家賃の1円未満を切り捨てる法律は、民間には届きません|築古アパートのオーナーが端数を決める前に読む5か条
結論からお伝えすると、家賃の1円未満を切り捨てる決まりは、国や自治体の債権にしかありません。民間の賃貸借にその法律は及ばないので、端数をどう扱うかは大家さんと入居者が契約で決めるほかありません。「常識でこうなっているはず」が、いちばん危ないところです。この記事では、端数を決める前に読んでおきたい条文を5つ並べます。
通帳に「45,000」と「44,800」が交互に並んでいた
家賃を45,800円に設定した部屋がありました。募集のときに「45,000円では手取りが足りない、46,000円では隣より高く見える」と考えて、その間に置いた数字です。
半年後、通帳を見ると入金額が揃っていません。45,800円の月と、45,000円の月が混ざっている。入居者に確認すると、振込のたびに金額を打ち込み直すのが面倒で、あるときから「45,000」で登録したままになっていた、という話でした。差は毎月800円。半年で4,800円です。
ここで大家さんが最初に迷うのは、金額の大小ではありません。「この800円は、いつの家賃の不足なのか」です。督促するにも、まずそこが決まらないと書けません。

1円未満を切り捨てる法律は、誰に向けて書かれているか
端数の話になると「1円未満は切り捨てるものだ」という言い方をよく聞きます。これには実際に法律があります。国等の債権債務等の金額の端数計算に関する法律(昭和25年法律第61号)です。
ただし、その1条を読むと対象がはっきり書かれています。
国、沖縄振興開発金融公庫、地方公共団体及び政令で指定する公共組合(中略)の債権若しくは債務の金額又は国の組織相互間の受払金等についての端数計算は、この法律の定めるところによる。(同法1条1項)
つまりこの法律が縛っているのは、国・地方公共団体・沖縄振興開発金融公庫・政令で指定された公共組合の債権と債務だけです。大家さんと入居者のあいだの家賃債権は、ここに1文字も出てきません。2条の「確定金額に一円未満の端数があるときは、その端数金額を切り捨てる」も、同じ範囲の話です。
切り捨てても構わない、という話ではありません。切り捨てる根拠が法律にはないので、契約に書いていなければ根拠がない、ということです。
国が分割で受け取るときは、端数を最初に寄せる
同じ法律の3条は、分割払いの端数の置き場所を決めています。
その履行期限ごとの分割金額に一円未満の端数があるとき、又はその分割金額の全額が一円未満であるときは、その端数金額又は分割金額は、すべて最初の履行期限に係る分割金額に合算するものとする。(同法3条)
端数は最後ではなく最初の回に乗せる、と書いてあります。賃貸の実務では、日割りの端数や更新料の分割を「最後の月で調整します」と説明することが多いのですが、国のやり方はその逆です。どちらが正しいという話ではなく、民間には決まりがないので、どちらにするかを先に書いておく必要があるという意味で読んでください。
家賃に消費税の端数が出ない理由は、契約書のほうにある
小売や飲食の値付けでは、端数の悩みの半分は消費税から生まれます。賃貸住宅にはそれがありません。消費税法6条1項が「別表第二に掲げるものには、消費税を課さない」と定め、その別表第二の13号に住宅の貸付けが入っているためです。
住宅(人の居住の用に供する家屋又は家屋のうち人の居住の用に供する部分をいう。)の貸付け(当該貸付けに係る契約において人の居住の用に供することが明らかにされている場合(中略)に限るものとし、一時的に使用させる場合その他の政令で定める場合を除く。)(消費税法別表第二13号)
ここで見落とされやすいのが、かっこ書きです。非課税になるのは「当該貸付けに係る契約において人の居住の用に供することが明らかにされている場合」に限ると書いてあります。建物が住宅であれば自動的に非課税、とは書かれていません。
だから端数を考えるときの入口は、次の2つに分かれます。
- 居住用と契約書に明らかにされている家賃……非課税。税込か税抜かという議論がそもそも起きないので、端数は大家さんが決めた数字がそのまま残る
- 駐車場・倉庫・事業用として貸す部分……課税の対象になり得る。ここは税額の計算が入るので、端数の出方が家賃とは違う
同じ建物で住戸と駐車場を貸している場合、片方だけ税の計算が乗るということです。どちらに当たるかは契約の書き方と実態で変わるため、税務の判断は税理士や税務署に確かめてください。
日割り家賃の計算方法は、どの法律にも書いていない
月の途中で入居・退去があると、必ず端数が出ます。ここでよく引かれるのが民法143条ですが、この条文が決めているのは期間の数え方であって、金額の割り方ではありません。
週、月又は年によって期間を定めたときは、その期間は、暦に従って計算する。(民法143条1項)
「暦に従って計算する」とだけあります。家賃を30日で割るのか、31日で割るのか、その月の実際の日数で割るのか、条文は答えていません。したがって次のどれを採っても、それ自体が違法になるわけではありません。
- その月の実日数で割る(2月は28日、8月は31日。同じ1日でも金額が変わる)
- 30日で固定して割る(月をまたぐと1日分の過不足が出る)
- 入居月は日割り、退去月は1か月分をもらう(消費者契約法との関係を指摘されることがある)
どれを採るかより、契約書と募集資料で同じ方法になっているかのほうが揉めません。管理を委託しているなら、管理会社の計算方法と自分の契約書が合っているかを1回だけ突き合わせておくと安全です。
端数を切りのいい額に「直す」と、それは値下げになるのか?
