「下水道が来たら3年以内」は、くみ取便所の話です|築古アパートのオーナーが浄化槽をやめる順番と費用
市の広報に「令和◯年◯月◯日から下水道の供用を開始します」という1行が載る。翌年度、土地の面積と金額が書かれた納付書が届く。そのころには、アパートの敷地に埋まっている浄化槽をどうするかを決めていなければなりません。
結論からお伝えすると、よく言われる「下水道が来たら3年以内に接続」は、くみ取便所の建物に向けられた条文です。浄化槽はすでに水洗便所なので、この3年の条文は当てはまりません。浄化槽のアパートに効くのは下水道法10条1項の「遅滞なく」で、期限の数字が書かれていないぶん、かえって逃げ場がありません。この記事では、条文の当てはめ、誰がいくら払うのか、そして手続きの順番を並べます。
「3年以内」は、くみ取便所に向けられた条文です
3年の出どころは下水道法11条の3第1項です。条文を開くと、主語がはっきり書かれています。
処理区域内においてくみ取便所が設けられている建築物を所有する者は、……下水の処理を開始すべき日から三年以内に、その便所を水洗便所(汚水管が公共下水道に連結されたものに限る。)に改造しなければならない。
浄化槽のアパートは、すでに水洗便所です。だから11条の3の対象ではありません。ではどの条文かというと、1つ手前の10条1項です。
公共下水道の供用が開始された場合においては、当該公共下水道の排水区域内の土地の所有者、使用者又は占有者は、遅滞なく、……排水設備を設置しなければならない。
「遅滞なく」には日数が書かれていません。3年という猶予が消えるかわりに、いつまでにという物差しもなくなる——ここが浄化槽の物件で見落とされやすいところです。なお11条の3第3項には改造命令の規定もありますが、これも主語はくみ取便所です。
「排水区域」と「処理区域」は、同じ意味ですか?
違います。この2つは下水道法2条で別々に定義されています。
- 排水区域(2条7号)=公共下水道により下水を排除することができる地域。9条1項の供用開始の公示で決まります
- 処理区域(2条8号)=排水区域のうち、排除された下水を終末処理場により処理することができる地域。9条2項が1項を読み替えて準用する、別の公示で決まります
公示が2本あるので、日付も2つあります。10条1項の「遅滞なく」は排水区域の側、11条の3の3年は処理区域の側から数えます。役所に確認するときは「うちの土地はいつ排水区域になりましたか。処理開始はいつですか」と2つとも聞いてください。

受益者負担金は、建物の所有者ではなく土地の側に来ます
下水道を引くと、受益者負担金という一度きりの負担金がかかります。根拠は都市計画法75条1項で、「都市計画事業によつて著しく利益を受ける者があるときは、その利益を受ける限度において、当該事業に要する費用の一部を当該利益を受ける者に負担させることができる」と定めています。徴収の範囲と方法は、同条2項により市町村の条例で決まります。
さいたま市が公表している説明では、受益者は「下水道が整備された区域内に土地を所有している方」で、地上権・質権などの所有権以外の権利を持っている方も受益者になります。そして、はっきりこう書かれています。
借家人が受益者となることはありません
(出典:さいたま市「下水道事業受益者負担金について」2026年4月1日更新・2026年9月12日確認)
ここに大家だけに効く分かれ目があります。同じ市の説明では、Aさんの土地にBさんが家を建てている場合、受益者はBさんとされています。つまり底地を貸しているのか、借地の上にアパートを建てているのかで、納付書の宛先が変わります。自分の物件がどちらなのかを、納付書が来る前に確かめておいてください。
いくらになりますか?
