地代を上げたいと言われても、その月から上がるわけではありません|借地のアパートのオーナーが読む借地借家法11条と調停前置
秋に地価の発表が出たあと、地主から封書が届く年があります。中の便せんには「固定資産税も上がっているので、来年1月分から地代を月額いくらに改めたい」と書かれていて、末尾に新しい振込額が印字されています。借地の上にアパートを持っているオーナーにとって、家賃は上げられないのに地代だけが上がる話です。返事を出す前に、手元の契約書と条文を1つずつ開いておくところです。
結論からお伝えすると、地代の増額は、地主が手紙に書いた日から自動的に決まるものではありません。話がまとまらない間は、こちらが相当と考える額を払っていれば足ります(借地借家法11条2項)。地主が裁判で決着をつけたいなら、訴える前にまず調停を申し立てる決まりです(民事調停法24条の2)。そのかわり、裁判で増額が正当と確定すると、払い足りなかった分に年1割の利息が付きます。断ればよい話でも、黙って払えばよい話でもありません。

まず契約書で「地代を上げない」という特約を探します
借地借家法11条1項は、地代を増減できる場面を書いたあと、次のただし書を置いています。
「ただし、一定の期間地代等を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。」
契約書に「契約から◯年間は地代を改定しない」といった条項があれば、その期間は地主の増額請求に従う必要はありません。返事を考える前に、契約書の「地代」「賃料」「改定」の条項を読んでください。
ここで1つ見落としやすいのが、ただし書の向きです。ただし書が例外として挙げているのは「増額しない」特約だけです。反対向きの「地代を減額しない」という特約は、ただし書に出てきません。本文には「契約の条件にかかわらず」と書かれています。条文の上では、上げない約束と下げない約束は同じ扱いになっていない、ということです。
「3年ごとに◯%ずつ上げる」のような自動で改定する条項が契約書にある場合、その条項がどこまで効くかは、この記事では確かめていません。その条項が入っているときは、返事の前に弁護士に見てもらうほうが安全です。
地主が増額を言える理由は、条文に3つ書いてあります
11条1項本文が挙げている理由は、次の3つです。
- 土地に対する租税その他の公課の増減(固定資産税・都市計画税など)
- 土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動
- 近傍類似の土地の地代等との比較で不相当になったこと
手紙に「固定資産税が上がった」とあれば1つ目、「地価が上がった」とあれば2つ目の話です。どの理由で、何がどれだけ変わったのかを、地主に書面で示してもらうよう頼んでかまいません。地価の発表と地代の関係は借地のアパートを相続するのに、地主の承諾は要りませんの「地代の話が来る局面」の節にも書きました。
もう1つ、条文には「将来に向かって地代等の額の増減を請求することができる」とあります。増額の請求は、これから先の分についての話です。手紙に「さかのぼって昨年分から」と書かれていても、条文が認めているのは将来の分だけです。
話がまとまらない間は、いくら払えばいいのですか?
11条2項はこう書いています。
「地代等の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の地代等を支払うことをもって足りる。」
手紙が届いた月から新しい額を払わなければならない、ということにはなりません。こちらが相当と考える額を、これまでどおりの期日に払い続ければ足ります。ただし、同じ項のただし書で、裁判で増額が確定して不足が出たときは、不足額に年1割の割合による支払期後の利息を付けて払うことになっています。争う期間が長くなるほど、この利息が積み上がります。
「相当と認める額」がいくらかは、条文には書いてありません。これまでの額を払い続けるのが一般的な対応とされていますが、それより低い額にすると、こちらで勝手に減額したのと同じ形になります。払う額を変えたいときは、払う前に弁護士に確かめてください。
地主が振込を受け取らないときは、供託があります
増額に応じないと伝えたあと、地主が「その額では受け取れない」と振込を返してくることがあります。払わないまま月をまたぐと、契約上は地代の不払いです。民法541条は、催告をしても払われないときの契約の解除を定めています。
