事業的規模の線は1本ではありません|築古アパートのオーナーが所得税と個人事業税で数え方を分ける

結論からお伝えすると、「5棟10室」で覚えている線と、県から納税通知書が届くかどうかの線は別のものです。前者は所得税の話、後者は個人事業税の話で、基準を決めているのが国ではなく都道府県だからです。埼玉県と千葉県では、同じ「不動産貸付業」の認定基準の中身が違います。

8月に県税事務所から封筒が届く。中に入っているのは個人事業税の納税通知書で、第1期の納期限は8月末日、第2期は11月末日。所得税の確定申告のときには何も言われなかったのに、なぜこれが来たのか——という順番で気づくことになります。個人事業税は、所得税の確定申告をしていれば別途の申告が要らない税金だからです(出典:埼玉県「個人事業税」)。

まず、根拠がどこにあるかを分けます

個人事業税は地方税法72条の2第3項が「個人の行う第一種事業、第二種事業及び第三種事業に対し、所得を課税標準として事務所又は事業所所在の道府県において、その個人に課する」と定めています。そして同条8項4号に「不動産貸付業」8項13号に「駐車場業」が第一種事業として並んでいます(出典:e-Gov法令検索「地方税法」2026年9月2日時点)。

ところが、法律には「何室から不動産貸付業なのか」が一切書かれていません。ここを埋めているのが各都道府県が公表している認定基準です。だから、県境をまたぐと数字が変わります。

「5棟」と「10室」は、所得税と事業税で指すものが違います

埼玉県が公表している建物の認定基準は次のとおりです(出典:埼玉県「不動産貸付業・駐車場業の認定基準について」2026年3月31日掲載)。

建物の種類 埼玉県の認定基準
一戸建の住宅 10棟以上
一戸建以外(アパート・貸間等)の住宅 10室以上
住宅以外の一戸建 5棟以上
住宅以外で一戸建以外 10室以上

所得税で事業的規模の目安とされる「おおむね5棟10室」と見比べてください。一戸建の住宅は、所得税では5棟でも、埼玉県の事業税では10棟です。逆に「5棟」が出てくるのは住宅以外の一戸建、つまり店舗や事務所として貸している建物のほうです。

戸建を6棟お持ちで賃貸に出している場合、所得税では事業的規模として扱える一方、埼玉県の事業税では原則として認定基準に届いていない、ということが起こります。同じ「5」と「10」という数字が、別のものを数えているのがこの分野の分かりにくさです。青色申告のほうの線引きについては青色申告にすると何が変わるかをご覧ください。

個人事業税の認定基準で数え方を間違えやすい3点の図。空室も数える、共有は持分で割らない、判定するのは住所の県

数え方で間違えやすいのは、この3つです

1. 空室も数えます

埼玉県のページには注意事項として「空屋等についても、貸付け可能な棟数等として認定基準に含めて数えます」と明記されています。10室のアパートで4室が空いていても、数えるのは10室です。築古で空室が続いている物件ほど、この一文は効きます。

2. 共有でも、持分では割りません

同じく埼玉県は「共有に係る不動産を貸し付けている場合は、持分であん分せず、貸付不動産全体の部屋数や面積、駐車可能台数により認定します」としています。千葉県はさらに具体例を書いています。「10室のアパートを2人が2分の1ずつの持分で共有している場合には、それぞれの者について10室を基準とします」(出典:千葉県「不動産貸付業及び駐車場業について」令和7年4月23日更新)。

相続でアパートが兄弟の共有になった場合、2人とも10室として判定されることになります。ただし税額の計算のほうは持分に応じた不動産所得が基準です、と千葉県は続けています。認定は全体、計算は持分という組み合わせです。

3. 判定するのは、物件のある県ではありません

地方税法72条の2第3項の文言は「事務所又は事業所所在の道府県において」です。事務所を設けていない場合は同条7項で「その事業を行う者の住所又は居所のうちその事業と最も関係の深いもの」を事務所とみなします。

千葉県はこれを噛み砕いて「県外に貸付不動産がある人でも、事務所又は事業所(これらが設けられていない場合は、事業を行う人の住所又は居所のうちその事業と最も関係の深いもの)が千葉県にあり、認定基準を満たす場合は、千葉県で個人事業税が課されます」と書いています。

さいたま市にお住まいで千葉県内のアパートを持っているなら、見るのは埼玉県の基準です。物件の所在地の県ではありません。

埼玉県と千葉県で異なる、基準未満でも不動産貸付業と認定される場合の条件を左右で比べた図

基準に届いていなくても課税される場合があります

ここが県によっていちばん違うところです。

埼玉県 千葉県
基準未満でも認定される場合 貸付総面積が400平方メートル以上で、かつ貸付収入金額が800万円以上(貸付数に関係なく認定) 次のすべてを満たす場合/①基準の2分の1以上の規模 ②賃貸料収入が年900万円以上 ③家屋の総床面積が600平方メートル以上

