地主が借地権の譲渡を承諾しないなら、売る前に裁判所の許可を申し立てます|借地のアパートのオーナーが読む借地借家法19条

借地の上のアパートに買い手が見つかり、仲介の担当者から「決済までに地主さんの承諾書をもらっておいてください」と言われる。地主に電話をすると「知らない人に土地を貸すつもりはない」と返ってきて、承諾書の用紙は机の上に白紙のまま残る。買主には決済日を伝えてしまっている。借地のアパートを手放そうとすると、ここで止まることがあります。

結論からお伝えすると、地主が承諾しないときは、借地借家法19条で裁判所に「承諾に代わる許可」を申し立てられます。ただし、申し立てるのは売る前の売主で、売ってしまったあとの買主はこの条文を使えません。もう1つ、申し立てると地主のほうから「それなら自分が買う」と言える仕組みが同じ条文に入っています(19条3項)。買主に売れるとは限らない、というところまで知ってから動く手続きです。

地主が借地権の譲渡を承諾しないときに見る5点。登記と契約書の種類、売る前に売主が申し立てる、地主が買う道、申立先は地方裁判所、申立てを封じる特約は効かない、を並べた図

承諾が要るのは「賃借権」の借地です

借地には、地上権の借地と、土地の賃借権の借地があります(借地借家法2条1号)。地主の承諾が問題になるのは、賃借権のほうです。民法612条1項はこう定めています。

「賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。」

借地の上の建物を売れば、敷地を借りる権利も一緒に買主へ移ります。賃借権の借地なら、これがこの条文の「譲り渡し」です。一方、民法の地上権の章(265条〜269条の2)には、譲渡に地主の承諾を求める条文がありません。借地借家法19条の見出しも「土地の賃借権の譲渡又は転貸の許可」で、対象は賃借権です。

自分の借地がどちらかは、土地の登記簿の乙区を見ると分かることがあります。乙区の読み方は登記簿の乙区は、権利の種類と順位と数字の3つを順に読みますに書きました。登記が無い借地も多いので、そのときは契約書の題名と条文で「賃貸借」か「地上権設定」かを確かめます。

申し立てるのは、売る前の売主です

19条1項の書き出しは「借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合」です。そのうえで、裁判所は「借地権者の申立てにより」許可を与えると書いています。

  • 申し立てる人:建物を売ろうとしている借地人(売主)。買主ではありません
  • 申し立てる時期:売る前。条文は「譲渡しようとする場合」と書いています
  • 許可の中身:地主の承諾に代わる許可。許可が出れば、地主が承諾しなくても譲渡できる形になります

承諾も許可もないまま建物を売ってしまったら、どうなるのか。買主の側に残る道は、借地借家法14条の建物買取請求です。地主が譲渡を承諾しないとき、建物を取得した第三者は、地主に対して建物を「時価で買い取るべきことを請求することができる」と書かれています。買主は土地を使えず、建物を地主に買い取らせるしかない、という形です。決済を先に進めてしまうと、買主にこの形を押し付けることになります。

競売で買った人は、自分で申し立てます

同じ「承諾に代わる許可」でも、建物を競売か公売で取得した場合は条文が別です(借地借家法20条)。こちらは向きが逆になります。

  • 申し立てるのは、競売や公売で建物を取得した第三者(20条1項)
  • 申し立てられるのは、建物の代金を払った後2か月以内に限られます(20条3項)
  • 地主が自分で買う道(19条3項)は、こちらにも準用されています(20条2項)

ふつうの売却は売る前に売主が、競売は買ったあとに買主が申し立てる。19条と20条の違いはこの一点に集まります。

裁判所は、何を見て許可を出すのですか?

19条1項が許可の条件として書いているのは、買主が借地権を取得しても「借地権設定者に不利となるおそれがない」ことです。そのうえで2項は、判断のときに考える事情を並べています。

  1. 賃借権の残存期間
  2. 借地に関する従前の経過
  3. 賃借権の譲渡又は転貸を必要とする事情
  4. その他一切の事情

また6項で、裁判所は特に必要がないと認める場合を除き、許可の前に鑑定委員会の意見を聴かなければならないとされています。地主の言い分と借地人の言い分だけで決めるのではなく、第三者の意見が入る作りです。

許可がそのまま出るとは限りません。19条1項の後段は、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、借地条件の変更を命じ、又は許可を財産上の給付に係らしめることができると書いています。許可と引き換えに、地主へお金を払う形になることがある、ということです。その金額の決め方は条文に書いてありません。この記事でも確かめていないので、見込みは弁護士に聞いてください。

地主が「それなら自分が買う」と言えます

19条でいちばん知られていないのが3項です。

「第一項の申立てがあった場合において、裁判所が定める期間内に借地権設定者が自ら建物の譲渡及び賃借権の譲渡又は転貸を受ける旨の申立てをしたときは、裁判所は、同項の規定にかかわらず、相当の対価及び転貸の条件を定めて、これを命ずることができる。」

