借地のアパートを相続するのに、地主の承諾は要りません|築古オーナーが9月15日の地価発表より先に見る5点

相続の話が出たとき、地主さんから最初に来る連絡が「名義が変わるなら、承諾料をいただくことになります」だった。あるいは仲介会社から「借地だと売るのが難しいですよ」と言われて、そこで手が止まった。父や祖父の代から借りている土地の上にアパートが建っている、という物件では、この2つがほぼ必ず出てきます。

結論からお伝えすると、相続で借地権を引き継ぐのに地主の承諾は要りません。承諾料を払う義務も、条文からは出てきません。承諾が要るのは「譲渡」のときで、相続はそこに当たらないからです。そして、古い借地はいまの借地借家法ではなく、廃止された旧借地法の扱いが残っていることがあります。ここを間違えると、期間の数え方から全部ずれます。

借地のアパートを相続したときに、まず見る5つのことを並べた図。契約書の日付を見る、承諾は要らない、建物の登記を移す、地代の話に備える、借地権割合を調べる。

まず「これは借地権か」を確かめます

借地借家法第2条第1号は、借地権をこう定義しています。

「借地権 建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいう」

大事なのは「建物の所有を目的とする」の部分です。資材置場、青空駐車場、家庭菜園として借りている土地は、建物を建てる目的ではないので借地権になりません。借地借家法の保護が一切かからず、民法の賃貸借だけで動きます。アパートが建っているなら、まず間違いなく借地権です。

なお、同じ「借地権」という言葉でも、相続税の世界では5種類に分けられます。国税庁のタックスアンサーNo.4611は、旧借地法・借地借家法による普通の借地権と、第22条の定期借地権、第23条の事業用定期借地権等、第24条の建物譲渡特約付借地権、第25条の一時使用目的の借地権を並べ、評価の方法を分けています。昭和や平成初期から続いているアパートの敷地は、ほぼ1つ目です。

相続に承諾が要らないのは、民法第896条があるからです

賃借権の譲渡と転貸を縛っているのは民法第612条第1項です。

「賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない」

一方、相続については民法第896条本文がこう定めています。

「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」

相続は、当事者が合意して権利を移す「譲渡」ではなく、死亡によって当然に、権利も義務もまとめて引き継がれる仕組みです。だから第612条の出番がありません。承諾がなくても借地権は相続人のものになり、地主が「承諾しない」と言っても効き目がありません。

都合の悪いことも書きます。承諾料を払ってはいけない、という話ではありません。名義書換の実務として支払う例は現実にありますが、それは合意であって義務ではない、という位置づけです。「払わないと更新できない」と言われたら、そこは分けて考えてください。相続人が複数いる場合の意思決定は相続で共有になったアパートは、誰の同意で貸せるのか|築古アパートのオーナーが民法252条で引く3本の線にまとめています。

売るときは、承諾が要ります

相続と売却は扱いが逆になります。建物を第三者に売れば、敷地の賃借権も一緒に移るので、これは第612条の譲渡です。

地主が承諾しないときの逃げ道が借地借家法第19条第1項です。「借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず……承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる」——いわゆる借地非訟です。裁判所は第19条第2項で、残存期間・従前の経過・譲渡の必要性その他一切の事情を考慮し、第19条第6項で原則として鑑定委員会の意見を聴きます。

ここには地主側の切り返しもあります。第19条第3項で、地主が「自分が建物と賃借権を買い取る」と申し立てれば、裁判所は相当の対価を定めてそれを命じることができます。競売で建物を取得した第三者にも同じ道があり、第20条第3項で申立ては代金支払後2か月以内と期限が切られています。

相続で引き継ぐときと第三者へ売るときを左右に並べた図。左は承諾が要らず、承諾料を払う義務も条文になく、民法896条で当然に承継する。右は民法612条1項の譲渡に当たり、承諾がないと解除の理由になり、承諾されなければ裁判所へ申し立てる。

古い借地は、いまの借地借家法で読めないことがあります

ここが一番の落とし穴です。借地借家法の附則第6条は、こう書いています。

「この法律の施行前に設定された借地権に係る契約の更新に関しては、なお従前の例による」

国土交通省の「定期借地権の解説」によれば、借地借家法は平成3年10月に公布され、翌平成4年8月に施行されました。つまり平成4年8月より前に設定された借地権は、更新のルールが廃止された旧借地法のまま動いています。「借地権の存続期間は30年」と定める第3条は、そのまま当てはまりません。

従前の例によるとされているのは、更新だけではありません。

  • 附則第5条……建物の朽廃による借地権の消滅は、なお従前の例による
  • 附則第7条第1項……建物の滅失後の再築による期間の延長も、なお従前の例による
  • 附則第7条第2項……更新後の滅失による解約を定めた第8条は、施行前の借地権には適用しない
  • 附則第9条第1項……建物買取請求で裁判所が代金の支払に期限を許与できる第13条第2項は、施行前の借地権には適用しない

建物が古くなって自然に使えなくなること(朽廃)で借地権が消える、という考え方は、いまの法律にはありません。昭和築のアパートで、旧法の借地。この組み合わせのときだけ出てくる論点です。契約書の日付を先に見てください。

