滞納家賃の分割払いを公正証書にしても、強制執行できるのは金銭の支払だけで、明渡しは入りません|築古アパートのオーナーが読む民事執行法22条5号
結論からお伝えすると、滞納家賃の分割払いを公正証書にしても、その約束で強制執行ができるのは「金銭の一定の額の支払」の部分だけです。建物の明渡しは、民事執行法22条5号の対象に入っていません。しかも、公正証書なら何でも強制執行できるわけではなく、入居者が「直ちに強制執行を受けてもよい」という陳述をした公正証書であることが条件です。
仮の話です。滞納が5か月分になった入居者と、毎月2万円ずつの分割で話がついた。大家さんは「せっかくなら公正証書にしておこう」と考え、公証役場へ行く。ところが公正証書に、家賃の分割払いだけでなく「支払わなければ部屋を明け渡す」とも書いてもらったことで、「これで明渡しまで強制できる」と思い込む。条文を見ると、そこまでは言えません。
公正証書で強制執行ができる条件は3つです
民事執行法22条5号は、強制執行を行うための書類(債務名義)の1つとして、次のものを挙げています。金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載され、又は記録されているもの。これを執行証書と呼びます。
- 公証人が作成したもの:当事者が自分たちで作った合意書では足りません
- 金銭の一定の額の支払などを目的とする請求:「毎月2万円を、いくらになるまで」のように、額が決まっている支払が対象です
- 債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されていること:入居者本人の意思として書かれている必要があります
この3つがそろった公正証書は、判決を待たずに債務名義になります。実際に強制執行を始めるには、執行文を付けた正本が要ります(民事執行法25条)。

建物の明渡しは、22条5号に入るのか
22条5号の文言は、金銭の一定の額の支払、その他の代替物又は有価証券の一定の数量の給付です。建物を明け渡すことは、ここに並んでいません。したがって、公正証書に明渡しの約束を書いたとしても、それだけを根拠に、明渡しの強制執行に進める形には読めません。
明渡しを求めるなら、別の手続きを考えることになります。どの手続きを選ぶかは個別の事情で変わるため、弁護士に相談してください。滞納家賃の時効の数え方は、滞納家賃の時効は5年ですが、入居者が援用するまで請求は消えません|築古アパートのオーナーが読む民法166条・145条・152条にまとめています。

公正証書にするとき、注意する点は何か
- 入居者本人が、公証役場へ出向く必要があるか(代理人を立てるか)を、公証人に確認する
- 支払の額と期日を、月ごとに特定して書いてもらう。額が決まっていなければ、22条5号の条件を満たしにくくなります
- 期日が来る前に強制執行を始めることはできません。請求が確定期限の到来に係る場合、強制執行はその期限の到来後に限り開始できます(民事執行法30条1項)
- 1回でも遅れたときに、残りをまとめて請求できる条項を入れるかどうかを、公証人と相談して決める
3つ目の点は、分割払いのたびに期日が来ることを意味します。条項の書き方によって、いつの時点で、いくらの強制執行を始められるかが変わります。
都合の悪いことも書いておきます
公正証書は、作るために公証役場へ行く手間がかかり、手数料も要ります。入居者が応じなければ作れません。作れたとしても、差し押さえられる給与や財産がなければ、回収は進みません。また、条文の言葉は文言どおりに読まれますので、書き方を誤ると、強制執行に使えない公正証書になることがあります。条項の作り方は、公証人と、弁護士などの専門家に確認してください。
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今日できること
- 分割払いの約束が、書面か口頭かを確認し、書面なら作成者が公証人かどうかを見る
- 約束の中身を、金銭の支払と、部屋の明渡しに分けて書き出す
- 公証役場へ行く前に、入居者の都合と、必要な書類を電話で確認する日を決める
出典
民事執行法22条・25条・30条(e-Gov法令検索・2026年10月1日時点)。


