明治・大正の抵当権の登記が残る土地は、相手が行方不明でも抹消の道が4つあります|築古アパートのオーナーが読む不動産登記法70条と70条の2
結論からお伝えすると、登記簿に明治・大正の抵当権が残り、抵当権者の行方が分からなくても、登記を単独で消せる道が条文に4つあります。不動産登記法70条1項と3項、70条4項の前段と後段、そして70条の2です。築古アパートのオーナーが気をつけたいのは、「古いから時効で自然に消える」とは条文のどこにも書かれていないことと、4つの道は、抵当権者が個人か法人かで使えるものが分かれることです。
たとえば、先代から相続した土地の登記簿(乙区)を取ってみたら、明治の日付の抵当権が1件、そのまま残っていた場面です。建て替えの融資や売却の話が出たとき、この登記が引っかかります。
古い抵当権は、時効で自然に消えているのではありませんか?
消えていません。民法の条文を並べると、理由が分かります。
- 抵当権は、債務者と抵当権設定者に対しては、担保する債権と同時でなければ時効で消えません(民法396条)。借りた人や土地を担保に出した人に対して「抵当権だけ古いから消えた」とは言えない、という書き方です
- 債権のほうは、時効で消える可能性があります。権利を行使できると知った時から5年、または行使できる時から10年です(民法166条1項)。ただし、時効は当事者が援用しなければ、裁判所がそれによって裁判できません(民法145条)
- 債務者でも設定者でもない人が、抵当不動産を取得時効に必要な要件で占有したときは、抵当権が消えます(民法397条)。条文の主語は「債務者又は抵当権設定者でない者」です。先代の土地を相続したオーナー自身が当たるかどうかは、個別の場面で変わるので、専門家に確認してください
- 仮に抵当権が消えていても、登記は自動では消えません。権利に関する登記は、法令に別段の定めがある場合を除いて、登記権利者と登記義務者が共同で申請します(不動産登記法60条)
つまり、相手が見つからないと、共同申請ができず、登記が残り続けます。そこで、60条の「別段の定め」として置かれているのが70条と70条の2です。登記簿の読み方そのものは、登記簿の乙区は、権利の種類と順位と数字の3つを順に読みます|築古アパートのオーナーが読む不動産登記法59条と83条に書いています。

道1:裁判所で公示催告をして、除権決定をもらう(70条1項・3項)
登記権利者は、共同して抹消を申請すべき人の所在が知れないときは、非訟事件手続法99条の公示催告の申立てができます(不動産登記法70条1項)。そのうえで、除権決定があれば、登記権利者は単独で抹消を申請できます(70条3項)。
- 申立ての先は簡易裁判所です。権利の目的物の所在地を管轄する簡易裁判所のほか、登記に係る権利の場合は登記をすべき地を管轄する簡易裁判所も管轄とされています(非訟事件手続法100条)
- 権利の届出の終期までに、適法な届出も権利を争う旨の申述もなければ、裁判所は除権決定をしなければなりません(非訟事件手続法106条1項)。届出や申述があった場合は、2項から4項で、制限決定や留保決定がつく形になります
- 除権決定への不服申立ては、原則できません(106条5項)。ただし、公告をしなかった場合など、一定の事由がある場合は、取消しの申立てができます(108条)
- この道は、抵当権者が個人でも法人でも使えます。70条1項は、権利の種類を限っていません
この道で、裁判所に払う費用と、除権決定までにかかる期間は、条文では確かめていません。司法書士か弁護士に聞いてください。
道2:借金がなくなったことを証明する情報を出す(70条4項前段)
登記権利者が、先取特権・質権・抵当権の被担保債権が消滅したことを証する情報として政令で定めるものを提供したときは、単独で抹消を申請できます(70条4項前段)。70条1項と同じく、所在が知れない場合の定めです。
- 条文は、提供する情報の中身を政令に任せています。どの書類が政令で定めるものに当たるかは、この記事では確かめていません。法務局の登記相談か、司法書士に聞くところです
- 明治・大正の借金の完済を示す書類が、手元から出てこない場面もあります。書類が出てくる見込みがあるなら道2、無いなら道1・道3・道4を検討する、という分け方が現実的です
道3:弁済期から20年たち、全額を供託する(70条4項後段)
同じ4項の後段は、被担保債権の弁済期から20年を経過し、かつ、その期間を経過した後に、被担保債権・利息・債務不履行によって生じた損害の全額に相当する金銭が供託されたときも、登記権利者が単独で抹消を申請できると定めています。
