受水槽をやめると、断水のとき水が1滴も出なくなります|築古アパートのオーナーが直結給水の承諾書で引き受けるもの

受水槽の清掃と検査で、毎年2つの請求書が来る。ポンプは20年もので、いつ止まってもおかしくない。「いっそ受水槽をやめて、水道管から直接つなげませんか」——設備屋さんからそう言われて、資料を取り寄せたところで手が止まる方が多い工事です。

結論からお伝えすると、できるかどうかを決めているのは水道法ではなく、その市町村の水道事業者が作った基準です。だから市によって答えが違います。そしてもう1つ、切り替えると「点検が要らなくなる」のではありません。年1回の義務が別のものに入れ替わり、あわせて「断水したら水が1滴も出ない」ことを書面で承諾することになります。この記事では、判断の分かれ目と、承諾書に何が書いてあるかを並べます。

可否を決めているのは、法律ではなく供給規程です

水道法を開いても、「受水槽をやめて直結にしてよい」という条文はありません。かわりに水道法14条1項が、水道事業者に供給規程を定めることを義務づけています。そして同条2項5号が、こう書いています。

貯水槽水道が設置される場合においては、貯水槽水道に関し、水道事業者及び当該貯水槽水道の設置者の責任に関する事項が、適正かつ明確に定められていること。

つまり受水槽まわりの責任の線引きは、法律ではなく各水道事業者の供給規程(給水条例)に投げられています。さらに16条が給水装置の構造と材質の基準を政令に委ね、16条の2が指定給水装置工事事業者の制度を置いています。

ここまでが全国共通の枠で、中身は市町村ごとに埋められます。「隣の市ではできた」が自分の市で通らないのは、この構造のためです。

さいたま市の基準では、階数と戸数で線が引かれています

さいたま市水道局が公表している「さいたま市水道局直結給水システム設計施工基準」を開くと、数字がそのまま書かれていました(出典:さいたま市水道局・2026年9月12日確認)。

直結直圧式 直結増圧式
届く高さ 3階まで。水栓の最高位は配水管の管芯から10メートル以下 概ね15階まで
戸数の上限 水理計算上可能な範囲 ファミリータイプ149世帯/ワンルームタイプ283世帯以下
配水管の最小動水圧 0.196メガパスカル以上 0.147メガパスカル以上
分岐する給水管の口径 25ミリメートル以上 25ミリメートル以上、かつ配水管口径の2ランク以下

増圧式にはもう1つ条件が付いています。単一路線や行き止まりの配水管から給水する場合は、ファミリータイプ98世帯/ワンルームタイプ187世帯以下に落ちます。前面道路の配水管がどうつながっているかで、同じ建物でも答えが変わるということです。分岐できる配水管の口径も75ミリメートル以上350ミリメートル以下と決まっています。

また「直圧式と増圧式は併用できない(ただし2階までの直結直圧式は併用できる)」と明記されています。1棟の中で方式を混ぜる設計は、原則としてできません。

いまの給水管をそのまま使えますか?

使える場合がありますが、条件が付きます。同じ基準の適用要件に、こう書かれています。

  • 既設の高置水槽は原則として撤去すること
  • 既設給水管は、老朽化などに伴う赤水等の水質異常がないこととし、耐圧試験等により漏水のないことを確認すること
  • 既設給水管の配管経路・管種口径・使用期間を十分把握し、使用者又は所有者の責任において使用すること。出水不良・赤水・漏水その他の異常が確認された場合は、使用者又は所有者の費用負担により給水装置の更新を行うこと

ここが金額の読めない部分です。切替の工事費だけを見て決めると、あとから配管の更新が乗ってきます。築年数の古い建物ほど、この行の重さが増します。敷地内の水道管が誰の財産なのかは敷地内の水道管は誰が直すのかにまとめてあります。

直結増圧式給水の承諾書で引き受ける五つの内容を並べた図解

承諾書に、何を引き受けると書いてあるか

増圧式にするときは、「直結増圧式給水条件承諾書」を出します。様式が同じ基準に載っていて、8項目が並んでいます。そのうち、オーナーが先に知っておくべきものを並べます。

