アパートの無断駐車と放置自転車をどう止めるか|築古アパートのオーナーが自分で動かす前に踏む3つの段

結論からお伝えすると、アパートの敷地内に停められた知らない車と、置き去りにされた自転車は、警察も市役所も原則として動かしません。そして、腹が立ってタイヤロックをかけたり、業者を呼んで運び出したりすると、今度はオーナーの側が違法になります。やることは3つです。①記録を残す ②相手を特定して請求する ③置かせない形に敷地を変える。順番を飛ばすと、どれも空振りします。

朝7時、入居者から電話が入ります。「自分の区画に知らない軽自動車が停まっていて、車が出せない」。現地に行くと、ナンバーは埼玉。フロントガラスには何も置かれていません。隣の区画の自転車ラックには、タイヤの空気が抜けてサドルが白く粉を吹いた自転車が3台。うち1台は防犯登録のシールが剥がされています。—— このとき、まず何をするか。

敷地内で起きることを5点にまとめた図。警察は取り締まれない、市も撤去しない、自分で動かすと違法になる、請求することはできる、自転車は落とし物として出す。

警察が「民事なので」と言うのは、条文どおりです

道路交通法で駐車違反を取り締まれるのは「道路」です。その道路の定義は、同法2条1項1号にあります。

道路 道路法第二条第一項に規定する道路、道路運送法第二条第八項に規定する自動車道及び一般交通の用に供するその他の場所をいう。

アパートの敷地内の駐車場は、通常はこのどれにも当たりません。だから警察は取り締まれない。「民事の話です」というのは、断られているのではなく、条文の外だという説明です。

ただし、最後の「一般交通の用に供するその他の場所」は覚えておいてください。私有地であっても、誰でも自由に出入りして通り抜けられる状態になっていると、道路として扱われる余地があります。逆に言えば、区画とチェーン、看板で「関係者以外は入れない場所」だと分かる形にしてあるかどうかで、話が変わることがあります。この判断は現場の状況次第なので、断定はできません。気になる物件は所轄の警察署に現況を見てもらうのが早いです。

もう一つ、よく混同されるのが車庫法(自動車の保管場所の確保等に関する法律)です。11条1項は「何人も、道路上の場所を自動車の保管場所として使用してはならない」、2項は同一の場所に12時間以上(夜間は8時間以上)駐車させる行為を禁じています。罰則は17条で3月以下の拘禁刑または20万円以下の罰金(11条1項)、20万円以下の罰金(11条2項)。ただしこれも「道路上」の話です。敷地内には効きません。

市役所も、敷地内の自転車は撤去しません

放置自転車の撤去は自治体の仕事だと思われがちですが、対象が限定されています。さいたま市自転車等放置防止条例は1条で目的を「公共の場所における自転車等の放置による住民の生活環境の障害を防止するため」と書き、2条1号で公共の場所を「道路、公園、河川、駅前広場その他公共の用に供する場所」と定義しています。10条の撤去も、放置禁止区域内の公共の場所が対象です。

アパートの敷地は、ここに入りません。市が公表している「放置自転車に関するQ&A」には、同じ構図の質問がそのまま載っています。店の駐輪場に客以外の自転車が放置されて困るので道路に出してよいか、という質問への回答です。

道路は公共の場所であり、自転車を道路に出す行為は、道路法及び道路交通法に違反します。(中略)土地の管理者として適正な対応をしてください。

敷地の外へ出すのは違法、敷地の中は市の対象外。つまり、土地の管理者であるオーナーが引き受ける話だと、市の側が明言しています。

そもそも、なぜ築古アパートは自転車があふれるのですか?

