買う不動産に契約の内容に適合しない抵当権の登記があるとき、買主は代金の支払を拒めます|築古アパートのオーナーが読む民法577条

結論からお伝えすると、買う築古アパートに「契約の内容に適合しない抵当権の登記」が付いているとき、買主は、抵当権消滅請求の手続が終わるまで、代金の支払を拒むことができます。民法577条1項が定めています。ただし、これは「契約で抵当権付きのまま引き受ける」と決めていない場合の話です。契約書にどう書いてあるかで、条文が働くかどうかが分かれます。

仮の話です。築古アパートの売買契約を結んだあと、決済の前に登記事項証明書を取り直したところ、乙区に、売主の借入に付いた抵当権が残っていました。売主は「決済のときに何とかする」と言っています。代金を先に払ってよいのか。577条と、その前後の条文を並べます。

抵当権の登記があるときに、買主と売主に認められる4つの動きを整理した図

577条と578条は、買主と売主に何を認めているか?

  • 577条1項:買い受けた不動産について契約の内容に適合しない抵当権の登記があるときは、買主は、抵当権消滅請求の手続が終わるまで、代金の支払を拒むことができる。この場合、売主は、買主に対し、遅滞なく抵当権消滅請求をすべき旨を請求できる
  • 577条2項:先取特権や質権の登記が、契約の内容に適合しないときも、同じ扱い
  • 578条:577条と576条の場合、売主は、買主に対して代金の供託を請求できる
  • 576条:権利を主張する者がいるなどで、買主が権利を取得できない、または失うおそれがあるときは、その危険の程度に応じて、代金の全部または一部の支払を拒める。ただし、売主が相当の担保を供したときは除く

ここで読み落としやすいのが「契約の内容に適合しない」という言葉です。契約書に「抵当権の登記は、引渡しまでに売主が抹消する」と書いてあるのに登記が残っているなら、契約の内容に適合しません。反対に「抵当権付きのまま売買する」と決めたなら、その登記は適合しない登記とは言えず、577条は働きません。

買主は、抵当権消滅請求を、どう進めるのか?

抵当権消滅請求は、抵当不動産の第三取得者(買主)が、民法383条に定めた書面を、登記をした各債権者に送って進める手続です(379条)。書面には、取得の原因と年月日、代価その他の負担、登記事項証明書、そして、債権者が2か月以内に競売を申し立てなければ、代価または指定した金額を、債権の順位に従って弁済または供託する旨が入ります。

債権者が書面を受け取って2か月以内に競売の申立てをしないと、提供された代価や金額を承諾したものとみなされます(384条1号)。登記をしたすべての債権者が承諾し、買主が払い渡しまたは供託をすると、抵当権は消えます(386条)。時期にも限りがあり、抵当権の実行としての競売による差押えの効力が発生する前にしなければなりません(382条)。借入をした本人(主たる債務者)と保証人は請求できません(380条)。

抵当権消滅請求で買主が動く手続の流れを5段階で示した図

売主が「決済の日に残債を払って抹消する」と言っているときは?

実務では、決済の日に、売買代金の中から売主の残債を返し、抹消に必要な書類をそろえて、その日のうちに抹消登記を申請する段取りが、一般的に多いようです。これは条文が求める形ではなく、契約の中で当事者が組む段取りです。この段取りを選ぶなら、次の2点を、契約書と決済の案内に残しておくと安心です。

  1. 抹消する登記の種類と、誰が・いつまでに申請するか
  2. 抹消が間に合わなかったときに、代金の支払や引渡しをどうするか

登記名義や売主の義務の話は、登記名義が売主本人ではない物件を買うとき、売主には登記を備えさせる義務があります|築古アパートのオーナーが読む民法560条・561条に整理しています。契約から決済までの手付の扱いは、個人どうしの売買で手付を払ったあと、買主は手付を放棄して解除できます|築古アパートのオーナーが読む民法557条で書きました。

都合の悪いことも書いておきます

  • 577条の「拒むことができる」は、払わなくてよいという意味にとどまり、契約が自動で消えるわけではありません。契約書の遅延損害金の条項と、ぶつからないかを確かめる必要があります
  • 抵当権消滅請求は、書面を債権者全員に送り、2か月待つ手続です。買主が自力で進めるのは、負担が小さくありません。進めるときは、司法書士や弁護士に相談してください
  • 抵当権の登記があるのが、そもそも想定内の取引(たとえば、借入を引き継ぐ形)もあります。577条は、契約の内容に適合しない場合の条文です

今日できること

  1. 決済前の登記事項証明書を取り直し、乙区に、売主の借入に付いた抵当権や、そのほかの権利が残っていないかを見る
  2. 売買契約書で、登記を抹消する旨の条項と、その期限が書かれているかを確かめる
  3. 書かれていない、または間に合いそうにないときは、代金の支払の前に、不動産会社と司法書士に段取りを聞く

出典

民法379条・380条・382条から386条、576条から578条(e-Gov 法令検索・2026年10月5日時点)。

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