入居希望者の家族が本人の代わりに契約書へ署名したら、本人が追認するまで契約は本人に効力を生じません|築古アパートのオーナーが読む民法113条から116条
結論からお伝えすると、入居希望者の家族が「本人の代わりに」賃貸借契約書に署名したとき、代理の権限がなければ、本人が追認するまで、その契約は本人に対して効力を生じません。民法113条1項が定めています。大家は、相当の期間を定めて「追認するかどうか答えてください」と本人に催告でき、期限内に答えがなければ、追認を拒絶したものとみなされます(114条)。
仮の話です。入居希望者の本人が来られず、母親が「息子の代わりに」申込書と賃貸借契約書に署名しました。委任状はありません。鍵はまだ渡していません。このまま進めてよいのか。無権代理の条文を並べます。

113条から116条は、大家に何を認めているか?
- 113条1項:代理権を持たない人が他人の代理人としてした契約は、本人が追認しなければ、本人に対して効力を生じない
- 113条2項:追認や追認の拒絶は、相手方(大家)にしなければ、相手方に対抗できない。ただし、相手方がその事実を知ったときは別
- 114条:相手方は、本人に、相当の期間を定めて追認するかどうかを確答するよう催告できる。期間内に答えがなければ、追認を拒絶したものとみなす
- 115条:本人が追認しない間は、相手方は契約を取り消せる。ただし、契約のときに代理権がないことを知っていたときは取り消せない
- 116条:追認は、別段の意思表示がなければ、契約のときにさかのぼって効力を生じる。ただし、第三者の権利を害することはできない
催告と取消しは、どちらも相手方(大家)の手段ですが、向きが違います。催告は、本人の答えを求める手段です。取消しは、本人が追認しない間に、大家のほうから契約を白紙に戻す手段です。契約のときに、家族に代理権がないと知っていたなら、取消しはできません。委任状を求めなかった、などの事情があるときは、この例外に当たらないかを考える必要があります。
家族に責任を追及できるのか?
代理権がないまま契約をした人(この例では母親)に対しては、117条1項が、本人の追認を得た場合などを除いて、相手方(大家)の選択に従い、履行または損害賠償の責任を負うと定めています。ただし、大家が代理権のないことを知っていたとき、過失によって知らなかったとき(ただし、代理人が自分に代理権がないと知っていたときは、責任を問えます)、代理人が行為能力の制限を受けていたときは、この責任を問えません(2項)。
また、本人が、他人に代理権を与えたと外に示していたときなどには、109条・110条・112条が、本人に責任を負わせる場合を定めています。これは、無権代理とは別の道です。成り立つかどうかは、事情の細かな中身で決まるため、迷うときは弁護士に確認してください。
本人が、すでに住み始めているときはどうなるのか?
条文には、追認の方式は書かれていません。本人が、契約を知ったうえで、家賃を払い続けたり、鍵を受け取ったりしたことが、追認と見られるかどうかは、個別の事情で判断される領域です。大家の側でできるのは、疑いを残さないことです。本人に宛てて、契約の内容を書面で知らせ、追認するかどうかの回答を、日付つきで求めておくと、あとで食い違いません。
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都合の悪いことも書いておきます
- 追認は契約のときにさかのぼります(116条)。ただし、第三者の権利を害することはできません。追認が遅れた間に、別の人が同じ部屋に入居していた、などの場合は、さかのぼりが制限されます
- 催告に期限内の答えがなければ、追認を拒絶したものとみなされます(114条)。契約が成り立つ見込みはなくなるため、次の入居者の募集を止めたままにしないでください
- 本人と直接連絡が取れるかは、署名した家族から聞くだけでなく、本人の側からも確かめてください
今日できること
- 手元の契約書で、署名欄の名前と、実際に署名した人が同じかを確かめる
- 違う人が署名しているなら、委任状の有無と、本人と直接連絡が取れるかを確認する
- 本人に宛てて、契約の内容と回答の期限を書面で知らせ、日付つきで控えを残す
出典
民法109条・110条・112条から117条(e-Gov 法令検索・2026年10月5日時点)。