マナーの前に、台数の設計の問題であることが少なくありません。さいたま市の「自転車等駐車場の設置基準」は、共同住宅・長屋住宅で全住宅ごとに1.5台以上、ワンルーム形式・寄宿舎で1戸に1台(1室ごとに1台)、駐車施設の規模は自転車1台につきおおむね1平方メートル以上と定めています。

ここが大事なのですが、この基準が適用されるのは、市の開発行為の手続に関する条例の対象になる場合と、中高層建築物を建てる場合です(同基準3条)。昭和築の小規模なアパートは、この協議を通っていません。2人暮らしの部屋が増えれば、1戸1台の想定はすぐに足りなくなります。ラックが5台分しかない10戸のアパートで「ラック以外に置くな」と貼っても、行き場がありません。

自分で動かすと、こちらが加害者になります

ここが今日いちばんお伝えしたいところです。日本の法律は、権利があっても自分の実力で実現することを原則として認めていません(自力救済の禁止)。国土交通省の「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(再改訂版)」は、明渡しの場面についてこう書いています。

裁判所の強制執行等の手続きによって明渡しを実現する必要があり、自らの実力を持って権利の実現を図ることは許されず、違法となります(自力救済の禁止)。実際、裁判例においても、明渡し目的の自力救済者の行為の違法性が認定される場合がほとんどのようです。

荷物についても同じ事例集にこうあります。「借主が残置した家具・調度品等の所有権は借主に属するので、貸主がこれを勝手に処分した場合は、民事上(損害賠償請求)、刑事上(窃盗罪、器物損壊罪等)の責任が生じます」。

相手が入居者ですらない第三者なら、なおさら自分の物ではありません。タイヤロック、レッカー移動、自転車のワイヤー切断は、どれも「相手の占有を実力で奪う」行為です。市が条例10条2項でワイヤー錠を切断できて損害賠償の責めを負わないとされているのは、条例という根拠があるからで、オーナーには同じ根拠がありません。

なお、契約書に「無断駐車の車両は移動・処分することがあります」と書いてあっても安心はできません。事例集は、鍵の付け替えを許す条項について「法の禁止する自力救済を許容する合意であり、違法とされる可能性があるほか、消費者契約法10条により無効とされる可能性も考えられます」としています。書いてあるから実力行使してよい、にはなりません。

オーナーが踏む3つの段の図。1 日付が写る形で記録を残す、2 相手を特定して書面で請求する、3 置かせない形に敷地を変える。

オーナーが実際に踏む3つの段

動かせないなら何ができるのか。順番はこうなります。

  1. 記録を残す。日付と時刻、ナンバー(自転車は防犯登録番号と車体番号)、全景と近景の写真。同じ場所を日を変えて撮り、「継続して置かれている」ことを示します。あわせて、車のワイパーに挟むのではなくフロントガラスに触れない位置に警告文を掲示し、その掲示自体も撮影しておきます。ここで作った記録が、あとの段の全部の土台になります。
  2. 相手を特定して請求する。民法709条の不法行為として、無断で使われた期間の賃料相当額を請求できる余地があります。書面は内容証明郵便で残します。日本郵便の料金は、内容証明の加算料金が480円(2枚目以降は290円増)、一般書留が480円で、これが基本料金に加算されます(内容証明は一般書留とする必要があります)。それでも払われない場合、60万円以下の金銭請求なら簡易裁判所の少額訴訟が使えます(民事訴訟法368条1項)。訴え提起の手数料は訴額100万円までなら10万円までごとに1,000円です(民事訴訟費用等に関する法律 別表第一)。月1万円の区画を1年使われた12万円なら、手数料は2,000円になります。
  3. 置かせない形に変える。区画番号と車室のラインを引き直す、来客用と入居者用を分ける、出入口にポールやチェーンを置く、自転車はラックを増設して「ラック外は撤去対象」と運用で線を引く。2段目までを何度やっても、3段目をやらないと同じことが起きます。空き区画の使い道はアパートの駐車場が空いたままのときで整理しています。

相手が分からないときの照会先も分けて覚えてください。車のナンバーからの所有者照会は、原則として弁護士等を通じた手続きになります。自転車の防犯登録は警察の管理です。どちらも、オーナーが窓口へ行けば教えてもらえるものではありません。

