敷地の電柱は、電気事業法で立っているのではありません|築古アパートのオーナーが契約書から確かめる3点
結論からお伝えすると、アパートの敷地に立っている電柱は、電力会社が法律の力で立てたものではありません。電気事業法には、他人の土地に電柱を継続して立てられる規定がありません。あるのは「一時使用」と「通行」と「植物の伐採」だけです。したがって、敷地内の電柱は土地の所有者と電力会社が結んだ契約で立っています。契約がある以上、相手がいて、条件があります。
「昔からあるから」「電力会社のものだから」で止まっている築古アパートは珍しくありません。この記事では、電気事業法の条文と、道路上の電柱に市が徴収している公表単価を並べて、敷地の電柱について何を確かめられるかを整理します。

電気事業法が電力会社に認めているのは「一時使用」までです
電気事業法58条1項は、電気事業者が他人の土地等を利用できる場面を3つに限っています。
- 1号 電線路の工事のために必要な資材若しくは車両の置場、土石の捨場、作業場、架線のためのやぐら又は索道の設置
- 2号 天災、事変その他の非常事態が発生した場合に、緊急に電気を供給するための電線路の設置
- 3号 電気工作物の設置のための測標の設置
しかも柱書に「その土地等の利用を著しく妨げない限度において、これを一時使用することができる」とあり、ただし書は建物その他の工作物については「電線路を支持するために利用する場合に限る」と絞っています。そして58条2項で経済産業大臣の許可が要ります(非常事態で15日以内の一時使用だけが例外)。3項で土地等の所有者と占有者に通知して意見書を提出する機会が与えられ、64条では一時使用が終わったら原状に回復するか、回復しないことで通常生ずる損失を補償して返還する義務があります。
ここに「電柱を立てて置いておく」は入っていません。だから敷地の電柱は、電気事業法ではなく、土地の所有者との契約で立っているという結論になります。先代が結んだ契約書が、どこかにあるはずです。
では、許可なしにできることは何ですか?
3つあります。どれも大家さん側から見ると「断れないこと」なので、先に知っておくほうが揉めません。
1つ目は通行です。60条1項は「電気事業者は、電気事業の用に供する電線路に関する工事又は電線路の維持のため必要があるときは、他人の土地を通行することができる」と書いています。許可も承諾も条文には出てきません。ただし60条2項で「身分を示す証明書を携帯し、関係人の請求があつたときは、これを提示しなければならない」とされています。提示を求めるのは、こちらの権利です。
2つ目は植物の伐採です。61条1項は経済産業大臣の許可を受けて伐採・移植できるとし、2項であらかじめ植物の所有者に通知と定めています。ところが3項に例外があり、電線路への障害を放置すると電線路を著しく損壊して電気の供給に重大な支障を生じ、又は火災その他の災害を発生して公共の安全を阻害するおそれがあると認められるときは、許可を受けないで伐採・移植できます。この場合は事後に経済産業大臣へ届け出て、所有者へ通知することになっています。敷地の樹木が電線に触れている物件は、この3項の側にいます。
3つ目は損失の補償です。62条が、一時使用・立入り・通行・伐採で損失が生じたときは「通常生ずる損失を補償しなければならない」としています。63条1項で、協議ができないか調わないときは都道府県知事の裁定を申請できると定めており、3項で裁定には補償金の額と支払の時期・方法を定めると書かれています。話がつかないときの受け皿が、条文に書いてあります。
設備の調査で立ち入る話は別の条文(57条)です。そちらは4年に1回の電気の調査は、断られたら行われませんにまとめています。
道路の上の電柱には、公表された年額があります
敷地内の電柱には公表単価がありませんが、道路の上の電柱にはあります。比べるための物差しとして使えます。
道路法32条1項1号が「電柱、電線、変圧塔、郵便差出箱、公衆電話所、広告塔その他これらに類する工作物」を道路に設けて継続して使う場合に道路管理者の許可を要すると定め、39条1項が「道路管理者は、道路の占用につき占用料を徴収することができる」、2項でその額と徴収方法は地方公共団体の条例で定めるとしています。
さいたま市道路占用料徴収条例の別表(第3条関係)に載っている額は次のとおりです。
- 第1種電柱 1本につき1年 1,800円
- 第2種電柱 2,800円/第3種電柱 3,700円
- 第1種電話柱 1,600円/第2種電話柱 2,600円/第3種電話柱 3,500円
- その他の柱類 160円
- 共架電線その他上空に設ける線類 長さ1メートルにつき1年 16円
(出典:さいたま市道路占用料徴収条例 別表〔第3条関係〕。同条例は平成13年5月1日条例第259号、別表は令和5年条例第58号までの改正を反映したもの)
電柱の種別は支持する電線の条数で分かれます。公道の電柱1本が年1,800円という数字が公にあるので、敷地内の電柱について電力会社と話すときの起点になります。敷地内の額は個別の契約で決まるので、公表された単価はありません。金額を確かめる方法は、契約書を見るか、電力会社に契約内容を照会するかの2つです。
防災上重要な道路では、新しい電柱を道路に立てられません
ここが、これから起きることです。道路法37条1項は、道路管理者が区域を指定して道路の占用を禁止・制限できる場合を3つ挙げており、その3号が「災害が発生した場合における被害の拡大を防止するために特に必要があると認める場合」です。2項で、あらかじめ警察署長と協議し、3項でその旨を公示するとされています。
さいたま市は、この37条に基づいて、防災上重要な道路で新たな電柱の道路占用を制限しています。平成30年5月1日に1回目、令和5年4月1日に区域を追加、令和7年4月1日にさらに追加という段階を踏んでいます(さいたま市「道路法第37条に基づく新たな電柱の道路占用の制限について」2026年4月1日更新)。対象には国道122号の一部・463号の一部、県道さいたま春日部線・大宮停車場線などが並び、市道も多数指定されています。
道路に立てられない区間で新たに電気を引く必要が出れば、候補は沿道の民有地です。指定された道路に面したアパートを持っているなら、この先「敷地に立てさせてほしい」という話が来る側になります。来てから考えるより、条件を先に決めておくほうが有利です。
敷地の設備は、誰のものかを分けて考える
電柱と支線は電力会社の設備ですが、敷地の中には大家さんの財産である設備も混ざっています。どちらなのかで、修繕も交換も負担する人が変わります。同じ論点はアパートに鉛の給水管が残っていないかで水道管について書かれています。敷地の樹木の側はアパートの落ち葉と剪定枝は家庭ごみに出せないをご覧ください。

今日やることを1つだけ選ぶなら
敷地に立っている電柱と支線を数えて、写真を撮ってください。そのうえで、相続や購入のときに引き継いだ書類の中に「土地使用契約書」や「電柱敷地」と書かれた紙がないかを探します。無ければ、電柱に貼ってある番号札の番号を控えて、電力会社の窓口に契約の有無を照会します。番号札は、電柱を特定する唯一の手がかりです。
移設を希望する場合の可否や費用の負担、契約の内容そのものは、一般的には電力会社との個別の協議になります。契約や補償の法的な扱いについては弁護士へご確認ください。ここでは条文と公表された占用料までにとどめます。
条文は e-Gov 法令検索で確認した現行の電気事業法・道路法、占用料はさいたま市道路占用料徴収条例の別表によります。


