アパートの修繕履歴は重要事項説明に出てきません|築古アパートのオーナーが売る前にまとめる4つの束

売却の話が動き出すと、買主側の仲介会社からほぼ必ず同じことを聞かれます。「修繕履歴をいただけますか」。手元を探すと、出てくるのは工事業者から届いた見積書のコピーが数枚と、通帳の振込記録だけ。いつ、どの部屋の、何を替えたのかは、思い出しながら口で説明することになります。

結論からお伝えすると、一棟のアパートを売るとき、重要事項説明書に「修繕履歴」という欄はありません。その欄があるのは区分所有マンションのほうです。だから築古アパートの修繕の記録は、「重説に載るから残す」のではなく、重説に載らないので自分で束にして渡すために残すものになります。

一棟のアパートの重要事項説明で保存の状況が説明される6種類の書類を並べた図。確認申請書と確認済証、検査済証、建物状況調査の報告書、建設住宅性能評価書、定期報告の書類、昭和56年5月31日以前着工の住宅の耐震性書類。修繕履歴は含まれていない。

重要事項説明で「保存の状況」を伝える書類は6種類だけ

宅地建物取引業法35条1項6号の2ロは、既存の建物を売買するときの説明事項として「設計図書、点検記録その他の建物の建築及び維持保全の状況に関する書類で国土交通省令で定めるものの保存の状況」を挙げています。条文に「点検記録」と書かれているので、ここに修繕の記録が入ると読めそうです。

ところが、その「国土交通省令で定めるもの」を定めた宅地建物取引業法施行規則16条の2の3は、次の6つだけを列挙しています(e-Gov法令検索・2026年9月1日時点)。

  1. 建築基準法6条1項の確認の申請書・計画通知書と、確認済証
  2. 建築基準法7条5項の検査済証
  3. 建物状況調査の結果についての報告書(法34条の2第1項4号)
  4. 既存住宅に係る建設住宅性能評価書(住宅品質確保促進法6条3項)
  5. 建築基準法施行規則5条3項・6条3項に規定する書類(定期報告に関するもの)
  6. 昭和56年5月31日以前に新築工事に着手した住宅なら、耐震性を確認できる書類(イ 建築士が行った耐震診断の結果報告書/ロ 建設住宅性能評価書/ハ 既存住宅売買の瑕疵保険契約を証する書類/ニ そのほか住宅の耐震性に関する書類)

工事の履歴、修繕の記録、工事業者の見積書や請書は、この6つのどこにも入っていません。「点検記録」という言葉は法律の側にありますが、省令が受けたのは定期報告の書類までです。

区分所有マンションだけには、修繕履歴の欄がある

同じ施行規則の16条の2は、法35条1項6号(区分所有権の目的である建物のときの説明事項)を受けて10項目を定めています。その第10号がこれです。

当該一棟の建物の維持修繕の実施状況が記録されているときは、その内容

つまり分譲マンションの1室を売買するときは、維持修繕の実施状況が記録されていれば、その内容が重要事項説明の対象になります。記録がなければ「なし」と説明されます。第6号には修繕積立金の積立額、第7号には通常の管理費用の額も並んでいます。

一棟のアパートや戸建には、この10項目が適用されません。買主は、修繕履歴を1行も見ないまま契約を結ぶことができます。これは制度の穴ではなく、区分所有では管理組合が記録を持っている前提があり、一棟では所有者本人が持っている前提だという線引きです。持っていなければ、そこで終わりになります。

建物状況調査の結果は、1年で説明事項から外れる

上の3番に出てくる建物状況調査(いわゆるインスペクション)は、実施すれば重要事項説明で結果の概要が説明されます。ただし法35条1項6号の2イに「実施後国土交通省令で定める期間を経過していないものに限る」というかっこ書きがあり、その期間は施行規則16条の2の2で決まっています。

  • 原則は1年
  • 鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造の共同住宅等は2年

木造アパートは原則の1年側です。売り出す1年以上前に調査をしていると、報告書は手元にあっても、重説では「実施していない」と同じ扱いになります。調査を入れるなら、売り出しの時期から逆算する話になります。

昭和56年5月31日という日付は、書類の側にも出てくる

6番の条件は「昭和56年5月31日以前に新築の工事に着手したものであるとき」です。新耐震基準の境目として知られている日付が、耐震性の書類を名指しする条件としてもそのまま使われています。築古アパートの多くがこちら側に入るため、耐震診断の結果報告書を持っているかどうかが、そのまま説明事項の有無になります

記録がないと、売ったあとに何が残るのか

買主が引渡しのあとで不具合を見つけたとき、根拠になるのは民法566条です。種類または品質が契約の内容に適合しない物を引き渡した場合、買主が不適合を知った時から1年以内に通知しないと、追完の請求・代金の減額・損害賠償・解除ができなくなると定められています。ただし売主が引渡しの時に不適合を知っていた、または重大な過失で知らなかったときは、この期間の制限は働きません。