逆に、施行前の借地権にも今の法律が及ぶものもあります。附則第4条が「この法律の規定は、この附則に特別の定めがある場合を除き、この法律の施行前に生じた事項にも適用する」としているためです。地代の増減請求(第11条)や、譲渡の代諾許可(第19条)は、古い借地でも使えます。

9月15日に地価の発表がありました。地代の話が来る局面です

2026年9月15日、埼玉県が令和8年度地価調査の結果を公表しました。基準日は令和8年7月1日、対象は63市町村832地点です。用途別の平均変動率は次のとおりで、かっこ内が前年度です。

  • 住宅地 …… 1.6%(1.5%)
  • 商業地 …… 3.3%(3.0%)
  • 工業地 …… 2.8%(2.7%)

住宅地と商業地は5年連続、工業地は13年連続の上昇です。個別地点では、前年度からの上昇地点数が住宅地で394地点から406地点に増えました。同じ日に国土交通省も全国の結果を公表しており、全用途平均・住宅地・商業地のいずれも5年連続の上昇と発表しています。

これがなぜ借地の話に効くのか。借地借家法第11条第1項が、地代を増減できる理由として「土地の価格の上昇若しくは低下」を条文にそのまま書いているからです。

「地代又は土地の借賃が、土地に対する租税その他の公課の増減により、土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となつたときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって地代等の額の増減を請求することができる」

地価の発表は、地主が増額を言い出すきっかけとして毎年使われます。ただし、言われたらその額を払わなければならない、ということではありません。第11条第2項がこう定めています。

「地代等の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の地代等を支払うことをもって足りる」

つまり協議中は、こちらが相当と考える額(通常は従前の額)を払い続けてよいということです。払わずに止めると債務不履行になりますが、金額で折り合わないことだけを理由に契約を切られる形にはなりません。ただし、裁判で不足が確定したときは、その不足額に年1割の利息が付きます。長く争うほど利息が乗るので、放置はおすすめしません。

相続税では、土地の全部を数えるわけではありません

借地権は相続税・贈与税の課税対象です。国税庁タックスアンサーNo.4611によれば、借地権の価額は、その宅地の自用地としての価額に借地権割合を乗じて求めます。借地権割合は「借地事情が似ている地域ごとに定められており、路線価図や評価倍率表に表示されて」います。

裏返すと、地主側(貸宅地)は自用地としての価額から、その借地権割合ぶんを引いた額で評価されます(タックスアンサーNo.4613)。同じページには、「借地権の取引慣行がないと認められる地域にある貸宅地の価額を評価する場合には、借地権割合を20パーセントとして計算します」とも書かれています。

更地を1つ相続するのと、借地の上のアパートを相続するのとでは、評価の組み立てが違います。建物は自分のもの、土地は借地権という財産、という2階建てで見ることになります。具体的な評価額と申告の要否は、相続に詳しい税理士に必ず確認してください。

対抗できるかどうかは、建物の登記で決まります

借地権の登記がされている例はほとんどありません。それでも守られるのは、借地借家法第10条第1項があるからです。

「借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる」

土地が売られて地主が変わっても、建物の登記があれば新しい地主に借地権を主張できます。逆にいえば、建物の登記名義が亡くなった方のままだと、この条文の形が崩れます。相続したら、建物の相続登記を先に済ませてください。建物が滅失したときの扱いは建物を取り壊したら滅失登記は1か月以内です|築古アパートのオーナーが過料と1月1日で見る2つの日付に書きました。生前にやっておくことは親の築古アパートを元気なうちに確認する5つのこと|住所変更登記の義務化が2026年4月に始まったにまとめています。

なお、借地借家法第9条は「この節の規定に反する特約で借地権者に不利なものは、無効とする」と定めています。古い契約書に不利な条項が書かれていても、それだけで効力が決まるわけではありません。法律の適用や契約の有効性は事情によって変わるので、条項の効き方は弁護士に確認してください。

今日やることを1つだけ選ぶなら

借地契約書の日付だけ、先に見てください。平成4年8月より前なら、更新・朽廃・再築のルールは旧法のままです。あとの話は全部そこから分岐します。

契約書が見つからないなら、建物の登記事項証明書を1通取る。建物の新築年月日が分かれば、借地がいつ始まったかの当たりがつきます。埼玉・千葉県西部・栃木県南部の法務局なら、オンライン請求で郵送してもらえます。売ることまで考えているなら、先に読むのは築後20〜25年で価値ゼロは、国が改めるよう求めた慣行です|築古アパートのオーナーが売れないときに開く2つの資料です。

出典

  • 借地借家法(平成3年法律第90号)第2条第1号、第3条、第9条、第10条第1項、第11条第1項・第2項、第13条、第19条、第20条、附則第4条・第5条・第6条・第7条・第9条。e-Gov法令検索・2026年9月16日時点
  • 民法(明治29年法律第89号)第612条第1項、第896条。e-Gov法令検索・2026年9月16日時点
  • 国土交通省「定期借地権の解説」(借地借家法の公布と施行の時期)・2026年9月16日閲覧
  • 埼玉県「令和8年度地価調査について ― 住宅地・商業地は5年連続、工業地は13年連続上昇 ―」2026年9月15日発表
  • 国土交通省「全国の地価動向は全用途平均で5年連続上昇 ~令和8年都道府県地価調査~」令和8年9月15日
  • 国税庁タックスアンサーNo.4611「借地権の評価」、No.4613「貸宅地の評価」・2026年9月16日閲覧

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