登記名義が売主本人ではない物件を買うとき、売主には登記を備えさせる義務があります|築古アパートのオーナーが読む民法560条・561条
結論からお伝えすると、登記簿の名義が売主本人ではない築古アパートを買うとき、売主には2つの義務があります。民法560条は、買主に登記などの対抗要件を備えさせる義務を、民法561条は、他人の権利を売買の目的としたときに、その権利を取得して買主に移転する義務を、売主に課しています。名義が違うことそのものが、売買を無効にするわけではありません。問題は、決済の日までに、その義務を売主が果たせるかどうかです。
仮の話です。気に入った築古アパートがあり、売主と値段の話がまとまりました。登記事項証明書を取ると、所有者の欄は、売主ではなく、5年前に亡くなった売主の父親の名前のままです。この物件を買ってよいのか。条文の流れを整理します。
名義が違うときは、3つの場面に分かれる
- 名義人が亡くなっていて、売主が相続人の場合:相続登記が済んでいません。所有権の登記名義人について相続が始まったときは、相続で所有権を取得した人は、相続を知った日から3年以内に移転登記を申請する義務を負います(不動産登記法76条の2第1項)。相続による移転の登記は、登記権利者が単独で申請できます(不動産登記法63条2項)
- 売主はすでに取得しているが、登記が前の所有者のままの場合:売主が代金を払って取得したのに、登記を移していない状態です
- 名義人が売主とは無関係の他人の場合:他人の権利を売る契約になります。民法561条の場面です
最初の2つは、売主に権利がある場面です。登記を売主の名義へ直すことが、買主へ売る前の準備になります。3つ目は、売主に権利がない場面で、561条が定める義務の出番です。

560条と561条は、何を決めているか?
- 560条:売主は、買主に対し、登記、登録その他の売買の目的である権利の移転についての対抗要件を備えさせる義務を負う
- 561条:他人の権利を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う(権利の一部が他人に属する場合を含む)
560条は、権利が売主にあることを前提に、登記を買主へ移す義務です。登記を移す手続は、権利に関する登記の申請は、登記権利者と登記義務者が共同でするのが原則なので(不動産登記法60条)、売主の協力が要ります。561条は、そもそも売主に権利がないときに、権利を手に入れて買主へ移す義務を課しています。

売主が義務を果たせないとき、買主はどうなるか?
売主が561条の義務を果たせないときは、債務の本旨に従った履行がされない場合です。買主は、売主の責めに帰することができない事由による場合を除き、損害賠償を請求できます(415条)。履行が不能であれば、催告をせずに契約を解除できます(542条1項1号)。解除をしたときは、各当事者は相手方を原状に復させる義務を負います(545条1項)。払った代金は、返してもらう形になります。
また、売主が移転した権利が契約の内容に適合しないときは、565条が追完請求・代金減額請求・損害賠償・解除の規定を準用しています(562条から564条)。たとえば、権利の一部が他人のものだったときが、この場合です。
登記簿の名義を信じて買えば、必ず所有者になれるのか?
なれるとは限りません。民法177条が定めているのは、不動産に関する物権の得喪は、登記をしなければ第三者に対抗できない、ということです。登記簿を見て買えば権利が手に入る、という作りにはなっていません。名義人が本当の所有者でないときに、買主が守られる場合もありますが、これは例外にあたる話です。例外が使えるかは個別の事情で決まるので、専門家に条文と事実を見せて確かめます。
決済の前に、契約書へ書いておく4つ
- 売主が決済の日までに、自分の名義へ登記を直すこと。相続が済んでいないなら、相続登記を先に済ませる、と書く
- 売主の名義にならなかったとき、契約を解除できる条件。解除したときは、手付や払った代金を返す、と書く
- 登記を買主の名義にする手続の費用を、どちらが負うか
- 決済と登記申請を、同じ日に同じ場所で行うこと。売主の義務と買主の代金支払が、同時に済む形にしておく(同時履行の抗弁は民法533条)
建物の登記がそもそもない物件や、増築した部分が登記に載っていない物件は、売主の名義以前に、建物の登記を整える作業が増えます。増築部分の登記の考え方は、増築した部分の登記は、変更から1か月以内です|築古アパートのオーナーが未登記の部屋を見つけたときに分ける3つの話にまとめています。親の物件を相続前に確認しておく考え方は、親の築古アパートを元気なうちに確認する5つのこと|住所変更登記の義務化が2026年4月に始まったにあります。
都合の悪いことも書いておきます
- 売主が義務を果たせない場合に、代金を返してもらえるかどうかは、売主に返せるお金があるかにもよります。条文は返す義務を定めますが、お金を保証してくれるわけではありません
- 相続人が複数いるときは、全員の協力が要る場合があります。1人の売主が「自分が売る」と言っても、他の相続人の了解がないと、決済が進まないことがあります
- 登記の申請や、書類の取り方は、司法書士に頼める範囲です。売買の契約書の中身は、不動産会社や弁護士にも確かめてください
今日できること
- 気になる物件の登記事項証明書を取り、所有者の欄と、売主の名前が一致しているかを見る
- 一致しなければ、売主に、名義がどういう経緯でそうなっているかを、書面で説明してもらう
- 決済の日までに名義を直せるかを、売主と司法書士に確認してから、契約書に書く
出典
民法177条・415条・533条・541条・542条・545条・560条から565条、不動産登記法60条・63条・76条の2(e-Gov 法令検索・2026年10月4日時点)。