つまり、借地人が許可を申し立てると、地主は「見知らぬ買主に貸すくらいなら、建物と借地権を自分が買い取る」と申し立てることができます。この場合、建物の値段は買主と決めた額ではなく、裁判所が定める「相当の対価」です。

  • 地主のこの申立ては、借地人が1項の申立てを取り下げたときなどは効力を失います(19条4項)
  • ただし、地主に売るという3項の裁判が出たあとは、当事者の合意がなければ取り下げられません(19条5項)

「買主に売るための手続き」のつもりで申し立てても、結論が「地主に売る」になることがある。申し立てる前に、その結論でも構わないかを決めておくところです。

申立先は、簡易裁判所ではなく地方裁判所です

地代の増額で揉めたときは、まず土地の所在地の簡易裁判所で調停をする決まりでした(地代を上げたいと言われても、その月から上がるわけではありません)。19条の許可は扱いが違います。借地借家法41条は、19条1項・3項の事件を「借地権の目的である土地の所在地を管轄する地方裁判所」の管轄と定めています。当事者の合意があれば、その所在地の簡易裁判所でもかまいません。

代理人にも決まりがあります。借地借家法44条1項により、地方裁判所では弁護士でなければ手続代理人になれません(簡易裁判所は許可を得れば弁護士でない人も可)。自分で申し立てるか、弁護士に頼むかのどちらかです。

申立ての手数料は、民事訴訟費用等に関する法律の別表第一の13の項に書いてあります。19条の許可は「借地権の目的である土地の価額」を基礎に、段階ごとに足し上げます。

  • 100万円までの部分:10万円ごとに400円
  • 100万円を超え500万円までの部分:20万円ごとに400円
  • 500万円を超え1,000万円までの部分:50万円ごとに800円
  • 1,000万円を超え10億円までの部分:100万円ごとに1,200円

基礎の額が1,000万円なら、4,000円+8,000円+8,000円で2万円です。2,000万円なら、そこに1万2,000円が足されて3万2,000円になります。この「土地の価額」を何で数えるか(固定資産税の評価額か、時価か)は、この記事では確かめていません。申立先の地方裁判所に確かめてください。弁護士に頼む費用と、鑑定委員会の手続きにかかる期間も別です。

「譲渡は一切認めない」という特約があっても、申し立てられます

古い借地契約書には「借地権の譲渡・転貸は一切認めない」と書かれていることがあります。借地借家法21条は「第十七条から第十九条までの規定に反する特約で借地権者又は転借地権者に不利なものは、無効とする」と定めています。契約書に申立てをしない約束が書かれていても、19条の申立ては残ります。

借地借家法より前(平成4年8月より前)からの古い借地でも、この条文で読みます。附則4条は「この法律の規定は、この附則に特別の定めがある場合を除き、この法律の施行前に生じた事項にも適用する」と書いており、附則で別扱いになっているのは建物の朽廃(附則5条)や契約の更新(附則6条)などで、19条を除く定めはありません。

ふつうに売るときと競売で買ったときの比較。借地借家法19条は売る前に売主が、20条は代金を払ってから2か月以内に買った人が申し立て、どちらも地主が買う道があることを示す図

都合の悪いことも書いておきます

  • 許可は売買の約束を守ってくれるものではありません。手続きの間、買主が待ってくれるとは限りません。売買契約に「許可が得られなければ白紙に戻す」条項を入れるかどうかは、仲介と弁護士に相談してください
  • 地主に買い取られる結論がありえます(19条3項)。その値段は裁判所が定める「相当の対価」で、買主と決めた値段ではありません
  • 許可と引き換えにお金を払う形になることがあります(19条1項後段)。金額の目安はこの記事では確かめていません
  • 地方裁判所での手続きで、代理人は弁護士に限られます(44条1項)
  • まず地主と話すほうが早いこともあります。承諾しない理由が「相手が分からない」だけなら、買主の情報を書面で出すだけで足りる場合もあります

法律の扱いは、一般的な条文の読み方として書いています。自分の契約でどう動くかは、弁護士に確かめてください。借地の相続のときは承諾が要らない、という反対側の話は借地のアパートを相続するのに、地主の承諾は要りませんに、底地を買い取って借地を終わらせる道は借地のアパートで底地を買うと、借地権は消えますにまとめています。借地借家法の全体を先に押さえたい方ははじめての大家さんが押さえる借地借家法の基本もどうぞ。

今日やることを1つだけ選ぶなら

借地契約書を開いて、題名が「賃貸借」か「地上権設定」かと、「譲渡」「転貸」という言葉が入った条項に印を付けてください。賃借権の借地で、まだ買主と契約を結んでいないなら、19条の申立ては今からでも間に合います。もう決済を済ませていれば、19条ではなく14条の話になっています。

出典

  • 借地借家法2条・14条・19条・20条・21条・41条・44条・附則4条〜6条、民法612条・265条〜269条の2、民事訴訟費用等に関する法律3条・別表第一13の項(e-Gov 法令API・2026年10月31日時点)

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