相続で共有になったアパートは、誰の同意で貸せるのか|築古アパートのオーナーが民法252条で引く3本の線
結論からお伝えすると、相続で共有になったアパートを貸すこと自体は、共有者全員の同意がなくても決められます。民法252条1項が「共有物の管理に関する事項は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する」と定めているためです。ただし、その過半数で設定できる建物の賃借権は「3年を超えないもの」に限られます(同条4項3号)。相続で共有になった築古アパートで、いちばん引っかかるのがこの線です。
退去の連絡が入り、募集をかけ、次の入居者が決まりそうになったところで「共有者の方全員の署名をいただけますか」と言われる。兄は遠方、妹とは何年も連絡が取れていない。相続でアパートを引き継いだあと、ここで手が止まることがあります。条文がどこで線を引いているのかを、順に見ていきます。

相続した時点で、アパートは相続人全員の共有になっている
民法898条1項は「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する」と定めています。遺産分割の話し合いが終わっていなくても、共有はもう始まっています。
持分の割合は、同条2項により民法900条から902条までで算定した相続分によります。900条の法定相続分は、子と配偶者が相続人なら各2分の1、子が数人いればその2分の1をさらに等分する形です。
- 子3人だけが相続人 … 各3分の1
- 配偶者と子2人 … 配偶者2分の1、子は各4分の1
- 配偶者と兄弟姉妹 … 配偶者4分の3、兄弟姉妹で4分の1
過半数は「頭数」ではなく「持分の価格」で数えます。3人で分けたつもりでも、配偶者が2分の1を持っていれば、その1人だけでは過半数に届きません。逆に、その1人ともう1人が同じ意見なら過半数です。持分の割り方そのものはアパートを夫婦の共有名義にすると何が起きるか|2分の1ずつでは過半数になりませんで詳しく扱っています。
「貸す」は管理、「大きく変える」は変更
民法は、共有物にすることを3つに分けています。
- 保存行為(252条5項)… 各共有者が単独でできる。雨漏りの応急処置や、割れたガラスの交換がここに入ります
- 管理に関する事項(252条1項)… 持分の価格の過半数で決める。募集条件を決める、賃貸借契約を結ぶ、管理会社を選ぶ
- 変更(251条1項)… 共有者全員の同意が要る。売却や取り壊しがここに入ります
251条1項には「その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く」というかっこ書きがあり、著しい変更を伴わないものは管理の側、つまり過半数で決められる扱いです。ただしどこからが「著しい変更」に当たるかは、工事の中身によって判断が分かれます。間取りを触る規模の改修を考えているなら、着工前に弁護士や司法書士に確認してください。
過半数で決められるのは3年まで
民法252条4項は、前3項の規定で設定できる賃借権等の期間に上限を置いています。
- 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林 … 10年
- それ以外の土地 … 5年
- 建物 … 3年
- 動産 … 6か月
アパートの部屋を貸すのは3号の「建物の賃借権等」です。過半数だけで決められるのは、3年を超えない賃貸借に限られます。
2年契約なら3年に収まるのではないか
ここが読み違えやすいところです。普通の賃貸借契約は、借地借家法26条1項により、期間満了の1年前から6か月前までに更新しない旨の通知をしなければ「従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする」となります。更新後は期間の定めのない賃貸借になり、貸主の側から終わらせるには正当事由が必要です。2年契約だから3年に収まる、と単純には言い切れないのはこのためです。
更新が起きない形にするなら、借地借家法38条1項の定期建物賃貸借を3年以内で組む方法があります。ただし38条3項の事前説明の書面を渡していないと、更新がない旨の定めが無効になります(同条5項)。手続きの並びは定期借家は築古アパートのどこで使えるか|オーナーが外せない手続きと向く場面にまとめています。

連絡が取れない共有者がいるとき
民法252条2項は、次の2つの場合に、裁判所の裁判でその共有者以外の持分の過半数によって管理を決められると定めています。
- 他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき(1号)
- 相当の期間を定めて賛否を明らかにすべき旨を催告したのに、その期間内に賛否を明らかにしないとき(2号)
2号は「所在は分かるが、返事をしない」共有者に効きます。まず期間を切って書面で催告する、という手順がここから読み取れます。
所在が分からない共有者の持分そのものを取得する道もあります(262条の2第1項)。ただしその持分が相続財産に属する場合、相続開始の時から10年を経過していないと、裁判所はこの裁判をすることができません(同条3項)。相続から10年のあいだは、遺産分割か、上の252条2項の道を通ることになります。
共有者の1人がその部屋に住んでいるとき
2021年の改正で、249条2項に「共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う」という規定が入りました。3項では、使用する共有者に善良な管理者の注意義務が課されています。
相続人の1人が空室に住んでいるなら、持分を超える分の対価を他の共有者へ払う話になります。家賃として受け取る形にするのか、遺産分割のときに精算するのかは、早い段階で決めておくほうが後が楽です。相続後の3か月の動かし方は相続した築古アパートを短期間で立て直す進め方|オーナーが最初の3か月でやることを参照してください。
どうしてもまとまらないとき
民法258条1項は、分割の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、裁判所に分割を請求できると定めています。2項は現物分割と、共有者に債務を負担させて他の共有者の持分を取得させる方法(賠償分割)を挙げ、それができないときは競売を命ずることができるとしています(3項)。
家賃の取り分をどう分けるかは相続したアパートの家賃は誰のものか|遺産分割を待たずに決まっていますで扱っています。親が元気なうちに何を確かめておくかは親の築古アパートを元気なうちに確認する5つのこと|住所変更登記の義務化が2026年4月に始まったにまとめました。
今日やることを1つだけ選ぶなら
登記事項証明書を取り、いま誰が何分の何を持っているかを紙で確かめること。過半数の計算は、そこからしか始まりません。そのうえで、次の契約を3年以内に収められるか、収められないなら誰の同意が必要かを、契約の前に整理しておきます。
条文の引用は e-Gov 法令検索の民法・借地借家法(2026年9月5日時点)によります。どこからが「変更」に当たるか、普通の賃貸借契約が252条4項の枠に収まるかは事案によって判断が分かれる論点です。契約を結ぶ前に、弁護士や司法書士に確認してください。