このときの道が、民法494条1項1号の供託です。弁済の提供をしたのに債権者が受領を拒んだときは、法務局に供託でき、供託をした時にその月の地代の債務は消えます(同項の後段)。地代を受け取る側から書いた記事ですが、手続きの流れは入居者が家賃を供託してきたら、大家はまず受け取りを拒んだ覚えがあるかを確かめますと同じです。供託は「受け取ってもらえなかった」という事実が前提なので、まず従前の額を振り込むか持参するかして、拒まれた記録を残しておきます。
裁判の前に、必ず調停を通ります
地主のほうから「では裁判で」と言われても、いきなり訴えることはできません。民事調停法24条の2第1項はこう定めています。
「借地借家法(平成三年法律第九十号)第十一条の地代若しくは土地の借賃の額の増減の請求……に関する事件について訴えを提起しようとする者は、まず調停の申立てをしなければならない。」
調停を飛ばして訴えた場合も、裁判所は原則としてその事件を調停に回します(同条2項)。家賃の値上げでも同じ仕組みが働いており、建物の側から書いた記事が家賃の値上げは、いきなり訴訟にできませんです。
どこの裁判所で話し合うかも、条文に書いてあります。調停事件は普通、相手方の住所地の簡易裁判所が受け持ちます(民事調停法3条)。ところが、宅地や建物の貸し借りの紛争は、紛争の目的である土地の所在地を管轄する簡易裁判所(または当事者が合意で決めた、その所在地を管轄する地方裁判所)が受け持ちます(民事調停法24条)。地主が遠方に住んでいても、話し合いの場は借地の近くになります。
調停委員会に決めてもらう、という選び方もあります
調停で金額の折り合いがつかないとき、民事調停法24条の3は、もう1つの出口を用意しています。当事者が「調停委員会の定める調停条項に服する」と書面で合意していれば、調停委員会が適当な調停条項を定めることができます。その条項を調書に記載すると調停が成立したものとみなされ、裁判上の和解と同じ効力を持ちます(同条2項)。
この合意は「調停の申立ての後にされたもの」に限られます。契約書の段階で「揉めたら調停委員会の決めた額に従う」と書いておいても、この条文の合意にはなりません。訴訟まで進めずに金額だけ第三者に決めてほしい、という場面で使える仕組みです。
反対に、地代を下げてほしいとき
11条1項は「増減」と書いているので、借地人の側から減額を求めることもできます。理由は増額と同じ3つです。ただし、話がまとまらない間の扱いは向きが逆になります(11条3項)。
- 地主は、減額を正当とする裁判が確定するまで、自分が相当と認める額を請求できます
- 裁判で減額が確定して取りすぎが出たら、地主は超過額に年1割の割合による受領の時からの利息を付けて返します
- 減額の請求も、訴える前に調停を申し立てる決まりです(民事調停法24条の2は「増減」の請求を対象にしています)
借地借家法より前からの古い借地でも、この条文で読みます
借地借家法の附則4条は、「この法律の規定は、この附則に特別の定めがある場合を除き、この法律の施行前に生じた事項にも適用する」と書いています。附則で別扱いになっているのは、建物の朽廃(附則5条)や契約の更新(附則6条)などで、11条を除く定めは附則にありません。古い借地の地代の増減も、11条で読むことになります。

都合の悪いことも書いておきます
- 増額を断っている間も、地代は払い続けます。止めると、増額の話とは別に不払いの問題になります
- 年1割の利息は軽くありません。増額の一部が認められそうなら、早めに金額を詰めるほうが負担が小さいこともあります
- 「相当と認める額」の決め方は、条文に書いてありません。どこまで下げてよいかを自分で決めないでください
- 調停の申立ての費用と、どれくらいの期間がかかるかは、この記事では確かめていません。土地の所在地の簡易裁判所に問い合わせてください
- 自動で改定する条項の効き方は、この記事では確かめていません
法律の扱いは、一般的な条文の読み方として書いています。自分の契約でどう動くかは、弁護士に確かめてください。
今日やることを1つだけ選ぶなら
借地契約書を開いて、「地代」「改定」「増額」という言葉が入った条項に印を付けてください。「一定の期間は増額しない」と読める条項があれば、地主への返事はその条項を示すところから始められます。何も書いていなければ、手紙の理由が11条1項の3つのどれに当たるのかを、地主に書面で尋ねるところからです。
出典
- 借地借家法2条・11条・附則4条〜6条、民事調停法3条・24条・24条の2・24条の3、民法494条・541条(e-Gov 法令API・2026年10月30日時点)