なります。ここは実務で取り違えやすいところです。
45,800円を45,000円に「そろえる」のは、大家さんの感覚では調整かもしれませんが、法律の上では賃料の変更です。根拠は借地借家法32条1項で、増額も減額も同じ条文に置かれています。
建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。(借地借家法32条1項)
大事なのは「将来に向かって」という言葉です。下げた場合も上げた場合も、さかのぼりません。そして同条2項には、増額の協議が調わないあいだ、入居者は「相当と認める額」を払えば足りると書かれています。裁判で増額が正当と確定したときは、不足額に年1割の利息を付けて支払う、とも定められています。減額のときは3項が同じ構造で、受け取り過ぎた分に年1割を付けて返す形です。
端数を800円そろえるだけの話が、この条文の世界に入ります。下げるなら一度きりの判断として、上げるなら理由を持ってやることになります。順番の考え方は家賃を下げる前に試す4つの手と礼金・敷金・フリーレントはどの順番で緩めるかにまとめてあります。
端数の家賃に、切りのいい額が振り込まれ続けたら
冒頭の800円の話に戻ります。不足が何か月も続いたとき、それが「何月分の不足なのか」を決めるのは民法の弁済の充当のルールです。
- 民法488条1項……同じ種類の債務が複数あって、払った額が全部を消すのに足りないとき、まず払う側がどれに充てるかを指定できる
- 同条2項……払う側が指定しないときは、受け取る側が受領のときに指定できる。ただし払う側がその場で異議を述べたときは、この限りでない
- 同条4項……どちらも指定しないときは、弁済期が来ているものに先に充てる、といった順番で自動的に決まる
- 民法489条1項……元本のほかに利息や費用があるときは、費用、利息、元本の順に充てる。この順番は当事者が勝手に入れ替えられない
実務に直すと、こうなります。遅延損害金の定めがある契約で少額の不足が積み上がると、入ってきたお金はまず損害金に吸われ、家賃の元本はいつまでも満額にならないという状態が起こり得ます。金額が小さいまま何年も残るのは、たいていこの形です。
だから端数の不足に気づいたら、金額の大小で判断せずにその月のうちに1回だけ連絡するのが結局いちばん短く終わります。振込の設定を直してもらえば、それで止まる話だからです。手数料の負担をどちらが持つかという別の論点は家賃の振込手数料は入居者が払うのが原則ですに書きました。

では、端数をどう決めるか
ここまでを踏まえると、端数の決め方は「いくらにするか」ではなく「どこに合わせるか」の問題になります。埼玉県・千葉県西部・栃木県南部の築古アパートで、実際に効いてくる合わせ先は次の4つです。
- 検索の区切り……賃貸情報サイトの絞り込みは5,000円刻み・1万円刻みが多く、45,000円と45,100円では表示される件数の母集団が変わります。100円の差で一覧から外れるなら、その100円は家賃ではなく広告費です
- 公的な支援の上限……家賃を原資にした公的な給付には上限額があり、多くは千円単位の切りのいい数字です。上限をわずかに超える家賃は、その層の申込から外れます
- 振込の打ちやすさ……冒頭の事例のとおりです。下3桁がゼロなら打ち間違いが減り、督促の手間も減ります
- 共益費との分け方……家賃を千円単位にして、端数を共益費側に置く方法があります。ただし共益費は実費の裏づけが要る性質のお金なので、端数の逃げ場として使うと説明できなくなります
1円単位や100円単位にすること自体が悪いわけではありません。悪いのは、その端数に理由がないまま何年も残ることです。理由のない端数は、退去のたび、更新のたび、日割りのたびに計算の手間として戻ってきます。
今日やることを1つだけ選ぶなら
手元の契約書を1通開いて、日割り家賃の計算方法が書いてあるかどうかだけを見てください。「日割り計算とする」としか書いていないなら、割る日数が決まっていないということです。次の募集のときに、その1行を足すところから始めれば十分です。
なお、税務の取り扱い、消費税の課税・非課税の判断、遅延損害金の有効性は、物件と契約の内容で結論が変わります。この記事は条文の位置を示したものですので、実際の判断は税理士・弁護士や所管の窓口にご確認ください。
条文の出典はいずれも e-Gov 法令検索の現行条文(2026年9月13日時点)です。