- 「全額」には、元本だけでなく、利息と損害金が入ります。明治の円建ての債権額に、年何%の利息や損害金がつくかは、登記簿に利息や損害金の定めが載っていれば、そこから読みます(83条1項1号、88条1項1号・2号)
- 供託するのは、20年を経過した後です。先に供託しても、条文の要件には足りません
- 登記権利者が単独で申請できるのは、70条1項と同じく、共同申請をすべき人の所在が知れない場合です
ここで、築古の土地に特有の落とし穴があります。20年を数える起点の「弁済期」が、登記簿に載らないことが多いのです。
- 抵当権の登記事項は、59条各号、83条1項(債権額・債務者の氏名と住所など)、88条1項(利息・損害金の定めなど)です。弁済期や支払場所は、抵当証券を発行する定めがある場合にだけ登記事項になります(88条1項6号)
- つまり、登記簿を取っただけでは、弁済期が分からない場面が多いと読めます。起点が分からないまま「20年たっているはず」と見込んで供託するのは、危険です
- 起点を何で確かめるか、分からないときにどう置くかは、条文だけでは言い切れません。司法書士や法務局に確認してください
道4:解散した法人の抵当権なら、30年と30年で消せる(70条の2)
明治・大正の抵当権者が、今は解散した会社や銀行だった場合は、70条の2があります。
- 共同して抹消を申請すべき法人が解散していること
- 70条2項に規定する方法で調査しても、その法人の清算人の所在が判明しないこと
- 被担保債権の弁済期から30年を経過し、かつ、法人の解散の日から30年を経過したこと
この3つがそろえば、登記権利者は単独で抹消を申請できます。道3と違い、条文に供託の要件は書かれていません。対象は先取特権・質権・抵当権の登記で、抵当権者が法人である場合だけの道です。
調査の方法は、不動産登記規則152条の2に書かれています。登記義務者が法人の場合は、法人の登記事項証明書の請求、代表者(解散した法人なら、その清算人か破産管財人)として登記されている人の住民票の写しなどの請求、そして法人の登記簿上の住所や、判明した場所に宛てた書留郵便その他、配達を試みたことを証明できる方法での書面の送付です。法人が合併で解散していた場合は、合併後に存続する法人について、同じ措置をとります。
ここでも、30年の起点の「弁済期」は、道3と同じ問題を抱えています。解散の日は法人の登記で確かめられても、弁済期は登記簿に出にくい点を、先に司法書士に伝えておくと話が早くなります。
なお、隣の土地の持ち主が分からないときに裁判所が管理人を付ける別の制度は、隣の土地の持ち主が分からないとき、裁判所に管理人を付けてもらえます|民法264条の2は「連絡がつかない」では使えませんに書いています。この記事の抹消とは、使う場面が別です。
4つの道は、何が違いますか?
- 抵当権者が個人でも法人でも使える道:道1(除権決定)、道2(消滅の証明)、道3(20年と供託)
- 抵当権者が解散した法人のときだけの道:道4(30年と30年)
- お金を供託する道:道3だけです
- 裁判所の手続きが入る道:道1だけです
- 弁済期の起点が要る道:道3と道4です

都合の悪いことも書いておきます
- この記事は、条文を並べたものです。どの道が使えるかは、抵当権者が誰か、弁済期が分かるか、書類が残っているかで変わります。個別の場面は、司法書士か弁護士に相談してください
- この記事は、手続きの費用と期間を扱っていません。条文で確かめられていないためです。供託の金額は、登記簿の債権額・利息・損害金から出すことになりますが、計算の細部は専門家に任せてください
- 道2で使う書類の具体的な中身は、確かめていません。政令の定めを開いたうえで、法務局に確認する必要があります
- 抵当権が消えても、相続登記や建て替えの手続き自体は別に必要です。この記事は、その手続きを扱っていません
今日やることを1つだけ選ぶなら
登記事項証明書(乙区)を法務局で取り、古い抵当権の「受付年月日・債権額・債務者・抵当権者が個人か法人か」を1件ずつ書き出してください。抵当権者が法人なら、道4の対象かもしれません。個人なら、道1から道3のどれが使えるかを、司法書士に聞くところから始めます。債権額と利息の定めが、供託の金額を考えるときの出発点になります。買う側の立場で同じ登記を読む話は、買う不動産に契約の内容に適合しない抵当権の登記があるとき、買主は代金の支払を拒めます|築古アパートのオーナーが読む民法577条に書いています。
出典
- 不動産登記法59条・60条・70条・70条の2・83条・88条、不動産登記規則152条の2、民法145条・166条・396条・397条、非訟事件手続法99条・100条・106条・108条(e-Gov 法令検索・2026年10月20日時点)


