は設置目的に照らして必要最小限とする(第3の2)
- 捜査機関への提供:「犯罪又は事故の捜査の目的で、文書により画像提供の要請を受けた場合」。そして提供時に相手方の身分を確認し、日時・提供先・理由・内容を記録する(第3の4)
- 設置運用規程:設置者は、設置及び運用に関する規程を作る(第4の1)
- 委託するとき:施設管理業務や警備業務を委託する場合、ガイドラインと規程の遵守を委託契約の条項に設ける(第5の1)
5番目は、管理会社に任せている物件にそのまま効きます。映像を見られる人が誰なのかを、契約書のどこにも書いていないケースは珍しくありません。管理会社を替えるときに引き継ぐ書類の話は管理会社を変更するときの引き継ぎ書類|築古アパートのオーナーが受け取る一覧にありますが、カメラを付けたなら、この規程と録画機の管理者を一覧に足してください。
市の助成金は、大家の物件には使えません
「補助が出ると聞いた」という話も出ます。さいたま市の地域防犯カメラ設置助成金は、助成対象経費の4分の3、1台につき25万円を限度とする制度ですが、助成対象団体は自治会です。個人に対する助成ではありません。そのうえで、対象外となる経費に「施設の維持管理、私有財産の保護を目的とするカメラの設置費用」が明記されています。
アパートの敷地や共用部を撮るカメラは、この「私有財産の保護」の側です。助成の対象になるのは、公道等の公共空間における不特定多数の人の動きを撮影する地域防犯カメラで、しかも令和8年度は想定申請額が予算の上限に達する見込みと市が告知しています(2026年7月8日更新)。自治会として道路側に付ける話であれば別ですが、自分の物件のために使える制度ではない、と先に押さえておいてください。
都合の悪いことも書いておきます
さいたま市自身が、助成のページにこう書いています。「地域防犯カメラは万能ではなく、日頃の防犯活動を補完する一手段に過ぎません」。そして「設置後にトラブルになる事例も発生しています。設置に反対する方の意見にもしっかり耳を傾け、丁寧に合意形成を図ってください」。
アパートでも同じことが起きます。映る範囲に隣家の窓や道路が入れば、その方たちには断る手立てがありません。撮影範囲は「設置目的に則して必要最小限」(ガイドライン第2の2)です。付ける前に、カメラの画角に何が入るかを、脚立に乗って一度自分の目で見てください。設置後に角度を直すより、付ける前に1台減らすほうが安く済みます。
それから、カメラは壊れます。ガイドラインは定期的な点検と修理・修繕を設置者の責務としています。映っていると思っていた1年が、実は録画されていなかった——という相談は、実際にあります。
今日やることを1つだけ選ぶなら
すでにカメラが付いている物件をお持ちなら、録画が何日分残っているかを1回だけ確認してください。ここが空なら、掲示も規程も意味を持ちません。まだ付けていないなら、①何を防ぎたいのか ②その範囲に何が映るか ③映像を誰が見るのか、の3つを紙に書いてから見積もりを取ってください。この3つが決まっていれば、あとの掲示・保存期間・提供のルールは、上のガイドラインをなぞるだけで揃います。
無断駐車や放置自転車のように、カメラの前に打てる手がある問題もあります。順番の考え方はアパートの無断駐車と放置自転車をどう止めるか|築古アパートのオーナーが自分で動かす前に踏む3つの段にまとめてあります。
出典
- 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)第16条、第17条、第20条、第21条、第27条(e-Gov法令検索・2026年8月31日確認)
- 個人情報保護委員会「カメラに関するQ&A」(『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』に関するQ&Aより抜粋)Q1-13・Q1-14・Q1-31・Q1-41・Q5-4
- さいたま市「さいたま市防犯カメラの設置及び運用に関するガイドライン」
- さいたま市「地域防犯カメラ設置助成金を交付します」(更新2026年7月8日)
個人情報の取扱いは、事案ごとに結論が変わることがあります。判断に迷う場面では、個人情報保護法相談ダイヤルや、設置する市区町村の防犯の担当課に、実際の設置場所と画角を伝えたうえで確認してください。この記事はさいたま市の公表内容をもとに書いていますので、他の市区町村では表示や保存期間の求め方が異なることがあります。


