国が引き取った土地は3,008件、断られたのは181件です|築古アパートのオーナーが更地にする前に見る4つ
結論からお伝えすると、相続した土地を国に引き取ってもらう制度で、これまでに国庫へ帰属したのは3,008件です。いっぽう、審査で落とされた件数は却下85件と不承認96件の合わせて181件しかありません。申請5,863件に対して約3%です。「要件が厳しくてまず通らない制度」という言われ方をしますが、数字はそう言っていません。落ちるとしたら、審査より前の段階です。
法務省が令和8年8月21日にこの制度の統計ページを新しく作りました。数字はいずれも令和8年7月31日現在の速報値です(出典:法務省「相続土地国庫帰属制度の統計」)。この記事では、その数字と、根拠になっている条文を並べて、築古アパートのオーナーが自分の土地で使えるかどうかを判断できる形にします。

まず、建物が建っている土地は申請できません
相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(以下、法)の2条3項1号が、「建物の存する土地」は承認申請をすることができないと書いています。1号から5号まで並んでいる「申請そのものができない土地」の、いちばん最初がこれです。
- 1号 建物の存する土地
- 2号 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
- 3号 通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地
- 4号 土壌汚染対策法2条1項の特定有害物質により汚染されている土地
- 5号 境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地
3号の中身は施行令2条にあり、現に通路の用に供されている土地・墓地内の土地・境内地・現に水道用地、用悪水路又はため池の用に供されている土地の4つです。2号の「使用及び収益を目的とする権利」には賃借権が含まれますから、入居者がいるアパートの敷地は、建物があるという理由でも、賃借権があるという理由でも通りません。
つまり、空いた築古アパートの敷地でこの制度を考えるなら、取り壊して、登記も消してからの話になります。取り壊しの側の期限は別に走っているので、順番だけ先に確かめてください。建物を取り壊したら滅失登記は1か月以内ですにまとめてあります。
却下と不承認は、合わせて181件しかありません
令和8年7月31日現在の内訳はこうです。
- 申請件数 5,863件(田・畑2,278件/宅地2,040件/山林893件/その他652件)
- 帰属件数 3,008件(宅地1,115件/農用地964件/森林199件/その他730件)
- 却下 85件/不承認 96件
- 取下げ 1,102件
ここで通説と食い違うところが2つあります。
1つ目。却下の理由の上位は、土地の状態ではなく手続きです。いちばん多いのが「法3条1項及び施行規則3条各号に定める添付書類の提出がなかった」の37件、次が「境界が明らかでない土地(法2条3項5号)」の23件、その次が「現に通路の用に供されている土地(施行令2条1号)」の22件です。建物が建っていたことを理由に却下されたのは、5,863件のうち4件だけでした。ほとんどの人は、そこは分かって出しています。
2つ目。取下げ1,102件のうち571件は「有効活用の見込みが生じた」が理由です。法務省が挙げている例は、自治体や国の機関による土地の有効活用が決定した、隣接地所有者から土地の引き受けの申出があった、農業委員会の調整等により農地として活用される見込みとなった、の3つです。つまり申請の手続きを進めていく過程で、引き取り手のほうが先に見つかったケースが、取下げの半分を超えています。「却下・不承認であることが判明した」を理由とする取下げは392件で、これより少ない数です。

負担金は20万円ではありません。市街化区域の宅地は面積で決まります
承認が下りたら、法10条1項の負担金を納めます。この金額の決め方が施行令5条1項にあり、4つの区分に分かれています。よく「20万円」と紹介されますが、20万円は4号の「前三号に掲げる土地以外の土地」の額です。
市街化区域内(区域区分が定められていない都市計画区域では用途地域が定められている区域)にある宅地は、1号の表で地積に応じて計算します。
- 50平方メートル以下 … 地積×4,070円+208,000円
- 50超100平方メートル以下 … 地積×2,720円+276,000円
- 100超200平方メートル以下 … 地積×2,450円+303,000円
- 200超400平方メートル以下 … 地積×2,250円+343,000円
- 400超800平方メートル以下 … 地積×2,110円+399,000円
- 800平方メートル超 … 地積×2,010円+479,000円
200平方メートルの宅地なら、200×2,450+303,000で793,000円です。同2項で1,000円未満の端数は切り捨てます。さいたま市の市街地にあるアパートの敷地は、たいてい市街化区域です。20万円のつもりで動くと、4倍近い数字が返ってきます。
逆に、市街化区域の外にある宅地は4号に落ちるので20万円です。主に森林として利用されている土地は3号の表で、750平方メートル以下なら地積×59円+210,000円と、宅地よりかなり安く作られています。
手数料と期限は、どこに書いてありますか?
