売買の引渡しの前に生じた家賃は、売主のものです|築古アパートのオーナーが読む民法575条

結論からお伝えすると、築古アパートを売買するとき、引渡しの前に入った家賃は売主のものです。民法575条1項は、まだ引き渡されていない売買の目的物が生んだ果実は売主に帰属する、と定めています。家賃は、物を使わせた対価として受け取るお金なので、民法88条2項の「法定果実」にあたります。買主のものになるのは、引渡しの日からです。ただし、引渡しの日の当日をどちらの分にするかは、条文には書かれていません。売買契約書の精算の欄で決める部分です。

仮の話です。月6万円の部屋があり、4月分の家賃が3月末に前払いで売主の口座へ入っていました。売買の引渡しは4月21日で、この日から買主の分とします。4月21日から30日までの10日分は買主が受け取るべき家賃なので、売主は買主へ、6万円の30分の10にあたる2万円を渡すことになります(30日で割る形の計算です)。決済の当日に行う家賃の精算は、この作業のことです。

575条は、何を決めているか?

  • 575条1項:まだ引き渡されていない売買の目的物が果実を生じたときは、その果実は売主に帰属する
  • 575条2項:買主は、引渡しの日から、代金の利息を支払う義務を負う。ただし、代金の支払について期限があるときは、その期限が到来するまでは、利息を支払うことを要しない
  • 88条2項:物の使用の対価として受けるべき金銭その他の物を法定果実とする(家賃はここに入る)
  • 89条2項:法定果実は、これを収取する権利の存続期間に応じて、日割計算によりこれを取得する

575条の1項と2項は対になっています。引渡しの前は、売主が家賃を取り、買主は代金の利息を払わない。引渡しの日からは、買主が家賃を取り、代金の利息を払う。分かれ目は、所有権の登記が移った日ではなく、引渡しの日です。売買契約を結んだ日から引渡しの日までのあいだも、家賃は売主に入ります。

引渡しの前の家賃を、民法88条・89条・575条・605条の2で整理した図

家賃の精算で、先に決めておく4つ

条文が決めているのは「引渡しの前は売主」という方向だけです。実際の精算額を出すには、次の4つを契約書に書いておく必要があります。

  1. 引渡しの日の当日は、どちらの分か:条文は「引渡しの日から」と書くだけで、当日の家賃を売主と買主のどちらが取るかは決めていません。売主の分を「引渡しの日の前日まで」とする形がよく使われますが、これは契約書で決める約束です
  2. 日割りの割り方:89条2項は「日割計算」とだけ書いています。その月の実日数で割るのか、30日で割るのかは書いていません。割り方の違いと端数の決め方は、家賃の1円未満を切り捨てる法律は、民間には届きません|築古アパートのオーナーが端数を決める前に読む5か条にまとめています
  3. 家賃を前払いでもらっているか、後払いか:当月分を前月末にもらう契約なら、決済の時点で売主の手元に買主の分が入っています。翌月払いなら、決済のあとに売主の分が買主の口座へ入ります。どちらの向きで渡すのかを、精算書に書きます
  4. 敷金の扱い:賃貸人の地位が買主へ移ると、敷金を返す義務は買主が引き継ぎます(605条の2第4項)。ところが、敷金そのものは売主が預かったままです。売主から買主へ、いくら渡すのかが精算書に載っているかを見ます。敷金の返還義務の所在は、敷金は誰が預かっているのか|返す義務を負うのは、預かった人ではありませんで詳しく書いています
引渡しの前と後で、家賃と代金の利息がどう分かれるかを比べた図

登記が済む前の家賃は、入居者が誰に払うのか?

決済の日に引渡しが済んでも、所有権の移転登記が法務局で完了するまでには、数日かかることがあります。605条の2第3項は、賃貸人の地位が移ったことは、所有権の移転登記をしなければ賃借人に対抗できない、と定めています。

つまり、登記が完了するまで、入居者は買主を賃貸人として扱わなくてもよい、と読めます。入居者が引き続き売主の口座へ家賃を払ったときは、その家賃は引渡しの日以降の分でも、いったん売主に入ります。この分を売主から買主へ渡す決まりを、精算書に書いておけば、登記のずれが家賃のずれにはなりません。入居者への案内(家賃の振込先がいつから変わるか)は、決済の前に文面を決めておきます。賃貸人の地位の移転と登記の関係は、オーナーチェンジで売るときの注意点|入居者の承諾より先に必要なのは登記に書いてあります。

滞納している家賃は、誰のものか?

引渡しの前の月から滞納が続いている部屋があるとき、その滞納分を売主が取り立てるのか、買主に引き継ぐのか。575条は果実の帰属を決める条文で、この問いには答えていません。売主が自分で回収するのか、買主に任せるのか、金額をどう扱うのかを、売買契約書の精算の欄に1行でも書いておかないと、決済のあとに、入居者への請求が二重になったり、どちらも請求しなかったりします。

都合の悪いことも書いておきます

  • 575条は、一般には、契約で別の精算方法を決めれば、その定めに従うと考えられています。条文の読み方より、手元の売買契約書の精算条項が先です
  • 引渡しの日と決済の日が別の日になる契約もあります。そのときの基準日は、条文ではなく、契約書の定義で決まります
  • 家賃収入を誰の収入として、どの年に計上するかは、税務の話です。税務署か税理士に確かめてください
  • 固定資産税の日割り精算は、法律上の義務ではなく、契約で決める約束です。この点は、上のオーナーチェンジの記事に書いてあります

今日できること

  1. 売買契約書の「精算」の欄を開き、引渡しの日の前後で家賃をどう分けると書いてあるかを確かめる
  2. 入居者ごとに、家賃が前払いか後払いか、いつ入金されるかを一覧にする
  3. 敷金の預かり残高を、入居者ごとに書き出して、精算書の金額と合わせる

出典

民法88条・89条・575条・605条の2・622条の2(e-Gov 法令検索・2026年10月4日時点)。

Follow me!