入居者が家賃を供託してきたら、大家はまず受け取りを拒んだ覚えがあるかを確かめます|築古アパートのオーナーが読む民法494条から496条
結論からお伝えすると、家賃の供託は、入居者がいつでも使える手続きではありません。民法494条が認める場面に限られ、その要件に当たる供託であれば、供託をした時に家賃の債務は消えます(494条1項後段)。「家賃を供託しました」という通知が届いたとき、大家さんが最初に確かめるのは金額ではなく、自分の側に受け取りを拒んだ事実があったかどうかです。

供託が認められるのは3つの場面だけです
民法494条は、弁済する人が債権者のために弁済の目的物を供託できる場面を、次のように並べています。
- 494条1項1号:弁済の提供をしたのに、債権者がその受領を拒んだとき
- 494条1項2号:債権者が弁済を受領することができないとき
- 494条2項:弁済者が債権者を確知することができないとき(弁済者に過失があるときは除く)
家賃に当てはめると、入居者が払おうとしたのに大家さんが受け取らなかったのが1号、大家さんが不在などで受け取れないのが2号、大家さんが亡くなって誰に払えばよいか分からないのが2項です。2項の相続の場面は、相続放棄を考えているなら、家賃を使う前に止まってください|築古アパートのオーナーが読む民法921条と940条で扱っています。
供託の手続きは、入居者が「支払う場所」の供託所でします
供託は、債務の履行地の供託所にしなければなりません(495条1項)。供託所は、法務局・地方法務局とその支局などです(供託法1条)。供託書には、供託の原因たる事実、供託を許容した法令の条項、被供託者(家賃なら大家さん)を書くことになっています(供託規則13条2項4号から6号)。
供託をした入居者は、遅滞なく債権者に供託の通知をしなければなりません(495条3項)。供託規則16条は、供託者が供託官に対し、被供託者へ供託通知書を発送するよう請求できると定めています。大家さんの手元に法務局からの封書が届くのは、この仕組みによるものです。
供託通知が届いたら、まず読む3か所
- 供託の原因:494条のどの場面として供託されたか(受領拒絶か、受領不能か、債権者不確知か)
- 対象の月と金額:どの月の家賃を、いくら供託したか
- 供託所と供託の番号:問い合わせや還付の手続きで使う
供託書の記載事項(供託規則13条2項)が基になっているため、通常はこの3点が読み取れます。封筒ごと保管し、届いた日を控えておいてください。

供託された家賃を、大家は受け取れるのか
供託された家賃を受け取るには、供託所に還付を請求します。還付を請求する人は、その権利を証明しなければなりません(供託法8条1項)。
一方、入居者の側には取戻しの道があります。民法496条1項は、債権者が供託を受諾せず、または供託を有効と宣告した判決が確定しない間は、弁済者は供託物を取り戻せると定めています。取り戻した場合は、供託をしなかったものとみなされます。つまり、大家さんが供託を受け入れる意思を示すかどうかで、その後の扱いが分かれます。
供託が有効なら、その月は滞納になりません
供託が494条の要件に当たっていれば、供託をした時に債務は消えます。その月の家賃を「滞納」として催告や解除(541条)に進む前に、供託の原因が実際にあったのかを確かめる必要があります。受領を拒んだ事実がないのに供託された場合は、弁済の効果が生じないというのが一般的な理解ですが、大家さんの側で判断を固める前に、専門家に相談してください。
供託される状況を、大家の側でつくらない
供託の入口は「大家が受け取らなかった」ことです。次の2つの場面は、気づかないうちにその形になりやすいところです。
- 家賃の値上げを協議している間:借地借家法32条2項は、増額の協議が調わないとき、請求を受けた入居者は、増額を正当とする裁判が確定するまで相当と認める額を支払えば足りると定めています。裁判確定後に不足があれば、不足額に年1割の利息を付けて支払います。旧額の受け取りを拒めば、入居者が供託で対応する形をつくりかねません。値上げの進め方は、家賃の値上げは、いきなり訴訟にできません|大家が読む調停前置と、更新に結びつけない伝え方にまとめています。
- 口座や受取方法を変えたとき:新しい口座を伝えないまま、以前の口座を閉じてしまうと、入居者は払いたくても払えません。受取方法の決め方は、家賃の振込手数料は入居者が払うのが原則です|築古アパートのオーナーが受取方法を決める前に読む民法5か条で条文から並べています。
都合の悪いことも書いておきます
供託が有効かどうかは、大家さんが決められることではなく、争いになれば最終的には裁判所が判断します。この記事は条文の読み方を整理したもので、個別の事案に当てはまるかどうかは、弁護士や司法書士への確認が必要です。供託の手続きそのものは、供託所(法務局)が案内しています。
今日できること
- 供託の通知が来たら、封筒と中身を保管し、届いた日を控える
- 入居者に案内している家賃の受取口座が、いまの口座と合っているかを見直す
- 値上げの協議中なら、旧額の受け取りを拒む言い方になっていないか、通知文を読み返す
出典
民法494条から496条、供託法1条・8条、供託規則13条・16条、借地借家法32条(e-Gov法令検索・2026年9月30日時点)。