ここで取り違えやすいのが、よく言われる「引渡しから2年」です。これは宅地建物取引業法40条で、宅地建物取引業者が自ら売主になる売買契約のときだけの規定です。同条は、民法566条の期間について引渡しの日から2年以上とする特約を除き、民法より買主に不利な特約をしてはならないと定め、反する特約は無効としています。

大家が個人として自分のアパートを売るときは、この40条の対象外です。民法566条がそのまま適用され、特約の余地も残ります。だからこそ、どの年に何を替えたのかという記録は、売主の側を守る材料になります。「知っていて黙っていた」と「記録があるので説明した」は、まったく別の位置に立ちます。

なお、税務の面でも記録は効きます。売ったときの譲渡所得は、収入金額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算します。資本的支出は取得費に加算できますが、それを示す書類がなければ積み上げられません。取得費が分からない場合の概算取得費(収入金額の5%)で計算することになると、税額は大きく変わります。個別の判断は税務署か税理士に確認してください。

2026年8月31日に公表された指数が示していること

国土交通省は、登記データをもとにした既存住宅販売量指数を毎月公表しています(試験運用)。2026年8月31日に公表された令和8年5月分は、次の数字でした(出典:国土交通省「既存住宅販売量指数 令和8年5月分を公表(試験運用)」令和8年8月31日/2010年平均=100・確報値)。

  • 合計の季節調整値 125.0(前月比3.5%減)
  • 30㎡未満を除く合計 114.3(前月比2.9%減)
  • 戸建住宅 124.6(前月比3.4%減)/マンション 124.2(前月比4.4%減)

同じページをさかのぼると、令和8年1月は前月比3.7%増でしたが、2月は4.9%減、3月は2.2%減、4月は1.3%減、5月は3.5%減。2月から4か月続けて前月を下回っています。

ただし、この指数の定義には読み方の注意があります。公表資料には「建物の売買を原因とした所有権移転登記個数のうち、個人取得の住宅で既存住宅取引ではないものを除いたもの」と書かれ、さらに「住宅・土地統計調査で把握可能な既存住宅取引量には含まれていない別荘、セカンドハウス、投資用物件等を含む」と明記されています。

つまり法人が買った物件は入っていません。個人の投資家が買ったアパートは入りますが、買主が法人になれば数から消えます。「既存住宅の売買が減っている」と読むのはよいとしても、「アパートの取引が減っている」と直接言い換えることはできません。数字の枠がどこまでかを見ておく必要があります。

公表は3か月遅れです。8月末に出たのが5月分でした。急ぐ話ではありませんが、買い手が個人のうちは、渡せる書類の量がそのまま値段の交渉材料になります。法人の買い手は自社で調査を入れますが、個人の買い手は売主の手元の書類しか見られません。

築古アパートを売る前にまとめる4つの束を順番に示した図。建物の生まれの束、耐震と調査の束、工事の束、お金の束。

4つの束にまとめる

重説に載らないものを渡すなら、探して読める形にしておく必要があります。次の4つに分けるだけで、買主側の質問はほとんど埋まります。

  1. 建物の生まれの束:確認申請書・確認済証・検査済証・設計図書。手元にないときは役所で取れる範囲を先に調べる
  2. 耐震と調査の束:耐震診断の結果報告書、建物状況調査の報告書(実施日を表紙に大きく書く)
  3. 工事の束:年・部屋番号・工種・金額・施工業者を1行で並べた一覧と、見積書・請書・請求書。屋根と外壁と給排水は、部屋ごとの内装と分けて並べる
  4. お金の束:資本的支出に当たる工事の領収書。取得費の計算で使う可能性があるものを別にまとめる

図面や確認済証が手元にないときの取り直し方は、アパートの図面と確認済証が手元にないときでまとめています。買主の側がどんな書類を集めているかは、収益物件を買った大家が最初に集める7つの書類を読むと、渡す側として何を揃えておけばよいかが見えます。売り出すタイミングそのものを迷っているときは、築古アパートを売るなら満室にしてからか空室のままかもあわせてどうぞ。

今日できること

過去の工事を全部思い出す必要はありません。直近5年分だけ、年・部屋・工種・金額の4列で1枚に書き出す。ここから始めれば、次に工事をしたときに1行足すだけで済みます。記録は、売るときになってから作るものではなく、作りながら持つものです。

耐震・法令・税務の判断が絡む部分は、建築士・自治体の建築担当課・税理士へ確認しながら進めてください。書類の集め方と並べ方だけなら、今日の30分で形になります。

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