個人どうしの売買で手付を払ったあと、買主は手付を放棄して解除できます|築古アパートのオーナーが読む民法557条
結論からお伝えすると、個人どうしの築古アパートの売買で、手付を払ったあとにやめたくなったとき、買主は手付を放棄して契約を解除できます。民法557条1項は、買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除ができると定めています。ただし、相手方が契約の履行に着手した後は、この解除はできません。つまり、手付の解除には、期限が条文の中に埋まっています。それが「相手が履行に着手するまで」です。
仮の話です。築古アパートの売買契約を結び、手付を200万円払いました。その後、融資の条件が合わず、買うのをやめたくなりました。手付を捨てれば契約を解除できると聞いたものの、売主はすでに測量を頼んでいます。解除はまだできるのか。条文の流れを整理します。
557条は、何を決めているか?
- 557条1項(本文):買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる
- 557条1項(ただし書き):その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない
- 557条2項:民法545条4項(解除権の行使は損害賠償の請求を妨げない)は、手付による解除には適用しない
1項の本文は、買主と売主で、やめ方が違います。買主は、手付を捨てるだけです。売主は、受け取った手付を返し、さらに同じ額を足した、手付の2倍の額を現実に提供する必要があります。手付が200万円なら、売主は400万円を差し出す形です。2項は、手付で解除したときは、手付を放棄するか倍額を払う以上の損害賠償を、請求できないことを意味しています。

「履行の着手」とは、どんな行為か?
条文には、履行の着手の意味が書かれていません。買主が残代金を用意して売主に提供した場合や、売主が登記の準備のために測量を頼んだ場合のように、契約に沿って動き始めたかどうかを、個々の事情で見ることになります。着手したかどうかが争いになったときは、裁判所の判断で決まる部分です。
仮の話の売主は、測量を頼んでいます。これが契約の履行の着手にあたるのかは、条文からは読み切れません。専門家(弁護士)に、契約書と、測量を頼んだ日付や内容を見せて確認してください。
相手方が着手したあとは、手付で解除できません。残る手段は、契約書にある解除の条項や、債務不履行による解除(541条)などです。この場合は、手付の放棄では済まない金額が動くことがあります。

買付証明書を出しただけなら、手付は関係あるか?
557条が働くのは、「買主が売主に手付を交付したとき」です。売買契約を結び、手付を払ったあとの話です。買付証明書は、一般に、買う意思を伝える書面で、契約そのものではありません。買付を出しただけの段階でやめるときは、557条より前の話で、手付も動いていません。ただし、買付証明書の書き方や、売主との約束によっては、別の問題が出ることがあります。迷うときは、書面の写しを持って専門家に聞いてください。
契約書で手付の意味を決めている場合
手付には、いくつかの意味づけの仕方があります。条文の557条は、解約のための手付を想定した形ですが、契約書に「違約手付」と書いてあれば、557条のとおりにならない場合があります。売買契約書の手付の欄を開き、次の3点を確かめてください。
- 手付が、解約のための手付と書かれているか(それとも違約や証拠のための手付と書かれているか)
- 手付で解除できる期限が、日付で書かれているか
- 融資が通らないときの解除(ローン特約)が、手付とは別に書かれているか
宅地建物取引業者が自ら売主になる売買は、宅地建物取引業法39条が別に定めています。代金の10分の2を超える手付を受け取れず(1項)、手付がいかなる性質のものであっても、買主は手付を放棄して解除できます(2項)。この点は、買取のとき、宅建業法のいわゆる八種制限は働きません|築古アパートのオーナーが仲介と比べる3つの物差しにまとめています。個人どうしの売買では、手付の額に、条文上の上限は設けられていません。
都合の悪いことも書いておきます
- 手付を放棄して解除するには、相手が履行に着手する前でなければなりません。契約から日が経つほど、着手と見られる行為が増えて、手付での解除が難しくなります
- 売主から解除するときは、手付の倍額を現実に提供する必要があります。口頭で伝えるだけでは足りません
- 融資が通らなかった場合などは、手付とは別の定めが契約書にあることがあります。手付を捨てる前に、契約書を全部読み直してください
今日できること
- 手元の売買契約書で、手付の欄を開き、解約のための手付と書かれているかを確かめる
- 手付で解除できる期限が日付で書かれているかを見る。書かれていないなら、相手が着手したかどうかが争点になりうると考えておく
- 売主や不動産会社が、契約後にどんな準備を始めたか(測量・登記・解体など)を、日付つきで書き留める
出典
民法541条・545条・557条、宅地建物取引業法39条(e-Gov 法令検索・2026年10月4日時点)。


