築古アパートの鍵交換は誰が払うのか|オーナーが特約とシリンダーを決める順番

結論からお伝えすると、鍵交換の費用は実務では入居時に入居者に払っていただくことが多いのですが、国のガイドライン上は原則としてオーナーの負担です。食い違っているようで、そうではありません。入居者に払ってもらうには特約が要り、契約書に一行書いてあるだけでは足りない、というだけの話です。

退去の精算書に「鍵交換代」の行を入れて突き返された。あるいは、入居のときに鍵交換代を預かる運用にしているのに、契約書を見返したらどこにも書いていなかった。築古のアパートを引き継いだオーナーからは、この2つが並んで出てきます。どちらも、鍵そのものの話ではなく書類の話です。

ガイドラインはどちらの負担と書いているか

国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」は、鍵を2つに分けています。

  • 貸す側の負担……鍵の取替え(破損も鍵の紛失もない場合)。次の入居者を確保するために行うもの、という位置づけです
  • 借りる側の負担……鍵の紛失または破損による取替え

紛失された場合の負担単位は、補修部分に加えてシリンダーの交換も含むとされています。さらにこの場合は経過年数を考えません。クロスなら「6年で残存価値1円」と年数分を差し引きますが、鍵の紛失はそれをせず、交換費用の相当分をそのまま入居者の負担とします。

つまり、前の人が普通に住んで普通に鍵を返して出ていったなら、その交換代は募集のための費用としてオーナー側に付きます。ここを取り違えたまま精算書に載せると、他の行まで疑われます。

鍵交換の費用がどちらの負担かを比べた図。貸す側の負担は破損も紛失もない場合の取替えで、入居者に払ってもらうには特約が要る。借りる側の負担は紛失または破損による取替えで、経過年数は考えず交換費用の相当分をそのまま負担する。

入居者に鍵交換代を負担してもらう特約は有効なのか

有効になることもあれば、ならないこともあります。ガイドラインには裁判例が収録されていて、判断が分かれています。

特約が有効とされた事例では、次の点が挙げられています。

  1. 宣伝用のチラシと重要事項説明書に鍵交換費用の記載があった
  2. 契約を結ぶときに仲介業者が口頭で説明していた
  3. 入居者が鍵交換費用を含めて契約金を支払っていた

ここから「特約が明確に合意されている」と判断され、さらに前の借主の鍵を使った侵入を防げるので入居者本人の防犯にも役立つこと、金額が相応であることから、消費者契約法10条に違反しないとされました。一方、別の事例では「鍵交換代は入居者には負担義務のない費用である」とはっきり書かれています。

並べると、分かれ目は3つです。

  • 合意が形に残っているか……契約書だけでなく、募集図面・重要事項説明書・説明した記録まで揃っているか
  • 入居者の側にも利益があるか……前の入居者の鍵で入られない、という説明ができるか
  • 金額が相応か……実際にかかる交換費用とかけ離れていないか

裏を返せば、募集図面に書かず、重要事項説明でも触れず、契約書の巻末に一行だけ、という形がいちばん弱いことになります。個別の事案の結論は、宅地建物取引業者や弁護士に確認してください。

いくらなら「相応の範囲」といえるのか

3つ目の「金額が相応か」は、目安を持っていないと判断できません。ここは鍵の種類でまるごと変わります。

  • 一般的なシリンダー(築古アパートで使われていることが多いもの)……1万5千円〜2万円くらい
  • 緊急の対応になったとき……出張費や深夜の割増が乗り、3万円前後になることもある
  • ディンプルキーや、上下2か所に錠が付いているタイプ……これより高くなります

物件やドアの状態、依頼する時間帯で動くので幅で見てください。問題は、自分の物件の鍵がどれなのかを知らないまま特約の金額だけ決めているときです。上下2か所に錠が付いた玄関を一般的なシリンダーの想定額で預かれば、差額はオーナーが持つことになります。

もう一つ。3万円前後という数字は、費用ではなく段取りの話です。計画して替えれば1万5千円〜2万円で済むものが、夜間に呼べば倍近くになります。

交換するのは「退去の日」ではなく「鍵が戻った日」

築古の物件で鍵の管理が崩れるのは、たいていいつ外すかを決めていないためです。

退去の立会いの日に鍵が全部そろうとは限りません。1本足りない、あとで郵送すると言われた、工事のあいだ業者に預けたまま。そのまま募集を始めると、内見のたびに古いシリンダーの鍵が現場を回ります。

  • 鍵が返却本数どおりに戻った日を基準にする(足りないまま募集を始めない)
  • 戻らなかった本数があれば、その場でシリンダー交換の判断に切り替える

鍵の受け渡しそのものを現地で完結させる形にしておくと、この管理は軽くなります。鍵が現地で受け取れないと何を失うかもあわせて確認してみてください。

鍵交換でオーナーが先に決める5つのことを示した図。今のドアにそのまま入るか、合鍵をどこで作れるか、何本渡して何本戻ったか、複数の部屋が同じ鍵で開かないか、交換の記録を残す。

シリンダーを選ぶときにオーナーが確認する5つのこと

防犯性能そのものは鍵屋やメーカーの領域なので、オーナー側で決められるところだけを挙げます。

  1. 今のドアにそのまま入るか……シリンダーだけ替えられる場合と、錠前ごとの交換になる場合があります。型番を控えてから相談する
  2. 合鍵をどこで作れるか……街の合鍵店で作れるか、メーカーに登録した人しか作れないか。退去のたびの交換の要否が変わります
  3. 本数を決めて記録する……何本渡して何本戻ったかを部屋ごとに書き残す
  4. 複数の部屋が同じ鍵で開かないか……引き継いだ古いアパートは一度試す価値があります
  5. 交換の記録を残す……いつ・どの部屋・どのシリンダーに替えたか

穴は、入居者側より先にオーナー側に空く

引き継いだ築古のアパートでよく出てくるのは、この3つです。

  • 予備鍵に部屋番号のタグが付いたまま、封筒にまとめて入っている
  • 工事のときに預けた鍵が、そのまま業者の手元にある
  • 過去に何本作ったかを誰も把握していない

特約は次の入居者からしか効きませんが、鍵の棚卸しは今日できます。

今日やることを1つだけ選ぶなら

手元の予備鍵を全部出して、部屋番号と本数を紙に書き出してください。数が合わない部屋が1つでもあれば、そこが次の退去で必ず時間を取られる部屋です。退去の立会いで記録を残す手順と同じで、揉めるかどうかは、渡すときと戻すときの一行で決まります。

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