  1. 故障時の対応——「直結増圧給水は、断水や水圧低下のとき、受水槽のような貯留機能がないため水の使用ができなくなることを承知しています」
  2. 定期点検——「増圧給水設備及び逆流防止装置の機能を適正に保つため、1年に1回以上の定期点検を行うと共に、必要な修繕を行います」
  3. 損害補償——「直結増圧式給水に起因する事故が発生し、水道局及び他の使用者等に損害を与えた場合は責任をもって補償します」
  4. 承諾内容の継承——「給水装置の所有者を変更するときは、変更後の給水装置の所有者にこの装置が条件承諾付であることを熟知させます
  5. 既設給水管の使用責任——漏水や赤水が発生したときは、配管の布設替等を所有者または使用者の責任において行う

(出典:さいたま市水道局「直結増圧式給水条件承諾書」様式・2026年9月12日確認)

2番目に気づいてください。受水槽をやめると、簡易専用水道としての年1回の清掃と法定検査は要らなくなります。そのかわり、増圧給水設備と逆流防止装置の年1回以上の点検が来ます。「毎年の義務がなくなる」ではなく「毎年の義務が入れ替わる」というのが正確な言い方です。受水槽側の義務の中身は受水槽のあるアパートには毎年2つの義務があるにあります。

4番目も売却のときに効いてきます。条件承諾付の給水装置であることを次の所有者に伝える、と書面で約束することになります。設備の履歴を残しておく話と同じ性質のものです。

受水槽のままの場合と増圧式にしたあとの違いを左右に並べた比較図

お金は、工事費だけではありません

さいたま市水道局が公表している分担金の表に、共同住宅だけの特別な行がありました(出典:さいたま市水道局「分担金及び設計審査・検査手数料」2026年6月10日更新・2026年9月12日確認)。

上記にかかわらず、共同住宅用にかかる分担金は、100,000円に100分の110を乗じて得た額に室数を乗じた額

つまりアパートは、メーター口径の表ではなく1室あたり110,000円(税込)×室数という別の計算になります。8戸なら88万円、12戸なら132万円です。口径で考えていると、桁を読み違えます。

あわせて、設計審査手数料と工事検査手数料もかかります。給水管口径25ミリメートル以下の工事で合計7,800円、30ミリメートル以上の工事で合計12,800円(さいたま市給水条例39条に基づく・同出典)。分担金は納付後に還付されません(施工前に申込みを取り消した場合を除く)と明記されています。

要確認:既設のメーターがある建物を受水槽方式から直結に変える場合、この共同住宅用の分担金がそのままかかるのか、口径の増径分の差額になるのかは、公表資料からは読み取れませんでした。設計に入る前に水道局へ確認してください。さいたま市の場合、増圧式は事前協議(直結給水システム事前協議申請書)が要ることになっているので、そこで一緒に聞くのが早いはずです。

都合の悪いことも書いておきます

  • 断水すると、その瞬間から水が出ません。受水槽は数時間ぶんの水を持っていました。計画断水も、災害時も、貯留はゼロになります。承諾書の1番目がまさにこれです。さいたま市の基準では、増圧給水設備が止まったときのために1階以下に応急給水用の直結直圧の水栓を使えるようにしておくことになっています
  • 停電でも止まります。増圧給水設備は電気で動きます。受水槽+高置水槽の建物は、停電しても高置水槽の残りが落ちてきましたが、増圧式にはそれがありません
  • 既存の給水管が古いと、切替の途中で工事が膨らみます。耐圧試験で漏水が見つかれば、そこで布設替えの費用が乗ります
  • 戻せません。高置水槽は原則撤去、受水槽も埋め戻すか撤去することになります
  • この記事の数字はさいたま市のものです。階数・戸数・分担金・事前協議の要否はすべて水道事業者ごとに違います。物件のある市町村の基準を必ず開いてください

今日やることを1つだけ選ぶなら

物件の階数と戸数、そして間取りがファミリーかワンルームかを紙に書いて、市町村の水道局の給水装置の窓口に電話してください。さいたま市の基準でいえば、3階建てまでなら直圧式が候補に入り、4階以上なら増圧式の話になります。前面道路の配水管の口径と水圧は、窓口でしか分かりません。

そのうえで、指定給水装置工事事業者に見積りを依頼してください。給水装置工事は、指定を受けた事業者しか施行できません(水道法16条の2)。設備の更新をどの順番で手を付けるかで迷っているなら、大家が自分で直してよい範囲はどこまでかもあわせてどうぞ。

冬に向けては、切替の有無にかかわらず水道管の凍結対策は11月までに決まるのほうが先です。工事の判断より、目の前の冬のほうが早く来ます。

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