入居者の飼い犬が他の入居者にけがをさせたとき、民法718条が責任を負わせるのは「占有者」です|築古アパートのオーナーが読む718条・717条
結論からお伝えすると、入居者の飼い犬が別の入居者にけがをさせたとき、民法718条が損害賠償の責任を負わせているのは「動物の占有者」です。部屋を貸しているだけの大家さんが、この条文だけで自動的に賠償を負うわけではありません。ただし、共用部の柵や門扉が壊れていて犬が外に出た、といった建物側の事情があれば、別の条文(717条など)が問題になります。
仮の話です。夕方、共用廊下で2階の入居者の犬が、すれ違った別の入居者の手にかみつく。かまれた人は病院へ行き、数日後、管理している大家さんのもとへ電話が入ります。「そちらの建物で起きたことだから、どうなっているのか」。このとき大家さんが最初に知っておきたいのは、条文が誰に責任を置いているかです。
718条は、誰に責任を負わせているのか
民法718条1項は、動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う、と定めています。ただし書きで、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでないとしています。
2項は、占有者に代わって動物を管理する者も、前項の責任を負うとしています。つまり条文が挙げているのは次の2者です。
- 動物の占有者:その動物を自分の支配のもとで飼っている人。入居者が自室で飼っている犬なら、通常は飼っている入居者です
- 占有者に代わって動物を管理する者:飼い主に頼まれて日常の世話を引き受けている人などが、言葉の上では入ります
占有者は、相当の注意をもって管理していたことを示せば、責任を免れます。リードを付けていた、共用部では抱いて歩かせていた、といった事実が、あとで意味を持ちます。
大家さんは、占有者や管理する者にあたるのか
条文の言葉だけを見ると、718条が書いているのは「動物を占有している人」と「それに代わって管理している人」です。部屋を貸しているだけで、犬の世話にも管理にも関わっていない大家さんは、この言葉に当てはまる形には読めません。
一方で、大家さんが犬を預かって世話をしていた、共用部に犬をつなぐ場所を設けて自分で管理していた、といった事情があれば、話は変わり得ます。どこまでが「管理する者」かは、事実のあてはめで決まります。この記事は条文の読み方の整理で、個別の事案は弁護士に確認してください。

建物側の欠陥が原因なら、717条が別に出てきます
犬がかんだこと自体は718条の話です。しかし、犬が外に出た原因が、共用部の柵の壊れや門扉の閉まらなさだったら、もう1つの条文が視野に入ります。
民法717条1項は、土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者が被害者に賠償する責任を負うと定めています。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者が賠償しなければなりません。
- 壊れたフェンスや、閉まらない敷地の門扉は、「工作物の保存に瑕疵がある」かどうかの検討対象になります
- 損害の原因について他に責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に求償できます(717条3項)
- 民法709条は、故意又は過失によって他人の権利を侵害した者が賠償すると定めています。問題を知りながら放置していた、といった事実があれば、この一般の条文が検討されます
ここで大事なのは、718条と717条は別の入口だということです。犬のかみつきそのものは飼い主側の話で、柵の状態は建物側の話として、別々に見ます。
被害者から「管理責任」を言われたら、何を記録しておくか
- 事故の日時・場所・けがの状況を、被害者本人の言葉のまま書き留める(推測で書き足さない)
- 飼い主の入居者がどう説明したかを、日付つきで残す
- 賃貸借契約書のペットに関する条項と、飼育の届出・許可の有無を確認する
- 事故があった場所の柵・門扉・共用廊下の写真を撮り、最後にいつ点検したかの記録を探す
被害者への連絡は、事実の確認にとどめ、責任の有無を電話口で言い切らないでください。賠償の額や責任の割合は、当事者同士が話して決めるもので、大家さんが先に引き受ける必要はありません。

都合の悪いことも書いておきます
718条の「相当の注意」や、717条の「瑕疵」「必要な注意」は、条文の言葉が広く、結論は事案ごとに変わります。大家さんに責任が及ぶ可能性がゼロとは言えない場面があり、逆に、記録が何も残っていなければ「注意をしていた」と示しにくくなります。ペット可にしている物件ほど、柵や門扉の点検記録を残しておく意味が大きくなります。
ペットを認めるかどうかの考え方は、築古アパートをペット可にすると何が変わるか|オーナーが決める前にに書いています。無断で飼われていたときの順番は、無断でペットを飼われていたら|大家が「すぐ解除」の前に踏む4つの段にまとめています。
今日できること
- 賃貸借契約書のペット条項を開き、飼育を認める条件と届出の有無を確認する
- 共用部の柵・門扉・フェンスを歩いて見て、壊れやゆるみがあれば写真を撮って修理の手配を入れる
- 点検した日と内容を、1行でいいので記録に残し始める
出典
民法709条・717条・718条(e-Gov法令検索・2026年10月1日時点)。


