オーナーが亡くなっても、同居の配偶者は6か月は住み続けられます|築古アパートのオーナーが読む民法1037条と1038条

結論からお伝えすると、オーナーが亡くなったとき、同居していた配偶者は、建物を相続した人に対して、少なくとも6か月は無償で住み続けられます。民法1037条の「配偶者短期居住権」です。築古アパートのオーナーが気をつけたいのは、相続した側が「相続したのだから、すぐ出てほしい」と言えないことです。申し入れるなら、条文の期限を数えてからにします。

たとえば、1階が自宅で2階が賃貸のアパートを持っていたオーナーが亡くなり、遺言で建物は長男に渡ると書いてあった場面です。同居していた配偶者に、長男が「アパートは僕が継ぐので、この家は出てほしい」と切り出せるのか。条文は、そこに待ったをかけています。

配偶者短期居住権とは、どんな権利ですか?

民法1037条1項は、配偶者が、亡くなった人の建物に相続開始の時に無償で住んでいたときは、その建物の所有権を相続または遺贈で取得した人(条文では「居住建物取得者」)に対して、無償で使う権利を持つと定めています。

  • 対象は「亡くなった人の建物に、無償で住んでいた配偶者」です。配偶者が亡くなった人に家賃を払って住んでいたなら、使う根拠は賃貸借なので、この条文の話ではありません
  • 建物の一部だけを使っていたときは、その部分だけです(1037条1項かっこ書き)。1階の自宅部分に住んでいた配偶者が、2階の賃貸部分まで使えるわけではありません
  • 次の2つに当たる人は、この権利を持ちません(1037条1項ただし書)。相続開始の時に配偶者居住権(1028条)を取得した人と、相続欠格(891条)や廃除で相続権を失った人です
  • 遺産分割の合意や登記を待たずに、条文を読む限り、相続開始と同時に権利が生じます。配偶者居住権のように登記を備えさせる義務(1031条1項)を定めた条文は、短期居住権にはありません

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配偶者が相続開始後も住み続けられる4つの条件を、建物・無償・相続権・配偶者居住権の順に示した図

いつまで住み続けられますか?

期限は、建物がどう決まるかで2つに分かれます(1037条1項1号・2号)。

  1. 配偶者を含む共同相続人の間で、遺産分割をすべき場合(1号):遺産分割で建物の持ち主が決まった日か、相続開始から6か月を過ぎる日の、どちらか遅い日までです。話し合いが相続開始から3か月でまとまっても、6か月を過ぎる日までは住めます。まとまるのが8か月後なら、その日までです
  2. 1号以外の場合(2号):建物を取得した人が配偶者短期居住権の消滅を申し入れた日から、6か月を過ぎる日までです。申し入れは、1号の場合を除いて、いつでもできます(1037条3項)

どちらに当たるかは、建物の決まり方で変わります。遺言で配偶者以外の人(たとえば長男)に建物が渡ると決まっていて、遺産分割が要らない場合は、一般的には2号と読まれます。冒頭の場面なら、長男が申し入れた日から6か月です。申し入れた日に退去を求められるわけではありません。ただし、遺言の書き方や相続人の組み合わせで結論が変わるので、個別の場面は弁護士に確認してください。

相続した人は、建物を売ったり、出ていってもらったりできますか?

  • 期限の前に出ていってもらうことはできません。居住建物取得者は、第三者への譲渡などの方法で、配偶者の使用を妨げてはならないと定められています(1037条2項)
  • 売却を考えるなら、先に配偶者と話をつけるのが現実的です。2項は建物を取得した人に課された義務で、買った人に直接主張できるかは、条文だけでは言い切れません。買主が現れても、配偶者がまだ住んでいる状態では、話が進みにくくなります
  • 配偶者の側にも守る決まりがあります(1038条)。従前の用法に従い、善良な管理者の注意で使うこと、取得者の承諾なく第三者に使わせないことです。空いた部屋を、承諾なしに貸すことはできません(1038条2項)
  • 決まりに違反したときは、取得者の意思表示で、権利を消滅させることができます(1038条3項)

配偶者居住権のほうで、貸すときに承諾が要る話は、配偶者居住権が付いた建物は、貸すのに承諾が要ります|築古アパートのオーナーが読む民法1032条3項に書いています。

住んでいる間の費用と、終わったときの扱いは?

1041条が、使用貸借などの規定を短期居住権に準用しています。主なものは次のとおりです。

  • 通常の必要費は、配偶者が負担します(1034条1項、1041条)。固定資産税が通常の必要費に当たるかは、一般的には当たるとされていますが、個別の扱いは弁護士か税理士に確認してください
  • 修繕は、配偶者がすることができます(1033条)。配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときは、建物の所有者が修繕できます。修繕が必要なときや、建物について権利を主張する人が現れたときは、配偶者は所有者に遅滞なく通知します
  • 配偶者は、この権利を譲渡できません(1032条2項、1041条)。配偶者が亡くなれば、権利は終わります(597条3項、1041条)。建物が使えなくなったときも終わります(616条の2、1041条)
  • 権利が消えたら、配偶者は建物を返します(1040条1項)。相続の開始後に付け足した物の収去と、相続の開始後に生じた傷の原状回復については、599条1項・2項と621条が準用されます(1040条2項)。ただし、配偶者が建物に共有持分を持っているときは、取得者は短期居住権が消えたことを理由に、返還を求められません(1040条1項ただし書)

配偶者居住権とは、何が違いますか?

名前は似ていますが、別の権利です。

  • 配偶者居住権(1028条):遺産分割で取得するものとされたとき、または遺贈の目的とされたときに取得します。設定の登記を備えさせる義務が、建物の所有者にあります(1031条1項)
  • 配偶者短期居住権(1037条):相続開始の時に無償で住んでいれば、条文の上では取得する権利です。期限は上の2つのどちらかです

配偶者が相続開始の時に配偶者居住権を取得したときは、短期居住権は生じません(1037条1項ただし書)。あとから配偶者居住権を取得したときは、短期居住権は消えます(1039条)。亡くなる側のオーナーが、配偶者に長く住んでほしいなら、短期の6か月では足りません。生前から、遺言や遺産分割でどう残すかを専門家に相談しておく必要があります。

配偶者短期居住権の期限を、遺産分割をする場合とそれ以外の場合で左右に並べた図

都合の悪いことも書いておきます

  • この記事は、条文の読み方を並べたものです。遺言の文言や相続人の組み合わせで、1号と2号のどちらに当たるかが変わることがあります。個別の場面は、弁護士や司法書士に相談してください。条文だけでは分からない扱いもあります
  • 配偶者が自宅の部分に住み続けても、アパートの賃貸部分の家賃収入は別の話です。この記事は、賃貸部分の収入の帰属や、相続税・固定資産税の扱いを扱っていません。税務は税理士に確認してください
  • この記事は、手続きの費用を扱っていません。条文で確かめられていないためです

今日やることを1つだけ選ぶなら

いまの遺言書(まだ無ければ、財産の渡し方の希望)を出して、配偶者が住んでいる建物と部分を誰が取得することになっているかを、1行で書き出してください。その人が配偶者以外なら、短期居住権の2号の期限(申し入れから6か月)が使われる可能性があります。そのうえで、配偶者に何か月、何年住んでほしいかを決め、弁護士か司法書士に配偶者居住権の使い方を聞いてください。

出典

  • 民法597条・599条・600条・616条の2・621条・891条・1028条・1031条・1032条・1033条・1034条・1037条・1038条・1039条・1040条・1041条(e-Gov 法令検索・2026年10月19日時点)

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