満室なのにお金が残らない築古アパート|オーナーが収支のどこを見直すか
結論からお伝えすると、満室なのに現金が残らない築古物件は、家賃の側ではなく「毎年必ず出ていく固定費」と「数年ごとにまとまって出る支出」が収支表に入っていないことが原因です。手取りは満室想定の家賃ではなく、12か月ぶんの通帳の入りと出で見ます。
12月の夜。確定申告のために通帳をコピーしていく。8部屋のアパートで、この1年は退去が1件だけ。ほとんどの月が満室だった。帳簿の家賃合計は去年より増えている。それなのに、通帳の残高が去年の同じ日とほとんど変わっていない。「満室なんですけどね」——この一言が出るとき、たいてい原因は家賃の外にあります。

満室でも残らない4つの落とし穴
1. 毎年出ていく固定費を月割りしていない
買うときに見た利回りは、たいてい表面利回りです。そこには固定資産税も保険も共用部の電気代も入っていません。築古物件で毎年出ていくものを、一度全部書き出してください。
- 固定資産税・都市計画税(年4回に分かれるので忘れやすい)
- 火災保険・地震保険(数年分を一括で払っていると、その年だけ重くなる)
- 共用部の電気代・水道代
- 共用清掃・草刈り・ゴミ置き場の管理
- 浄化槽の保守点検と法定検査(該当物件のみ)
- 消防設備の点検(該当物件のみ)
- 管理委託料・保証会社関連の費用
2. 数年ごとの大きな支出を、年割りしていない
ここが築古物件でいちばん効きます。原状回復・給湯器・エアコン・外壁は、出ない年と一気に出る年があります。出なかった年の残高を「これが手取り」と見てしまうと、出る年に現金が足りません。
原状回復の物量感はつかんでおくと判断が早くなります。クロスの張り替えなら、6畳間の壁と天井で25〜30㎡。見積りが「室内改装工事一式」の1行で出てきたときは、この数量が入っているかを聞いてください。1部屋の退去で「いくら出るか」ではなく「何㎡動くか」で考えると、見積りの妥当性が自分で判断できます。
参考までに、職人どうしのやり取りの水準も書いておきます。材料は元請けが用意し、手間だけを職人に頼む形(手間請け)だと、量産クロスで1㎡500円からが下限です。オーナーが実際に払う金額は、ここに材料費・諸経費・現場管理が乗ったものになります。職人の取り分と、自分が払う総額は別物だという感覚を持っておくと、見積りの読み方が変わります。
3. 元金の返済は経費にならない
返済のうち利息は経費になりますが、元金の返済は経費になりません。一方で減価償却は現金が出ていかない経費です。築古物件は償却できる期間が短いことが多く、一般的には、償却が終わったあたりから「帳簿上の利益は増えたのに手元の現金は減る」状態が起きやすいと言われます。ご自身の物件がいつそこに来るかは、償却の残り年数と返済表を突き合わせないと分かりません。この判断は税理士に確認してください。
4. 「入っている」と「回収できている」は別
満室は部屋が埋まっている状態です。家賃が入金されている状態とは違います。遅れが常態化している部屋、保証会社を使っていない古い契約、駐車場代だけ払われていない部屋。この3つは、満室の物件でも現金の穴になります。
手取りを出す計算の順番
順番を守るだけで、どこで漏れているかが見えます。
- 年間の入金合計(帳簿の請求額ではなく、通帳に入った額)
- −毎年出ていく固定費(上の7項目)
- −数年ごとの支出の年割り(次の節で出します)
- −返済(元金+利息)
- =年間に残る現金
仮に、家賃5万円の部屋が8戸で全戸満室なら年間480万円です。ここから固定費と年割りと返済を引いた額が、実際に使えるお金です。この数字がマイナスなら、満室が続いても状況は変わりません。入居率の話ではなく、支出の構造の話になります。
数年ごとの支出は、どう年割りするのか
過去の実績から逆算するのがいちばん確かです。記録が残っていない場合は、この形で置きます。
- 原状回復:直近3年で退去が何件あったか ÷ 3 = 1年あたりの退去件数。それに1件あたりの実績額をかける
- 給湯器・エアコン:全戸の設置年を一覧にする。10年を超えている台数が、数年内に出る可能性のある台数です
- 外壁・屋根:前回いつやったかを調べる。次回までの年数で割る
設備の入れ替え時期の考え方は 給湯器とエアコンはいつ交換するか|築古アパートのオーナーが壊れる前に決める基準、外まわりの順番は 外壁と屋根の修繕を後回しにすると何が起きるか で扱っています。

残らない物件に、打ち手はあるのか
あります。ただし順番を間違えると効きません。家賃を上げるのは最後です。
- まず出を止める:使っていない共用灯、契約が残ったままの回線、必要のない点検の重複。ここは今月から効きます
- 次に穴を塞ぐ:滞納と保証会社。回収できていない家賃は、いくら満室でも収入になりません
- 次に空室日数を縮める:退去から次の入居までの日数は、家賃を1円も下げずに手取りを増やせる場所です
- 最後に条件を見直す:初期費用の中身と募集条件。家賃を下げる前に試す4つの手 の順番で確かめます
それでも構造的に残らない物件はあります。返済が終わるまで持ち出しが続く形なら、持ち続ける以外の選択肢も並べて比べたほうがいいです。判断の材料は 築40年のアパートはリフォームか建て替えか にまとめています。
まとめ
満室でも残らないのは、多くの場合収支表が「1年ぶん」でしか作られていないためです。築古物件の支出は、5年・10年の単位で山が来ます。
今日やることを1つだけ選ぶなら、通帳の1年ぶんの出金を全部書き出して、毎年出るものと数年ごとに出るものに分けてください。それだけで、来年出ていく額の見当がつきます。税務の扱いが絡む部分は、必ず税理士にご確認ください。


