賃貸借を解除しても、解除の日までの家賃はさかのぼって消えません|築古アパートのオーナーが読む民法620条・545条

結論からお伝えすると、賃貸借を解除しても、それまでの家賃がさかのぼって消えることはありません。民法620条は、賃貸借の解除は将来に向かってのみ効力を生ずると定め、さらに、損害賠償の請求は妨げないとしています。解除の日までの家賃は、解除のあとも請求できる形に読めます。

仮の話です。家賃を3か月ためた入居者に、大家さんが契約の解除を通知する。入居者は「解除されたのだから、契約は最初からなかったことになるはず。だから家賃も払わなくていい」と言う。一般に、契約の解除は最初にさかのぼって契約をなかったことにする、と理解されがちです。しかし賃貸借は、その例外になっています。

解除の一般ルールと、賃貸借の例外

民法545条1項は、当事者の一方が解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負うと定めています。ただし、第三者の権利を害することはできません。売買などでは、解除によって契約が最初からなかった状態に戻す、という考え方です。4項は、解除権の行使は損害賠償の請求を妨げないとしています。

ところが、民法620条は賃貸借について、解除をした場合には、その解除は将来に向かってのみその効力を生ずる、と定めています。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない、とも書かれています。620条は、一般の原状回復の考え方に対する賃貸借の例外として働く、と読むのが自然です。

一般の解除と賃貸借の解除の違いを比べた図

解除のあと、何が残るのか

  • 解除の日までの家賃:解除は将来に向かってのみ効力を生じるので、それまでに発生した家賃は、解除によって消えません
  • 損害賠償:620条後段により、損害賠償の請求は妨げられません。たとえば、部屋に残された荷物や、壊された設備の補修費が考えられます
  • 敷金:賃貸借が終了し、かつ賃貸物の返還を受けたときに、未払いの賃料などを差し引いた残りを返す対象です(622条の2第1項1号)。大家さんは、敷金を未払いの債務に充てることができます(同条2項)

なお、解除のあと、入居者が明け渡すまでの間の金銭が何にあたるかは、条文には名前が書かれていません。契約書に、明渡しまでの賃料相当額や遅延損害金の定めがないかを、先に確認してください。

解除するには、何をする必要があるのか

解除の意思表示は、相手方に対してします。意思表示は、撤回できません(民法540条)。家賃を払わない入居者への解除は、通常、相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がないことが前提です(541条)。ただし、その期間を過ぎた時の債務不履行が、契約及び取引上の社会通念に照らして軽微なときは、解除できません。

催告なしで解除できる場面は、542条に並んでいます。家賃の滞納では、通常は541条の催告から始めます。

  1. 滞納の月と額を、契約書の支払期日に沿って一覧にする
  2. 支払を求める期間を定めた書面を、入居者に届け、届けた日を残す
  3. 期間内に払われなければ、解除の意思表示を書面にして届ける
  4. 解除の日付を起点に、そこまでの家賃と、そのあとの金銭を分けて計算する
賃貸借を解除したあとに残る家賃・損害賠償・敷金・明渡しまでの金銭を示した図

都合の悪いことも書いておきます

解除が認められるかどうかは、滞納の額と期間、それまでの経緯で変わり、大家さんが解除したつもりでも、あとから争われることがあります。解除が有効であっても、入居者が任意に出ていかなければ、部屋を取り戻すには別の手続きが要ります。また、家賃を請求できることと、実際に回収できることは別の話です。解除の進め方は、個別の契約書を見て、弁護士に確認してください。

滞納家賃の時効は5年で数えます。滞納家賃の時効は5年ですが、入居者が援用するまで請求は消えません|築古アパートのオーナーが読む民法166条・145条・152条にまとめています。入居者が修繕費を家賃から引いてくる場面は、入居者が修繕費を家賃から引いてくるのは、条文の上では「相殺」です|築古アパートのオーナーが読む民法505条・506条・607条の2にも書いています。

回収できなかった家賃を税金の計算でどう扱うかは別の話で、回収できなかった家賃の落とし方は、室数で変わります|大家が読む所得税法51条2項と64条、2か月の期限に書いています。

今日できること

  1. 滞納が続いている入居者がいれば、月ごとの支払期日と未払いの額を一覧にする
  2. 賃貸借契約書で、解除に関する条項と、明渡しまでの金銭の定めを探す
  3. 催告の書面を出した日と、届いた日の記録が残っているかを確認する

出典

民法540条・541条・542条・545条・620条・622条の2(e-Gov法令検索・2026年10月1日時点)。

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