さいたま市の場合、「1平方メートルあたりの単位負担金額」×「土地の面積(公簿面積)」です。単位負担金額は、末端管渠の整備費相当額に負担率を掛けた総額を、負担区の面積で割って出します。この単位負担金額は負担区ごとに異なると明記されているので、市の名前だけでは金額が決まりません。自分の土地がどの負担区かを聞いてください。賦課は原則として供用開始の翌年度です。
都市計画法75条には、金額以外にも押さえておく項目が並んでいます。
- 4項——延滞金は年14.5パーセントの割合を乗じて計算した額を超えない範囲で徴収できる
- 5項——督促を受けて期限までに納めないときは、国税滞納処分の例により徴収できる。先取特権の順位は国税・地方税に次ぐ
- 7項——徴収する権利は5年で時効により消滅する
年間の納期がどこに入るかは、賃貸経営の1年は何月に何が来るかに一覧があります。
工事費は、市の貸付制度の上限から水準が読めます
接続そのものの工事費(排水設備工事)は、建物の位置・配管の距離・浄化槽の大きさで変わるため、1つの数字にできません。ただし市が用意している貸付制度の上限を見ると、行政が想定している水準が分かります。
さいたま市の水洗便所改造資金貸付制度は、公表されている内容がこうなっています(出典:さいたま市「水洗便所改造資金貸付制度/設置費助成制度」2026年5月14日更新・2026年9月12日確認)。
- 貸付額は50万円を限度(1万円単位)。対象は「既設のトイレ(浄化槽によるトイレを含む)を公共下水道に接続する水洗トイレに改造するための工事費」
- 無利子・最高36か月の均等割賦償還
- 対象者は処理区域内の建築物の所有者。市民税・固定資産税・下水道事業受益者負担金・下水道使用料の滞納がないことが条件
- 連帯保証人が1人(原則、市内在住者)必要
- 申請は「さいたま市下水道排水設備指定工事店」を通じて、必ず工事着工前に
- 貸付金は完了検査に合格したあと、市から指定工事店へ直接払われます
この貸付制度の根拠は、下水道法11条の3第5項です。同項は「市町村は、くみ取便所を水洗便所に改造しようとする者に対し、必要な資金の融通又はそのあつせん、その改造に関し利害関係を有する者との間に紛争が生じた場合における和解の仲介その他の援助に努めるものとする」としています。条文はくみ取便所を書いていますが、さいたま市の制度は浄化槽のトイレも対象に含めています。制度の範囲は市町村ごとに違うので、必ず自分の市町村で確かめてください。
助成金のほうは、賃貸のオーナーは対象外です
同じページに載っている水洗便所設置費助成制度は、助成対象者が「処理区域内における自己が居住する建築物の所有者」で、さらに生活保護の生活扶助を受けている、または世帯全員が市民税非課税、という条件が付いています。賃貸に出しているアパートは「自己が居住する建築物」ではありません。貸付は使えても助成は使えない、という形になります。
なお助成のほうには「建築物のある土地の所有者が当該建築物の所有者と異なるときは、土地所有者の同意を得る必要があります」という条件も付いています。借地上の物件は、ここでも一手増えます。境界と私道の確認と同じで、私道と境界、越境をいつ確認するかの準備が効いてきます。
浄化槽をやめるときの届出は、30日以内です
下水道につないだら、浄化槽は使用を廃止します。浄化槽法11条の3がこう定めています。
浄化槽管理者は、当該浄化槽の使用を廃止したときは、……その日から三十日以内に、その旨を都道府県知事に届け出なければならない。
よく似た条文が1つ手前にありますが、性格がまったく違います。
- 11条の2(使用の休止の届出)——清掃をしたときに「届け出ることができる」。任意です。届け出ると10条の保守点検・清掃と11条の定期検査が止まります
- 11条の3(廃止の届出)——「届け出なければならない」。30日以内の義務です
届け出ないまま放置すると、使っていない浄化槽の年1回の保守点検・清掃・法定検査の義務が形の上で残り続けます。工事が終わった日を工事店に確認して、その日から30日で数えてください。

手続きの順番
- 供用開始と処理開始の日を役所で確認する。排水区域になった日と、処理を開始する日の2つ
- 受益者負担金の負担区と単位負担金額を聞く。土地の公簿面積を掛けて、賦課される年度と金額の見込みを出す
- 指定工事店から見積りを取る。排水設備工事・浄化槽の撤去または埋め戻し・清掃を、別々の行で書いてもらう
- 貸付制度を使うなら、着工前に申請する。着工後は受け付けられません
- 工事・完了検査。検査に合格して初めて貸付金が出ます
- 浄化槽の廃止届を30日以内に出す。あわせて保守点検・清掃の契約を止める
- 入居者に、下水道使用料に切り替わることを知らせる。排水設備の清掃その他の維持は、下水道法10条2項で占有者が行うとされています
浄化槽のままで維持していく場合の費用と入居付けは、浄化槽と汲み取りの物件はどう扱うかにまとめてあります。
都合の悪いことも書いておきます
- 負担金と工事費が同じ時期に重なります。受益者負担金は原則として供用開始の翌年度、工事費はそれと前後して出ます。空室が多い年に当たると資金繰りが苦しくなります
- 浄化槽の撤去は必須ではないことがありますが、放置もできません。埋め戻すのか撤去するのかで金額が変わるので、見積りの段階で分けて出してもらってください
- 入居者の負担は増えます。浄化槽の維持管理費は大家持ちのことが多い一方、下水道使用料は水道料金と一緒に使用者へ請求されます。共益費の考え方を変える必要が出る場合があります
- 市町村ごとに制度が違います。この記事の金額と条件はさいたま市のものです。熊谷市・杉戸町など、物件のある市町村の公表資料で必ず確かめてください
今日やることを1つだけ選ぶなら
物件の住所を持って、市町村の下水道担当課に「この土地は排水区域に入っていますか。入っているなら供用開始日はいつですか」と聞いてください。電話1本で終わります。入っていなければ、いまは何もしなくていい。入っていれば、10条1項の「遅滞なく」がすでに動いています。
工事の見積りは、条件をそろえて複数社から取ってください。1社だけでは高いのか安いのかを判断する材料がありません。