審査手数料は法3条2項が政令に委ね、施行令3条が「承認申請に係る土地の一筆ごとに一万四千円」と定めています。法5条2項も「前項の承認は、土地の一筆ごとに行う」と書いていますから、筆が3つに分かれていれば手数料も42,000円、承認も3回分です。相続した土地が分筆されたままになっていないか、登記事項証明書で先に数えてください。
もう1つ、見落とすと全部やり直しになる期限があります。法10条3項です。
承認申請者が前項に規定する負担金の額の通知を受けた日から三十日以内に、法務省令で定める手続に従い、負担金を納付しないときは、第五条第一項の承認は、その効力を失う。
通知を受けた日から30日で、承認そのものが消えます。審査に何か月もかけたあとに、資金の手当てが30日で間に合わないと最初からになります。負担金の目安は、申請する前に上の表で自分で計算しておけます。
相続していない共有者がいても、申請できます
法2条1項は、申請できる人を「相続等によりその土地の所有権の全部又は一部を取得した者」に限っています。買って手に入れた土地は対象外です。ここまでは知られています。
見落とされやすいのは2項の後半です。共有の土地は共有者の全員が共同して行うときに限り申請できるのですが、そのうえでこう続きます。
この場合においては、同項の規定にかかわらず、その有する共有持分の全部を相続等以外の原因により取得した共有者であっても、相続等により共有持分の全部又は一部を取得した共有者と共同して、承認申請をすることができる。
持分を買って入った共有者も、相続で持分を持っている人と一緒なら申請できます。相続人と第三者が持分を持ち合っている土地は、この2項の後半がないと動かせません。共有の意思決定そのものについては親のアパートを相続した。まず何から手をつけるかもあわせてご覧ください。
承認されない土地の条件は、数字で書いてあります
申請はできても承認されない土地が法5条1項の1号から5号です。このうち崖については、施行令4条1項が「勾配が三十度以上であり、かつ、その高さが五メートル以上」と数字で決めています。「かつ」なので、両方に当たらなければ崖では落ちません。実際、不承認96件のうち崖を理由とするものは7件です。
不承認でいちばん多いのは、法5条1項2号の「土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地」で46件。次が施行令4条3項3号の森林(追加の造林・間伐・保育が必要なもの)で37件です。物が置いてあるかどうかが、いちばん効いています。境界の争いについては私道と境界、越境をいつ確認するかで先に手当てできます。
今日やることを1つだけ選ぶなら
登記事項証明書を開いて、筆の数と地目と市街化区域かどうかの3つを書き出してください。この3つで、手数料(一筆14,000円)と負担金の区分(施行令5条1項の1号から4号のどれか)が決まります。金額が出てから、更地にするかどうかを考える順番になります。
制度の要件に当てはまるかどうかの最終的な判断は、法務局の相談窓口や司法書士・弁護士へご確認ください。一般的には、申請の前に法務局で相談を受けられる仕組みが用意されています。土地の状況ごとの判断はここでは断定できません。
数字の出典は法務省「相続土地国庫帰属制度の統計」(令和8年8月21日/令和8年7月31日現在の速報値)、条文は e-Gov 法令検索で確認した現行の法律・政令です。


