古い仮登記は、名義人の承諾があれば消せます。応じないときは判決が要ります|築古アパートのオーナーが読む不動産登記法110条と63条
結論からお伝えすると、登記簿に古い仮登記が残っているとき、条文が用意している抹消の道は3つです。名義人が単独で申請する道と、名義人の承諾を得た利害関係人が申請する道(どちらも不動産登記法110条)、そして名義人が応じないときの確定判決による道(63条1項)です。築古アパートのオーナーが気をつけたいのは、「古いから消えている」「請求権が時効で消えたから抹消できる」とは条文のどこにも書かれていないことと、抵当権の抹消で使う70条の道は、条文が挙げる権利に仮登記が入っていないことです。
たとえば、先代から相続した土地の登記簿を取ってみたら、権利部に「仮登記」と書かれた欄が1件、何十年も前の日付のまま残っていた場面です。建て替えの融資や売却の話が出たとき、この欄が引っかかります。
仮登記は、何を守る登記ですか?
不動産登記法105条は、仮登記をすることができる場合を2つ挙げています。
- 1号:権利の保存・設定・移転・変更・処分の制限・消滅があったのに、登記の申請に必要な情報のうち、法務省令で定めるものを提供できないとき
- 2号:権利の設定・移転・変更・消滅に関する請求権(始期付き・停止条件付きのものなど、将来確定することが見込まれるものを含む)を保全しようとするとき
古い仮登記で多いのは、売買の予約や、条件が付いた売買にもとづく2号のものです。民法556条の売買の予約の読み方は、売買の「予約」は、相手が買うと言った時から売買の効力が生じます|築古アパートのオーナーが読む民法556条に書いています。
古い仮登記が残っていると、条文の上では次のことが起きます。
- 本登記をすると、その順位は仮登記の順位になります(106条)。仮登記より後に登記された権利があっても、仮登記の名義人が本登記をすれば、順位は仮登記の時に戻ります
- 所有権に関する仮登記を本登記にするには、登記上の利害関係を持つ第三者がいれば、その承諾が要ります(109条1項)。承諾があって本登記をすると、登記官は職権で、その第三者の権利に関する登記を抹消します(同条2項)。仮登記より後に所有者や抵当権者になった人は、この承諾を求められる側になりえます。当たるかどうかは個別の場面で変わるので、専門家に確認してください
- 買主が代金の支払を拒める条文(民法577条)は、抵当権・先取特権・質権の登記を挙げていて、仮登記は書かれていません。仮登記が残る不動産を売るときに、買主がどう動けるかは、この条文からは読めません
登記簿の権利部の読み方そのものは、登記簿の乙区は、権利の種類と順位と数字の3つを順に読みます|築古アパートのオーナーが読む不動産登記法59条と83条に書いています。
古い仮登記は、年数がたてば自然に消えているのではありませんか?
消えていません。条文を並べると、理由が分かります。
- 登記は、法令に別段の定めがある場合を除いて、当事者の申請か官庁・公署の嘱託がなければ、することができません(不動産登記法16条1項)。権利に関する登記の申請は、原則として登記権利者と登記義務者が共同でします(60条)
- 登記官が自分で消せる場合は限られています。71条の職権抹消は、25条1号から3号と13号に当たる場合だけです。13号は政令(不動産登記令20条)に任せていて、8つの場合が並びますが、年数がたったことも、時効も挙がっていません
- 仮登記の原因になった請求権のほうは、時効で消える可能性があります。債権は、権利を行使できると知った時から5年、行使できる時から10年で消えます(民法166条1項)。債権や所有権以外の財産権は、行使できる時から20年です(同条2項)。ただし、時効は当事者が援用しなければ、裁判所がそれによって裁判できません(民法145条)
つまり、請求権が消えていても、登記の欄は自動では消えません。消すには申請が要ります。仮登記の原因がどの請求権で、どの時効に当たるかは、契約の中身で変わります。ここは条文だけでは言い切れません。

道1と道2:名義人の承諾があれば、単独で消せます(110条)
普通の登記の抹消は、60条の共同申請が原則です。仮登記の抹消だけは、110条が例外を置いています。
- 道1:仮登記の登記名義人が、単独で申請できます(110条前段)
- 道2:仮登記の名義人の承諾がある場合の、仮登記の登記上の利害関係人も、単独で申請できます(同条後段)。仮登記より後に登記を受けた所有者や抵当権者が、これに当たりえます
つまり、仮登記の名義人に連絡が取れるなら、名義人の承諾を取るのが近道です。登記上の利害関係人が単独で申請するときも、鍵になるのは名義人の承諾です。
- 名義人の氏名や住所が、登記簿の記載と合わないと、申請は却下されます(25条7号。110条前段の場合は登記名義人が対象です)。名義人が引っ越していたり、名前が変わっていたりするときは、先に変更の手続きが要る場面があります。登記簿の住所が古いままのときの話は、大家さんの住所変更登記が2026年4月から義務に|登記簿の住所が古いままの人がやることに書いています
- 費用のうち登録免許税は、登記の抹消なら、不動産1個につき1,000円です。同じ申請書で20個を超える不動産の登記の抹消を受けるときは、申請1件につき2万円です(登録免許税法 別表第一 一(十五))。司法書士に頼むときの報酬は、条文では決まっていません
この道で、承諾を証明する書類の具体的な中身と、名義人が亡くなっていたり、法人が解散していたりするときに誰が承諾できるかは、この記事では確かめていません。法務局の登記相談か、司法書士に聞いてください。
道3:名義人が応じないときは、確定判決をもらいます(63条1項)
名義人が承諾してくれない、あるいは行方が分からないときは、共同して申請しなければならない者の一方に登記手続をすべきことを命ずる確定判決があれば、他方が単独で登記を申請できます(63条1項)。
- 相手の住所が分からないときの裁判には、裁判所書記官が申立てにより公示送達をする仕組みがあります(民事訴訟法110条1項1号。当事者の住所・居所その他送達をすべき場所が知れない場合)
- ただし、判決が出るかどうかは、抹消を求める理由が認められるかで決まります。仮登記の原因になった請求権が今も残っているのか、消えているのか。その見通しは、条文だけでは出せません
- 裁判にかかる費用と期間は、この記事では確かめていません
抵当権の抹消で使う70条の道は、仮登記でも使えますか?
