地震のあとに貼られる赤い紙は、取り壊しの決定ではありません|築古アパートのオーナーが動く順番
結論からお伝えすると、地震のあとにアパートの入口へ貼られる赤い紙は、取り壊しの決定でも、罹災証明の全壊判定でもありません。「被災建築物応急危険度判定」といって、余震で倒れたり落ちたりする危険があるかを、その場で見た結果です。埼玉県の説明でも「この調査は地震発生後の二次災害防止のためにおこなうもので、罹災証明のための調査(被災度区分判定)とは異なる」と明記されています。目的の違う2つの調査を、順番に通していくことになります。
揺れの翌朝、入居者から「玄関のところに赤い紙が貼ってあります。もう住めないんですか」と連絡が入る。オーナーは遠方にいて、現地を見ていない。この状態で答えを出さないといけない場面を想定して、動く順番を整理します。

赤・黄・緑は、余震で危ないかを見た結果
埼玉県の要綱に基づく判定は、次の3段階です。建物の出入り口など見えやすい場所に貼られ、建物を使う人だけでなく、前を通る歩行者にも安全性が分かるようにすることを目的にしています。
- 緑(調査済み) … 使用可能と判断された
- 黄(要注意) … 立ち入る場合は十分注意する
- 赤(危険) … 立ち入りは危険
判定を行うのは、知事の認定を受けた応急危険度判定士です。埼玉県では令和4年度から「参集マッチングシステム」が動いており、県内で震度5弱以上の地震が発生した場合に判定士が参集の可否を登録する仕組みになっています。つまり震度5弱が、この判定が動き出す目安の1つです。
阪神・淡路大震災を起こした兵庫県南部地震では、46,610棟が判定され、調査済30,832棟・要注意9,302棟・危険6,476棟という結果が公表されています。赤は全体の13.9%です。紙の色は、建物の一生を決めるものではありません。
罹災証明は別の窓口、別の調査
罹災証明書の根拠は災害対策基本法90条の2第1項です。「市町村長は、当該市町村の地域に係る災害が発生した場合において、当該災害の被災者から申請があつたときは、遅滞なく、住家の被害その他当該市町村長が定める種類の被害の状況を調査し、当該災害による被害の程度を証明する書面を交付しなければならない」と定めています。
応急危険度判定は「これから危ないか」、罹災証明は「どれだけ壊れたか」を見ています。前者は自治体が自ら動き、後者は申請しないと始まりません。赤い紙が貼られたからといって、罹災証明が自動的に出ることはありません。
自分が住んでいないアパートは「住家」に入るのか
条文は「住家の被害その他当該市町村長が定める種類の被害」と書いています。住家以外の建物をどう扱うかは、その市町村長が定めた種類によります。オーナーが住んでいない賃貸アパートについて、誰の名義でどの証明を出すのかは自治体ごとに運用が分かれるところです。被害の写真を撮ったら、申請の前に市町村の担当課へ、誰が申請できるのかを電話で確かめてください。ここを飛ばすと、片付けが済んだ後で証拠が残っていない、という順番の事故が起きます。
賃料は、請求を待たずに減る
民法611条1項は「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される」と定めています。
「減額される」であって「減額を請求できる」ではありません。入居者から申し出がなくても、使えなくなった割合の分だけ賃料は下がっている、という建て付けです。設備が止まったときの急ぎ方は入居中に設備が壊れたとき、どこまで急ぐのか|築古アパートのオーナーが決める3つの期限と同じ考え方でそろえられます。
建物全部が使えなくなったときは、616条の2が「賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了する」と定めています。解約の通知も、合意書もいりません。当然に終わります。敷金の返還や残置物の扱いは、終わった後の精算として動くことになります。

動く順番
- 入居者の安否を確認する。連絡先が古いままだと、ここで止まります
- 建物に近づいてよいかを確かめる。判定の紙が貼られていれば色を写真に残す。貼られていなければ、外から見える範囲で撮る
- 被害の写真を撮る。片付ける前に、全体・階ごと・部位ごとの3段階で
- 市町村へ罹災証明の申請方法を確認する。誰が申請できるのかを先に聞く
- 賃料の扱いを決めて、入居者へ書面で伝える。611条1項の割合をどう見たかを残す
- 保険会社へ連絡する。地震による損害は火災保険では出ないため、地震保険の有無で分かれます
地震保険を付けるかどうかの判断材料は木造アパートの地震保険料は埼玉も東京も同じです|築古オーナーが付けるか決める3つの数字にまとめました。落下や倒壊で人に当たったときの責任は火災保険だけでは大家の賠償は埋まらない|民法717条に所有者の免責はありませんで扱っています。
揺れる前にできること
順番の1番でつまずくのは、たいてい連絡先です。入居者の携帯番号と、緊急時の連絡先が今も生きているかを、年に1度は更新しておくこと。高齢の入居者が増えている物件では、この一手間の効きが大きくなります(高齢の入居者が増えた築古アパートの備え|オーナーが整える緊急連絡と見守りの形)。
敷地の中で先に手を入れられるものもあります。アパートのブロック塀は今のうちに点検する|オーナーが自分で見られる5つの点と、風のときの順番をまとめた台風が来る前と後、オーナーが動く順番|築古アパートで先に見る5か所もあわせてお読みください。
今日やることを1つだけ選ぶなら
物件のある市町村の名前と「罹災証明」で検索し、申請の窓口と必要書類のページを1つ、ブックマークしておくこと。災害の直後は回線も窓口も混みます。平時に開いておけば、順番の4番で迷いません。
出典は埼玉県「被災建築物応急危険度判定とは」(2023年10月25日掲載)と、e-Gov 法令検索の災害対策基本法・民法(2026年9月5日時点)です。建物が安全かどうかの判断は、この記事ではできません。実際の危険度は建築士や自治体の判定に、保険の可否は保険会社に、それぞれ確認してください。


