建物だけを売って土地を残すなら、先に決めるのは地代を取るかどうかです|築古アパートのオーナーが読む民法593条と借地借家法
結論からお伝えすると、築古アパートの建物だけを売って、土地は手元に残すことはできます。民法86条1項のとおり土地と建物は別々の不動産で、登記も別だからです。ただし、建物を買った人がその土地を使う権利を、売る側が同時に決めておかないといけません。地代を取るなら借地権(借地借家法2条1号)、取らないなら使用貸借(民法593条)になり、この選び方で、買う人の立場の強さと、親子間なら税金の扱いが大きく変わります。
築45年のアパートを持つ70代の大家が、管理を息子に任せたいと考えたとします。土地は先祖から受け継いだもので手放したくない。そこで「建物だけ息子に売って、家賃は息子が受け取る。土地はそのまま自分の名義で」という形を思いつく。実際、この相談は珍しくありません。決めるべきなのは、建物の値段より先に、土地を使う権利のほうです。

建物だけを売るときは、土地を使う権利も一緒に決めます
建物を買っても、土地を使う権利がなければ、建物は他人の土地の上に置かれているだけです。決め方は大きく2つです。
- 借地権を設定する…借地借家法2条1号の「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」。地代を取る。存続期間は30年(3条、契約でより長くできる)
- 使用貸借にする…民法593条の「無償で使用及び収益をして…返還をする」契約。地代を取らない
抵当権が実行されて土地と建物の持ち主が分かれた場合には、民法388条で地上権が設定されたものとみなされます(法定地上権)。しかしこれは抵当権の実行のときだけの条文で、普通に建物だけを売るときには働きません。
使用貸借にすると、買った側はどれくらい弱いのですか?
使用貸借は借地借家法の「借地権」に当たらないので、借地借家法の保護が及びません。民法の条文だけで見ると、次のとおりです。
- 借主が死亡すると終わる(民法597条3項)。息子が先に亡くなれば、孫は当然には使い続けられない
- 期間も目的も決めていなければ、貸主はいつでも解除できる(598条2項)
- 借地権なら、建物を登記していれば土地の新しい持ち主にも対抗できる(借地借家法10条1項)が、使用貸借にはその定めがない
親子の間なら問題が表に出にくいのですが、相続で土地が兄弟の共有になったときに揉めごとの種になります。共有になった土地の扱いは相続で共有になったアパートは、誰の同意で貸せるのかを見てください。

親子で地代なしにすると、税金はどうなりますか?
国税庁の個別通達「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」(昭和48年)は、建物の所有を目的として使用貸借で土地を借りた場合、その使用権の価額は零として扱うとしています。地代を払わないことで、息子に借地権が贈与されたとは扱わない、ということです。土地の公租公課に相当する金額以下を払っているだけなら、まだ使用貸借に当たるとも書かれています。
そのかわり、同じ通達の3は、使用貸借の土地を相続したときは、上の建物が貸アパートであっても、土地は自用のもの(更地と同じ)として評価するとしています。地代を払って借地にすると、権利金の慣行がある地域では権利金や借地権の贈与の問題が出てきます。どちらが得かは、地域と金額で変わります。名義を移すときに先に決まる「原因」の話は親子で名義を移すとき、先に決まるのは金額ではなく「原因」ですにあります。
入居者との契約は、建物と一緒に移ります
入居者は建物の賃借人です。民法605条の2第1項により、対抗要件を備えた賃貸借がある建物が譲渡されると、賃貸人の地位は建物を買った人に移ります。家賃の振込先の変更と敷金の引継ぎを、売買の日に合わせて入居者へ知らせます。借地の上のアパートの相続については借地のアパートを相続するのに、地主の承諾は要りませんも参考になります。
都合の悪いことも書いておきます
建物の売値が低すぎれば贈与税の問題が、土地に抵当権が付いていれば金融機関の承諾の問題が出ます。地代の額、権利金の要否、相続税評価への影響は、個別に計算しないと決まりません。税理士と司法書士に、建物の売買と土地の貸し方をセットで見てもらってください。
今日やることを1つだけ選ぶなら
建物だけを渡すとしたら、土地の地代を取るか取らないかを、まず家族の中で1つに決めてください。それが決まれば、借地か使用貸借か、契約書の形が決まります。
出典
- 民法86条・388条・593条・597条・598条・605条の2、借地借家法2条・3条・10条(e-Gov 法令API・2026年10月8日時点)
- 国税庁 個別通達「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」