放置自転車は「落とし物」として扱えます

捨てられないなら永久に置いておくのか、というとそうではありません。遺失物法の手続きがあります。

ここで一つ、取り違えやすい点があります。遺失物法2条5項は「施設」を、建築物その他の施設であってその管理に当たる者が常駐するものと定義しています。管理人が常駐していないアパートは、この「施設」に当たりません。つまりオーナーは「施設占有者」ではなく、ただの「拾得者」です。

拾得者の義務は4条1項で、「速やかに、拾得をした物件を遺失者に返還し、又は警察署長に提出しなければならない」。そして34条2号により、拾得の日から1週間以内に提出しなかった拾得者は、費用請求権も報労金も所有権を取得する権利も失います。「しばらく様子を見よう」で1週間を過ぎると、権利のほうが先に消えます。

警察に出したあとは、遺失物法7条4項により公告の日から3か月間の保管。その3か月以内に所有者が判明しなければ、民法240条により拾得した者が所有権を取得します。ただし遺失物法36条で、取得の日から2か月以内に引き取らないと所有権を失います。

順番をまとめると、①警告の掲示を貼って一定期間置く ②動かないことを写真で確認する ③警察署に「拾得物」として届け出る。自分で処分するのではなく、制度に載せる。これが敷地内の放置自転車を合法に減らす唯一に近い道です。

入居者の自転車と、外部の自転車は分けて考える

同じ「放置自転車」でも、持ち主が入居者なら話は契約の中に入ります。賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版)は、階段・廊下等の共用部分に物品を置くことを別表第2に置いており、貸主の書面による承諾があれば可能な行為という整理です(同8条4項)。共用部の私物の扱いは別の記事で詳しく書きます。

外部の第三者なら、契約が使えないぶん、上の3段と遺失物の手続きしかありません。だから最初にやるのが「どちらなのかを確かめること」になります。入居者に一斉に文書を配り、期限を切って自己申告してもらう。名乗り出た分を除いた残りが、外部のものです。共用部の仕事の割り振り方はアパートの草刈り・ゴミ置き場・共用清掃は誰がやるかにまとめています。

今日やることを1つだけ選ぶなら

物件へ行って、停まっている車のナンバーと、置かれている自転車の防犯登録番号を、日付が写る形で撮ってください。請求も、警察への届出も、契約書の見直しも、この1枚がないと始まりません。撮った日から1週間が、遺失物法上の期限にもなります。

そのうえで、駐車区画と駐輪ラックの現物の台数を数えてみてください。戸数に対して足りていないなら、貼り紙を増やしても解決しません。ごみの置き場と同じで、あふれるものには置き場の設計の話が先にあります(ごみ出しのルールが守られないとき)。境界や私道が絡む敷地は、先に線の位置を確かめておくと安全です(私道と境界、越境をいつ確認するか)。

なお、車両の撤去や損害賠償の可否は、敷地の形状や契約の内容で結論が変わります。実際に動かす前に、弁護士や所轄の警察署にご相談ください。

出典

  • 道路交通法2条1項1号(e-Gov 法令検索・2026年8月26日時点)
  • 自動車の保管場所の確保等に関する法律11条・17条(e-Gov 法令検索・2026年8月26日時点)
  • 遺失物法2条5項・4条1項・7条4項・34条・36条、民法240条・709条(e-Gov 法令検索・2026年8月26日時点)
  • 民事訴訟法368条1項、民事訴訟費用等に関する法律 別表第一(e-Gov 法令検索・2026年8月26日時点)
  • さいたま市自転車等放置防止条例(平成13年条例第205号)1条・2条・10条
  • さいたま市「放置自転車に関するQ&A」(2026年4月1日更新)
  • さいたま市「自転車等駐車場の設置基準」(開発行為等に伴う駐車場・駐輪場の設置基準)
  • 国土交通省「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(再改訂版)」令和4年3月
  • 国土交通省「賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版・連帯保証人型)」8条4項・別表第2
  • 日本郵便「内容証明」「書留」ご利用料金

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