退去の立会いで写真を撮る場所はどこか|築古アパートのオーナーがあとで揉めない記録の残し方

立会いから2週間たって、退去した方からメールが届く。「洋室の傷は入居前からありました」。手元にある写真を開くと、傷のアップが12枚。どれも傷そのものは大きく写っているのに、その傷が部屋のどの面にあるのかが分かる写真が1枚もない。これでは、こちらの言い分を裏づけられません。

結論からお伝えすると、退去の立会いで撮るべきものは「傷」ではありません。「部屋のどこに、何が、どんな状態であるか」です。傷のアップは、引きの写真と組になって初めて証拠になります。そして、何も傷んでいない面こそ撮っておく価値があります。

この記事では、築古アパートの立会いで撮る場所と順番、撮ったあとの残し方を整理します。

退去の立会いで撮る場所。部屋の全体を四隅から、壁は4面すべて、水回りの取り合い、設備の銘板、鍵とメーター、傷は全体と面とアップの3枚組で撮ることを示した図

なぜ傷のアップだけでは足りないのか

原状回復の話し合いで問われるのは、次の3点です。

  • どこにあるのか(部屋・面・高さ)
  • どのくらいの大きさか(比べるものが一緒に写っているか)
  • いつ撮ったのか(撮影日が確認できるか)

アップの写真は2番目を満たしますが、1番目と3番目を満たしません。だから「部屋の全体 → その面 → 傷のアップ」の3枚を1組で撮るのが基本になります。大きさを示したいときは、メジャーや硬貨のような比較できる物を横に置いて撮ってください。

撮る場所と順番

順番を決めておくと、立会いの現場で迷いません。玄関から入って、時計回りに部屋を回り、最後に外に出る流れが撮り漏らしにくい形です。

  1. 玄関——たたき、下足入れの中、ドアの内外、鍵穴まわり
  2. 各室の全体——部屋の四隅から4方向。1室4枚が目安です
  3. 壁の各面——傷がなくても4面すべて撮ります(理由は後述)
  4. 天井——照明のまわり、エアコンの上、雨染みの有無
  5. ——家具が置かれていた跡、建具の下、窓際の日焼け
  6. 建具——襖、障子、網戸、クローゼットの折れ戸、レールの中
  7. 水回り——浴室の床と壁の取り合い、洗面台の下、便器のまわり、シンク下
  8. 設備の銘板——給湯器・エアコン・換気扇の型番と製造年が写るように撮ります
  9. ベランダ・共用部側——排水口、手すりの根元、置き去りの荷物
  10. 鍵とメーター——返却された鍵を本数が分かるように並べて1枚。電気・ガス・水道の検針数値も撮ります

設備の銘板は、あとで交換の判断をするときに効いてきます。判断の基準は給湯器とエアコンはいつ交換するかにまとめました。

傷んでいない面も撮るのはなぜか

「問題がある場所だけ撮れば足りる」と考えると、あとで困ります。写っていない場所は、あとから何を言われても否定できません。「隣の面にも同じ傷があった」と言われたとき、その面の写真がなければ、なかったことを示せないのです。

1室あたり15〜25枚、水回りを含めて1部屋で40〜60枚が現実的な枚数です。スマホの容量では足りない、という規模ではありません。撮りすぎて損をすることはなく、撮り足りずに損をすることだけがあります。

入居前の写真がない築古物件はどうするか

ここが築古アパートで最も多い困りごとです。10年、20年前の入居時に写真を撮っていない部屋は珍しくありません。入居前の状態が分からなければ、その傷が誰によるものか示せません。

一般的には、入居前の記録がない場合、経年変化や通常の使用による損耗との区別がつかない部分について、入居者側に負担を求めることは難しくなります。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」でも、通常の使用による損耗と経年変化はオーナー側の負担という考え方が整理されており、2020年4月施行の改正民法でも同じ方向で条文化されています。

だからこそ、今回の立会いの写真を「次の入居者の入居前写真」として保存してください。今日撮った写真が、5年後の立会いで唯一の基準になります。次の募集に向けて部屋を整える順番は、退去のあと次の募集まで何日かかっているかで確認できます。

写真だけでは足りないもの

写真は状態の記録ですが、合意の記録ではありません。立会いの場では、次の3つを紙に残してください。

  • 立会いの日時と、立ち会った人の名前(入居者本人か、代理の方か)
  • その場で確認した箇所の一覧(写真の番号と対応させる)
  • 入居者が言った内容(「この傷は自分がつけた」「これは入居前からあった」という発言をそのまま書く)

そしてその紙に署名をもらう。金額をその場で決める必要はありません。「状態について、この内容で相違ないことを確認した」という一枚があるだけで、後日の話し合いが短くなります。金額を先に言おうとすると、その場で交渉が始まってしまい、確認そのものが終わりません。

残された家財がある場合は、状態の記録とは別に扱います。片付ける前に必ず撮り、処分費は原状回復費と分けて計算してください。

傷のアップだけを撮った場合と、全体と面も撮った場合の違いを左右で比較した図。前者は位置も撮影日も示せず写っていない面を否定できない。後者は位置と大きさを示せ次の入居前写真として数年後も使える

撮ったあとの残し方

写真は撮った時点では価値がありますが、探せなくなった時点で価値を失います。

  • フォルダ名は「物件名_部屋番号_退去日」で統一する(例:〇〇荘_102_20260806)
  • 入居時と退去時を同じ物件のフォルダに並べて置く
  • スマホの中だけに置かない。端末の紛失で全部消えます
  • 保存期間は最低でも次の入居者の退去まで。敷金精算の争いは数年後に出てくることがあります

修繕の履歴と組にして残しておくと、売却や融資の場面でも使えます。

今日からできること

次の退去が決まったら、立会いに行く前に上の10項目を印刷して持っていってください。現場では、順番が書かれた紙が一番役に立ちます。それだけで、撮り漏らしはほとんどなくなります。

なお、負担区分の最終的な判断や、話し合いがまとまらない場合の対応は法律の領域です。金額に大きな開きがあるときは、動く前に弁護士や専門家へご相談ください。

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