入居申込に返事を保留しているあいだ、申込者は撤回できるのか|築古アパートのオーナーが読む民法523条と525条

結論からお伝えすると、入居申込への返事を保留しているあいだ、申込みを出した人が撤回できるかどうかは、「承諾の期間を定めた申込みか」で分かれます。期間を定めていない申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を過ぎるまで、撤回できません(民法525条1項)。ただし「相当な期間」が何日なのかは、条文に書かれていません。期限を日付で示しておくほうが、大家さんにとって安全です。

仮の話です。ほかの部屋の内見が入っていて、先に来た申込みへの返事を3日待ってもらいたい、と思っている。申込みをした人は「他も見たいので、やっぱりやめます」と言い出すかもしれない。大家さんは待っているあいだに他の人に貸してよいのか、逆に申込者はいつまで縛られるのか。ここで分かれ目になるのが、民法523条と525条です。

期間を定めた申込みと、定めていない申込みは別の条文です

  • 承諾の期間を定めた申込み(523条):撤回できません。ただし、申込者が撤回する権利を留保したときは別です。期間内に承諾の通知を受けなければ、その申込みは効力を失います
  • 承諾の期間を定めない申込み(525条1項):申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回できません。ただし、撤回する権利を留保したときは別です
  • 対話者に対する申込み(525条2項・3項):対話が続いている間は、いつでも撤回できます。対話が続くあいだに承諾の通知を受けなければ、その申込みは効力を失います。ただし、申込者が、対話の終了後も申込みが失効しない旨を示したときは別です

523条と525条は、2020年4月1日施行の債権法改正で内容が整理されました(法務省の新旧対照条文で確認しました)。電話や店頭での会話は「対話者」への申込み、書類やメールでの申込みは、受け取るまでに時間があるので別、という整理で読むと分かりやすくなります。

申込みの期限の定め方で撤回の扱いが分かれることを整理した図

返事を待ってもらうあいだ、申込者は撤回できるのか

申込書を、メールや書類で出してもらった場合を考えます。申込書に、回答の期限が書かれていなければ、525条1項の「承諾の期間を定めない申込み」にあたる読み方になります。申込者は、相当な期間は撤回できません。ただ、相当な期間が3日なのか1週間なのかは、条文では決まりません。取引の性質や、通知にかかる時間を見て決まる、という読み方になります。

なお、入居申込書が、民法上の「申込み」にあたるのか、契約前の「予約」のような意味合いなのかは、書面の中身と運用で変わります。賃貸の場面では、仲介会社の書式が間に入ることも多く、一律には言い切れません。

回答の期限を日付で書いた場合と書かない場合を比べた図

大家さんの側の安全策は何か

  1. 入居申込書か返信に、「承諾の回答期限」を日付と時刻で書く(523条の「期間を定めた申込み」にそろえる)
  2. 期限内に回答がなければ、申込みは効力を失う、と書いておく
  3. 大家さんが返事を保留するときは、「いつまでに返事をする」を相手に伝える
  4. 他の申込みと順番を争うときは、受付の日時を記録に残す

返事の期限が日付で書かれていれば、523条の読み方になり、撤回できるかどうか、期限後に効力が残るかどうかを説明しやすくなります。反対に、「近日中に回答します」のような書き方は、期間を定めたことになりにくい点に注意が要ります。

申込みの内容を相手が変えてきたときの扱いは、条件を変えた返事が新しい申込みになる、という別の条文(528条)の話になります。申込書の見方と審査の線引きは、入居審査でオーナーが見る点と、見てはいけない点|築古アパートで申込を減らさない基準にまとめています。

内見が重なる時期は、申込みの順番をどう決めるか

内見の希望が週末に偏る時期は、申込みも重なります。賃貸の申込みにクーリング・オフがあるかどうかなどの整理は、内見の希望が土日に偏るとき大家が決める3つ|賃貸の申込みにクーリング・オフはありませんに書いています。順番の決め方を先に決めておくと、返事を保留する場面が減ります。

都合の悪いことも書いておきます

この記事は、民法の条文の読み方を整理したものです。「相当な期間」は、事情で結論が変わります。申込者が預けたお金の扱い、仲介会社の約束、申込書の個別の特約などで、結論が変わることもあります。実際に撤回をめぐって争いになりそうなときは、弁護士や、仲介を担当した宅地建物取引業者に確認してください。

今日できること

  1. 使っている入居申込書に、「承諾の回答期限」の欄があるかを見る
  2. なければ、「◯月◯日◯時までに回答します」と書く一文を足す候補にする
  3. 電話や店頭で受けた申込みは、日時と内容をメモに残すように決める

出典

民法523条・525条(法務省「民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)新旧対照条文」・2026年10月2日確認)。

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