前の記事で扱った70条の道は、条文が挙げる権利に、仮登記が入っていません。
- 70条2項のみなし規定は、地上権・永小作権・質権・賃借権・採石権に関する登記と、買戻しの特約に関する登記が対象です
- 70条4項(被担保債権の消滅の証明、弁済期から20年と供託)と70条の2は、先取特権・質権・抵当権の登記が対象です
- 70条1項の公示催告は、権利の種類を限っていません。ただし、同項の書き出しは「共同して登記の抹消の申請をすべき者の所在が知れない」場合で、仮登記の抹消に、110条の単独申請と並べてどう当てはまるかは、条文だけでは言い切れません。法務局か司法書士に確認してください
休眠した抵当権の抹消の道は、明治・大正の抵当権の登記が残る土地は、相手が行方不明でも抹消の道が4つあります|築古アパートのオーナーが読む不動産登記法70条と70条の2に書いています。
担保のための仮登記なら、別の法律が働きます
古い仮登記が、お金の貸し借りの担保として付けられたもののときは、仮登記担保契約に関する法律が働きます。この法律は、金銭債務を担保するため、不履行があるときに債権者に所有権などを移すことを目的とした代物弁済の予約や、停止条件付代物弁済契約など、仮登記のできる契約を対象にしています(1条)。
- 土地や建物の所有権を移す契約では、債権者が清算金の見積額(清算金がないと認めるときは、その旨)を通知し、その通知が債務者等に届いた日から2か月がたたなければ、所有権移転の効力は生じません(2条1項)
- 清算期間が過ぎた時の土地等の価額が債権等の額を超えるときは、債権者は超える額を清算金として支払わなければなりません(3条1項)。清算期間が経過する前に、この規定に反する特約で債務者等に不利なものは無効です(3条3項)
- 債務者等は、清算金の支払の債務の弁済を受けるまでは、債権等の額に当たる金銭を提供して、所有権の受戻しを請求できます。ただし、清算期間が経過した時から5年が経過したとき、または第三者が所有権を取得したときは、請求できません(11条)
つまり、仮登記が売買の予約なのか、お金の担保なのかで、読む法律が変わります。登記簿の見た目だけで、どちらかを決めることは、条文からはできません。契約書や、当時のやりとりの記録を見る必要があります。

3つの道は、何が違いますか?
- 名義人の協力が要る道:道1(名義人が単独)と道2(名義人の承諾を得た利害関係人)
- 名義人の協力が要らない道:道3だけです。ただし裁判所の判断が入ります
- 費用が決まっているもの:登録免許税だけです(不動産1個につき1,000円)
- 年数だけで進む道:どれにもありません
都合の悪いことも書いておきます
- この記事は、条文を並べたものです。どの道が使えるかは、名義人が誰か、生きているか、仮登記の原因が何か、契約書が残っているかで変わります。個別の場面は、司法書士か弁護士に相談してください
- この記事は、手続きの費用と期間のうち、登録免許税しか扱っていません。司法書士や弁護士の報酬、裁判の期間は、条文で確かめていません
- 名義人が亡くなっているとき、法人が解散しているときの扱いは、確かめていません。承諾する立場の人が誰になるかは、専門家に任せてください
- 仮登記が消えても、建て替えや売却の手続き自体は別に必要です。この記事は、その手続きを扱っていません
今日やることを1つだけ選ぶなら
登記事項証明書の権利部を法務局で取り、「仮登記」と書かれた欄の「受付年月日・登記の目的・原因・名義人」を1件ずつ書き出してください。名義人が個人か法人か、住所が今も同じかも、あわせて見ます。原因が売買の予約か、お金の担保かが分かれば、読む法律が決まります。分からないときは、そのメモを持って司法書士に聞くところから始めます。
出典
- 不動産登記法16条・25条・60条・63条・70条・70条の2・71条・105条・106条・109条・110条、不動産登記令20条、仮登記担保契約に関する法律1条・2条・3条・11条、民法145条・166条・556条・577条、民事訴訟法110条、登録免許税法 別表第一 一(十五)(e-Gov 法令検索・2026年10月21日時点)


