抵当権より後に入った入居者でも、競売のあと6か月は明け渡さなくてよいとされています|築古アパートのオーナーが読む民法395条
結論からお伝えすると、抵当権の登記より後に入居した人は、競売でアパートが売られると、買った人に対して部屋を使う権利を主張できません。それでも民法395条1項により、競売の手続が始まる前から住んでいる入居者は、買受人が買い受けた時から6か月を経過するまで、部屋を明け渡さなくてよいとされています。ただしこれは「6か月の猶予」で、賃貸借が続くわけではありません。買受人が使用の対価として1か月分以上の支払を求め、払われなければ、猶予はなくなります(同条2項)。
たとえば、地元の銀行で借りて買った築35年の木造アパートの返済が、空室続きで半年止まったとします。裁判所から競売の開始決定が届き、6室のうち4室に入居者がいる。入居者のひとりから「この家、売られるって本当ですか。私たち、すぐ出ないといけないんですか」と電話が来た。大家として何と答えるか。答えは、抵当権の登記の日付と、入居の日付の前後で決まります。

入居者は、競売の後も住み続けられないのですか?
建物の賃貸借は、登記がなくても、部屋の引渡しを受けていれば、その後に建物の権利を取得した人に対抗できます(借地借家法31条)。ここで効いてくるのが「その後に」という言葉です。
- 抵当権の登記より前に入居していた人:抵当権者にも、競売の買受人にも賃貸借を主張できる。買受人が新しい大家になる
- 抵当権の登記より後に入居した人:抵当権者に対抗できない。競売で売られると、買受人に賃貸借を主張できない
銀行で借りて買った物件では、ほとんどの入居者が後者です。購入時に抵当権が設定され、その後に入居者を募集しているからです。大家にとっての「普通の入居者」が、競売では「対抗できない入居者」になるという構造を、まず押さえてください。
6か月の猶予は、誰に、いつから認められますか?
395条1項は、対抗できない賃貸借で建物を使っている人のうち、次に当たる人を「抵当建物使用者」と呼び、猶予を与えています。
- 競売手続の開始前から使用または収益をしている人
- 強制管理または担保不動産収益執行の管理人が、競売手続の開始後にした賃貸借で使用している人
猶予の期間は「買受人の買受けの時から6か月」です。競売の開始決定の日ではありません。開始決定から売却、代金納付までには時間がかかるので、入居者が実際に出るまでの期間はもっと長くなります。逆に言えば、開始決定の後に新しく入居させた人には、1号の猶予がありません。競売の開始決定が届いたあとに空室へ入居者を入れることは、その人を猶予のない立場に置くことになります。
2号の「収益執行の管理人」は、裁判所が選んで家賃を集める立場の人です。返済が止まった物件で銀行がこの手続を選ぶと、大家に代わって管理人が家賃を受け取ります。
猶予の間、家賃は誰に払うのですか?
猶予は賃貸借の続きではないので、入居者が買受人に払うのは「家賃」ではなく、建物を使ったことの対価です。395条2項は、買受人が相当の期間を定めてその1か月分以上の支払を催告し、期間内に払われなければ猶予は適用しないとしています。払わない入居者には、6か月を待たずに明渡しを求められます。
買受人の側の手続には期限があります。民事執行法83条2項は、代金納付から6か月を過ぎると引渡命令を申し立てられないとしつつ、抵当建物使用者がいた建物では9か月に延ばしています。猶予の6か月を待ってから申し立てられるようにするためです。競売で買う側から見た注意点は競売で買った築古アパートに雨漏りがあっても、民法568条の解除や代金の減額は使えませんにまとめています。

敷金は誰が返すのですか?
大家の立場が買受人に移るのは、賃貸借の対抗要件を備えた場合です(605条の2第1項)。抵当権者に対抗できない入居者の賃貸借は買受人に引き継がれないので、敷金を返す相手は、一般的には元の大家のままと考えられます。競売で物件を失ったうえに敷金の返還が残る、ということです。入居者から聞かれたとき、ここを曖昧に答えないようにしてください。
入居者を守る方法はないのですか?
条文上はあります。387条は、登記をした賃貸借で、それより前に登記をしたすべての抵当権者が同意し、その同意の登記があるときは、同意した抵当権者に対抗できるとしています。ただし、賃借権の登記と抵当権者全員の同意の登記がそろう必要があり、一般の住宅の賃貸借で使われる場面は多くありません。根抵当権が付いている物件の確認のしかたは根抵当権の付いたアパートを借り換えても、新しい銀行に根抵当権は移りませんが参考になります。
都合の悪いことも書いておきます
競売の開始決定が届いた段階では、任意売却や返済条件の変更など、競売以外の道がまだ残っていることがあります。どれが取れるかは、借入の残高、物件の価格、銀行の方針で変わり、この記事では判断できません。開始決定の書類が届いたら、その日のうちに銀行の担当者と、弁護士または司法書士に連絡してください。入居者への説明は、方針が見えてから一度にするほうが、混乱を小さくできます。
今日やることを1つだけ選ぶなら
アパートの登記簿の乙区で抵当権の登記の日付を確かめ、入居者ごとの入居日(鍵を渡した日)と並べてください。抵当権より前に入居した人が何人いるかで、万一のときに買受人へ引き継がれる賃貸借の数が決まります。返済が苦しくなっているなら、この一覧を持って、競売の手続が始まる前に銀行と話してください。
出典
- 民法387条・395条・605条の2(e-Gov 法令検索・2026年10月13日時点)
- 借地借家法31条、民事執行法83条(同上)