面積の数字も収入の数字も、条件のつなぎ方も違います。8室のアパートで届かないと思っていても、面積と収入によっては認定されるという点だけは、どちらの県でも共通しています。

千葉県はもう一つ、見落としやすい注記を置いています。「独立的に区画された2以上の室を有する建物は、1棟貸しの場合でも室数により認定します」。アパート1棟を法人などに丸ごと貸していても、数えるのは1棟ではなく室数だ、ということです。

駐車場は、別の枠で数えます

地方税法は「不動産貸付業」と「駐車場業」を8項の別々の号に置いています。埼玉県の駐車場業の認定基準は、青空駐車場が駐車可能台数10台以上または総面積300平方メートル以上建築物である駐車場(立体式・地下式・ガレージなど)は台数に関係なく事業と認定です。千葉県も同様に、建築物である駐車場・機械設備を設けた駐車場は全てが対象としています。

ただし、ここには実務上ややこしい線があります。埼玉県は平成22年度の課税分から取扱いを変更し、次のように整理しました(出典:埼玉県「『駐車場業』の取扱いを一部変更しました」)。

  • 月極駐車場や時間貸駐車場を自ら経営している場合(管理を委託している場合を含む)……駐車場業として認定
  • 駐車場用地として土地を一括して貸し付けている場合……原則として「貸地」として不動産貸付業の認定に含める
  • 建築物である駐車場を一括して貸し付けている場合……「独立家屋」として不動産貸付業の認定に含める

ここでいう「利用に関する管理業務」とは、駐車場利用者の募集、契約及び駐車車両の特定など、駐車場を経営する上で必要な業務を指すと同資料は説明しています。千葉県も「駐車場の設置費用を負担し、自ら管理している(管理を委託している場合も含みます。)ことが要件」としています。

アパートに付属した駐車場の扱いについてはアパートの無断駐車と放置自転車をどう止めるか|築古アパートのオーナーが自分で動かす前に踏む3つの段もあわせてご覧ください。

認定されたら、いくら払うことになるのか?

地方税法72条の49の14は「事業を行う個人については、当該個人の事業の所得の計算上二百九十万円を控除する」と定めています。年の途中で開業・廃業した場合は月割りで、6か月なら145万円です(同条2項・3項)。

税率は不動産貸付業・駐車場業とも第1種事業の5%。計算は「総収入金額-必要経費-繰越控除額等-事業主控除額(年290万円)」に税率を掛ける形です。認定基準を満たしていても、所得が290万円以下なら税額はゼロになります。

納期は埼玉県・栃木県とも8月末日と11月末日の年2回。埼玉県は税額が1万円以下の場合は8月に一括です。

栃木県には、もう一つ知っておきたい運用があります。栃木県は令和元年度から第2期分の納付書を、8月に送る第1期分の納付書に同封して送付しており、11月には第2期分を送りません(出典:栃木県「事業税」)。11月に納付書が届くのを待っていると、期限を過ぎます。紛失した場合は管轄の県税事務所へ連絡する形になります。

栃木県は認定基準の表を公表していません

2026年9月2日時点で、栃木県の「事業税」のページには不動産貸付業の認定基準の表がありません。掲載されているのは第1種事業に不動産貸付業が含まれること、税率5%、事業主控除290万円、納期までです。

代わりにページの末尾に、こう書かれています。「不動産の貸付又は駐車場の提供を行っている場合、貸付不動産の保有状況に係る明細書の提出に御協力ください」。Excel形式の様式が置かれています。保有状況を出してもらって県側が判定するという運用です。栃木県南部に物件をお持ちで、判定の見通しを立てたい場合は、管轄の県税事務所に直接確認するのが早い形になります。

都合の悪いことも書いておきます

  • 認定基準は県のホームページに載っているもので、法律の条文ではありません。運用が変わることがあります(埼玉県の駐車場業の取扱いが平成22年度課税分から変わったのが実例です)
  • ここに挙げた数字は埼玉県・千葉県の公表値です。他県に事務所や住所がある場合は、その県の基準を確認してください
  • 個人事業税は翌年の必要経費に算入できる税金です。払って終わりではなく、翌年の申告に効きます
  • 具体的な認定結果は、埼玉県・千葉県とも「管轄の県税事務所へ」としています。本記事は一般的な整理で、個別の判定は県税事務所または税理士にご確認ください

今日やることを1つだけ選ぶなら

お手元の物件を「一戸建の住宅」「アパートの室数」「住宅以外」「土地の貸付契約件数」「駐車場の台数」の5つに仕分けて、空室も含めて数えてみてください。合計が10に近いなら、次の年に通知書が届く可能性があります。数えるのは今日15分で終わります。第2期の納期限は11月末日です。

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なお本記事は2026年9月2日時点の各県の公表資料と条文にもとづく一般的な整理です。個別の課税関係は県税事務所または税理士にご確認ください。

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