築古アパートを売るなら満室にしてからか空室のままか|オーナーが決める順番
結論からお伝えすると、先に決めるのは「満室にするか空室のままか」ではなく「誰に売るか」です。収益物件として投資家に渡すなら稼働している状態が評価されやすく、土地として使いたい買主や自分で住むために買う人に渡すなら、空室のほうが話は早く進みます。買主を決めないまま空室を埋めると、埋めるためにかけたお金が売値に乗らないことがあります。
3月の終わり、築38年・6戸のアパート。2階の角部屋が2月に退去して、まだ埋まっていません。管理を頼んでいる会社の担当者から電話が入ります。「そろそろ売却もお考えですか。いま、この規模を探している方がいらっしゃいます」。手元にあるのは、家賃の一覧を書いた紙が1枚と、去年の確定申告の控え。翌週、別の会社からも同じような連絡が入り、決めきれないまま1か月が過ぎていきます。

満室にしてから売ると、何が変わるのか
収益物件の価格は、家賃収入から逆算して見られることが多い、という前提があります。つまり、年間の家賃収入が増えれば、同じ利回りで計算したときの価格も上がる。ここが「満室にしてから」と言われる理由です。
- 年間の家賃収入が増える:同じ利回りで見たときの価格が上がります
- 「埋まる部屋である」ことの証明になる:買主にとって、空室が埋まるかどうかは最大の不安です。埋まっている事実は、その不安を1つ消します
- 買主が融資を使う場合の話が進めやすくなる:一般には、稼働している物件のほうが返済の計画を立てやすいとされています。ただし融資の可否を決めるのは金融機関です
一方で、都合の悪いこともはっきり書いておきます。埋めるには原状回復の費用がかかり、募集の広告料やフリーレントを付ければその分も出ていきます。そしてかけた費用がそのまま売値に乗る保証はありません。埋まるまでの時間も読めません。3か月で埋まる想定が半年になれば、その間の売り時も動きます。
空室のまま売ったほうがいいのはどんなときか
次のような買主に渡す場合、入居者がいることは有利に働かないことがあります。
- 建物を解体して土地として使う買主:入居者がいると、まず退去の話から始まります
- 自分で住む、または自分でリフォームして貸したい買主:内装を自分の好みで直したい人にとって、直したばかりの部屋は価値になりません
- 建て替えや大規模な改修を前提にしている買主:工事の計画が入居者の都合に縛られます
入居者に出ていってもらう交渉が絡むと、時間も費用も読めなくなります。空室のまま渡せる状態なら、そのほうが話が早く終わることがあります。建て替えができない物件で誰が買主になるかは再建築不可の物件をどう扱うかにまとめています。
レントロールは、買主が最初に見る書類
レントロールは、部屋ごとの家賃・共益費・敷金・契約日・契約期間・滞納の有無をまとめた一覧です。売却の話が始まると、ほぼ最初に求められます。
家賃の額より、いつから住んでいるかを見られる
買主が見ているのは、合計の家賃収入だけではありません。
- 契約日が売却の直前に集中していないか:「売るために埋めた部屋」だと読まれると、その家賃で計算してもらえないことがあります
- 直近で決まった部屋の家賃が、他の部屋とどれだけ違うか:新しい契約のほうが安ければ、それが今の実力だと見られます
- 滞納があるか、家賃保証会社に加入しているか:引き継いだあとの回収の手間に直結します
家賃の一覧を作ると、収支そのものを見直すきっかけにもなります。満室でも手元に残らない構造については満室なのにお金が残らない築古アパートを、保証会社の扱いは家賃保証会社は築古物件でも使えるのかをご覧ください。
どんな入居者で埋めるかで、売値は変わるのか
変わることがあります。売るために急いで埋めた部屋が、引き渡しの数か月後に空くと、買主にとっては「聞いていた収入が入らない」状態になります。家賃を強気に設定して短期で抜ける入居者を入れるより、その物件で長く住んでもらえる層に決めておくほうが、レントロールとしては強くなります。
誰に貸すかを先に決めてから募集する順番は築古アパートは誰に貸すかに、家賃を下げる以外の手は家賃を下げる前に試す4つの手にまとめています。値付けを下げて埋めると、その家賃が売却時の評価の基準になります。ここは埋めることだけを目的にすると損をしやすい場所です。

売却までの段取りをどう組むか
- 誰に売るかの当たりをつける:収益で買う人か、土地や自宅として買う人か。ここが決まらないと空室の扱いも決まりません
- レントロールと賃貸借契約書を揃える:契約書が見つからない部屋があれば、この段階で分かります
- 修繕の履歴を書き出す:屋根・外壁・給湯器・配管をいつ触ったか。買主がいちばん知りたい情報です
- 空室の扱いを決める:埋める/募集を止める/今のまま出す。1で決めた買主に合わせます
- 複数の会社に査定を出してもらう:金額だけでなく、その金額になる根拠と、想定している買主像を聞きます
- 税金の扱いを税理士に確認する:手取りは税引き後で決まります。売る前に聞いてください
税金については、一般的には所有していた期間によって譲渡所得の扱いが変わるとされていますが、相続で取得した場合の期間の数え方や取得費の計算は事情によって違います。ここは必ず税理士にご確認ください。売買の進め方や告知が必要な事項の扱いは、宅地建物取引業者にご確認ください。
まとめ
満室にしてから売るか、空室のまま売るか。この問いに一般解はなく、買主が誰かで答えが入れ替わります。順番を逆にして先に空室を埋めると、埋めた費用が回収できないまま、土地を買いたい人に売ることになるかもしれません。埼玉・千葉県西部・栃木県南部の昭和築のアパートでは、収益で買う人と土地で買う人の両方が動く地域があり、どちらに向けて出すかで見せ方が変わります。
今日やることを1つだけ選ぶなら、部屋ごとの家賃・契約日・契約期間・滞納の有無を、1枚の表にまとめてください。これが売却の入口の書類であり、同時に「今すぐ売るべきか」を自分で判断する材料にもなります。価格の妥当性、税金の扱い、契約に必要な手続きについては、宅地建物取引業者・税理士などの専門家に必ずご確認ください。


