家賃が別の名義で振り込まれてきたとき|築古アパートのオーナーが受け取る前に見る3つ

通帳を開いたら、203号室の家賃だけ名字が違っていました。金額は48,000円でぴたりと合っています。摘要欄は「カ)マルヤマコウムテン」。契約者は個人の名前です。

結論からお伝えすると、他人が払った家賃でも、受け取れば賃料の支払いとしては有効に成立します(民法474条1項)。困るのはお金の話ではなく、「誰が住んでいるのか」が1か月分ずれて見えなくなることです。振込名義は、転貸・同居・退去の予兆が最初に表に出る場所でもあります。

家賃の振込名義が契約者と違うときに考えられる3つの理由を、本人の口座替え・同居人の立替え・住人の入れ替わりの順に並べた図

他人が払った家賃は、受け取ってよいのか

民法474条1項は「債務の弁済は、第三者もすることができる」と定めています。原則は、払えます。

ただし2020年4月1日施行の改正で、条文は4つの項に分かれました。オーナーに効くのは2項と3項です。

  • 474条2項:弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは、この限りでない
  • 474条3項:その第三者は、債権者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、債務者の委託を受けて弁済をする場合において、そのことを債権者が知っていたときは、この限りでない
  • 474条4項:債務の性質が第三者の弁済を許さないとき、または当事者が第三者の弁済を禁止し、若しくは制限する旨の意思表示をしたときは適用しない

3項の「債権者」はオーナーのことです。正当な利益のない第三者からの家賃は、オーナーの側から受け取りを断れます。逆に言えば、断らずに受け取り続けると、その状態を認めたように見えていきます。

「正当な利益を有する者」とは誰か

条文には具体名が書かれていません。一般的には、連帯保証人や家賃保証会社のように払わないと自分が不利益を受ける立場の人が当たると説明されます。保証会社からの代位弁済が別名義で入るのは、この形です。

一方で、同居しているだけの交際相手、契約者の勤務先、契約者の親については、事情によって判断が分かれます。ここは断定せず、金額が大きい場合や解約を考える場合は弁護士に確認してください。

名義が違うことが示している3つの可能性

お金より先に見るのは、次の3つのうちどれなのかです。

  1. 契約者本人が、別の口座から払った(法人口座・家族の口座・ネット銀行への切り替え)。いちばん多く、いちばん害がない
  2. 同居人・親族が代わりに払った。契約者の収入が止まっている可能性があります。滞納の前ぶれとして表に出ることがあります
  3. 契約者がもう住んでおらず、別の人が住んでいる。これが民法612条の話になります

3つ目だったときに何が起きるか

民法612条1項は「賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない」と定め、2項で「賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる」としています。

条文だけを読むと、無断転貸はそのまま解除できそうに見えます。ただし一般的には、賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときは解除が認められないと説明されており、実際の裁判では事情が細かく見られます。「名義が違った」の一点だけで解除に進まないでください。

人数の話をどこまで契約で決めておくかは、二人入居とルームシェアを認めるか|築古アパートのオーナーが人数より先に決める3点にまとめています。

受け取る前に、オーナーが3日でできること

順番があります。上から順に、手間が軽いものです。

  1. 入金明細を画像で残す。通帳記帳では摘要欄が省略されることがあり、振込依頼人名はネットバンキングの明細にしか残らない銀行があります。月をまたぐと照会に手数料がかかります
  2. 契約書の「賃料の支払い」条項を読む。474条4項があるので、契約で第三者弁済を制限していれば、その約定が先に効きます。書いていなければ、次の更新で足すかどうかを決める
  3. 契約者本人に、督促ではなく確認として連絡する。「入金は届いています。振込名義が変わっているので、口座を変えられたかどうかだけ教えてください」。滞納していない人に督促の文面を送ると、関係が一度で壊れます

連絡がつかないときの進め方は、家賃滞納の対応は最初の1週間で決まる|築古アパートのオーナーがやる順番と同じ順序で動かせます。滞納していなくても、確認の手順は共通です。

住民票を取れば分かるのではないですか?

分かりません。住民票に載るのは住民登録をしている人だけで、登録せずに住んでいる人は出てきません。賃貸借契約の当事者であることを理由とした第三者請求ができる場合もありますが、同居人の把握には届かないのが実際のところです。

埼玉・千葉県西部・栃木県南部の築古アパートでは、法人が借り上げて社員を住まわせている部屋もあり、その場合は最初から法人名義で入金されます。「法人名で入ってきた=転貸」ではありません。契約書の契約者欄を見れば1分で分かります。法人契約のときに確認しておくことは法人契約で課税標準額を聞かれるのは国税庁がそう書いているからです|築古アパートのオーナーが社宅の申込で確かめる5点に書いています。

他人が払った家賃を受け取る場合と断る場合を、民法474条1項と3項で左右に並べて比べた図

受け取りを断るときの言い方

474条3項で断れるとはいえ、家賃が入ってこなければ滞納が始まります。断るのは、転貸を疑っていて、かつ解除を視野に入れているときだけにしてください。

その場合も、入金を返金して終わりにせず、「誰が住んでいるのかを確認したい」という趣旨を書面で残します。あとから経緯を説明する必要が出たとき、残っている紙がそのまま説明になります。記録の残し方は空室で効いてくるのは固定資産税ではなく3年の線です|築古アパートのオーナーが半年を過ぎた部屋で残す5つの記録と同じ考え方です。

今日やることを1つだけ選ぶなら

直近3か月の入金明細を開いて、振込依頼人名と契約者名を突き合わせてください。金額しか見ていない月があるはずです。ずれている部屋が1つでも見つかったら、その部屋だけ契約書の契約者欄を読み直す。ここまでで、たいてい30分もかかりません。

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