買取のとき、宅建業法のいわゆる八種制限は働きません|築古アパートのオーナーが仲介と比べる3つの物差し

結論からお伝えすると、業者に直接買い取ってもらう「買取」では、宅地建物取引業法のいわゆる八種制限は1つも働きません。クーリング・オフも、違約金2割の上限も、契約不適合責任を引渡しから2年以上にする決まりも、すべて業者が「自ら売主となる」場合の規定だからです。買取では売主はオーナー自身なので、そもそも適用の場面に入りません。買取と仲介は、値段と早さで比べる前に、ここを分けて見る必要があります。

「買取なら3週間で決済できます。仲介なら3か月はみてください」。築古アパートや古い戸建の売却を相談すると、この2つを並べて示されることがあります。差額が数百万円あるとき、どちらが得かという計算だけで決めてしまうと、後から残る責任の重さが視界から抜けます。

買取と仲介は、業者の立ち位置が違う

  • 買取 … 売主はオーナー、買主は宅建業者。当事者どうしの売買です
  • 仲介(媒介) … 売主はオーナー、買主は別の個人や法人。業者は間に立って媒介します

宅建業法は、業者と一般の人が売買するとき、業者が売主になる側だけを重く規制しています。78条2項は「第33条の2及び第37条の2から第43条までの規定は、宅地建物取引業者相互間の取引については、適用しない」と定め、各条はいずれも「宅地建物取引業者が自ら売主となる」場合を対象にしています。

買取と仲介の違いを左右で比べた図解。買取は八種制限が働かず不適合責任を免責でき決済で関係が終わるが価格は下がる。仲介は買主が個人になりやすく引渡し後も責任が残り、報酬の上限は告示で決まり期限が契約書に三つある

働かない規定を、具体的に並べる

買取ではオーナーが売主なので、次の規定はどれも出番がありません。

  • 33条の2 … 自己の所有に属しない宅地建物の売買契約の制限
  • 37条の2 … 事務所等以外の場所でした買受けの申込みの撤回。告げられた日から起算して8日
  • 38条 … 損害賠償額の予定と違約金の合算が代金の10分の2を超える定めの禁止
  • 39条 … 手付は代金の10分の2まで。受領した手付は性質を問わず解約手付になる
  • 40条 … 契約不適合の担保責任について、民法566条の期間を引渡しの日から2年以上とする場合を除き、買主に不利な特約を禁止
  • 41条・41条の2 … 手付金等の保全措置

これらは買主を守る規定です。買取でオーナーが立つのは売主の側なので、守られる対象ではありません。「相手が宅建業者だから安心」という理解は、この点では成り立ちません。

では買取に価値はないのか

逆です。売主に有利に働く面が、はっきりあります。40条の特約制限が及ばないため、契約不適合の責任を負わないという特約を結べます。個人の買主に仲介で売ると、引渡しの後に雨漏りやシロアリが出て連絡が来る、という展開が起こり得ます。買取でその責任を切っておけば、決済で関係が終わります。

ただし民法572条により、知りながら告げなかった事実については、免責の特約があっても責任を免れません。不具合を隠して免責特約を付ける、という使い方はできないということです。買取の本当の価値は、値段ではなく「引渡しの後に何も残らないこと」にあります。その分だけ価格が下がる、と読むほうが実態に近いはずです。

仲介を選ぶなら、契約書に期限が3つ書いてある

媒介契約を結ぶと、宅建業法34条の2が業者に次の義務を課します。

  1. 専任媒介契約の有効期間は3か月を超えられない(3項)。更新もその時から3か月まで(4項)
  2. 指定流通機構(レインズ)への登録は、専任媒介なら締結の日から7日以内、専属専任媒介なら5日以内(5項、施行規則15条の10第1項)。この期間の計算に休業日数は算入しません(同条2項)
  3. 業務の処理状況の報告は、専任媒介なら2週間に1回以上、専属専任媒介なら1週間に1回以上(9項)。加えて、申込みがあったときは遅滞なく報告する義務があります(8項)

そして10項が「これらの規定に反する特約は、無効とする」と定めています。「報告は月1回で」と契約書に書いてあっても、その部分は効きません。報告の求め方は空室の報告を管理会社に求める頻度|賃貸の募集に法律上の報告義務はありませんと読み比べると、売買と賃貸で扱いが違うことが分かります。

仲介契約にある3つの期限の図解。専任媒介は3か月まで、レインズ登録は7日以内、報告は2週間に1回以上で、いずれも反する特約は無効になる

2025年1月1日から、レインズに「申込みが入っているか」が載る

宅建業法施行規則15条の11は、レインズへの登録事項を定めた条文です。2024年12月31日時点では3つの号しかありませんでしたが、2025年1月1日から「当該宅地又は建物の取引の申込みの受付に関する状況」が2号として加わりました。e-Gov 法令検索の時点指定で両日を突き合わせると、この日を境に条文が変わっていることが確認できます。

売り出したのに紹介が回ってこない、という状況を外から見えるようにするための追加です。専任で預けているなら、登録証明書とあわせて、この欄がどうなっているかを聞ける立場にあります。

手数料の上限は「3%+6万円」とは書かれていない

報酬の上限は、昭和45年建設省告示第1552号(最終改正 令和6年6月21日国土交通省告示第949号)が定めています。第二の表は、代金を区分して割合を掛け、合計する形です。

  • 200万円以下の金額 … 100分の5.5
  • 200万円を超え400万円以下の金額 … 100分の4.4
  • 400万円を超える金額 … 100分の3.3

この割合には消費税等相当額が含まれています。よく使われる「3%+6万円」は告示の文言ではなく、400万円を超える物件でこの区分計算と同じ額になる便法です(税抜きの3%+6万円に1.1を掛けると、3.3%+6.6万円になります)。

もう1つ、築古の物件で効くのが第七の特例です。代金が800万円以下の「低廉な空家等」の媒介では、区分計算で出た額を超えて報酬を受けられ、その上限は30万円の1.1倍、つまり33万円です。500万円の戸建なら区分計算では23万1,000円ですが、この特例により33万円まで請求され得ます。使用の状態は問われないので、貸している物件でも代金が800万円以下なら該当します。

3つの物差しで並べる

  1. 手取り … 買取価格そのものと、仲介価格から報酬を引いた額を並べる
  2. 期間 … 決済までの週数。専任なら3か月という区切りが契約書にある
  3. 引渡し後に残る責任 … 免責特約を結べるか。ここが買取の中心にある価値

満室にしてから売るか空室のまま売るかは築古アパートを売るなら満室にしてからか空室のままか|オーナーが決める順番で、再建築不可の物件の出口は再建築不可の物件をどう扱うか|オーナーが貸す・売る・持ち続けるを決める順番で扱っています。

今日やることを1つだけ選ぶなら

買取の提示額を聞くときに、契約不適合責任をどう扱う契約になるのかを同時に聞くこと。免責なのか、期間を切るのか。ここが決まらないと、仲介の価格と並べても比較になりません。34条の2第2項は、価額について意見を述べるときはその根拠を明らかにしなければならないと定めています。査定額の根拠を求めるのは、法律が予定している行為です。

条文は e-Gov 法令検索の宅地建物取引業法・同施行規則・民法(2026年9月5日時点)、報酬額は上記の告示によります。個別の契約条項が有効かどうかは事案によって判断が分かれるため、署名の前に弁護士や、契約に関わっていない宅建士へ確認してください。

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