家賃をクレジットカード払いにできるか|築古アパートのオーナーが手数料と滞納の見え方で決める3点
入居申込のときに「家賃はカードで払えますか」と聞かれる回数が、ここ数年で明らかに増えています。断る理由が思いつかないので「管理会社に確認します」と答えて、そのまま話が止まる。よくある止まり方です。
結論からお伝えすると、家賃のクレジットカード払いはできます。ただし大家が決めるのは「入れるか入れないか」ではありません。決めるのは次の3点です。①手数料を誰が持つか ②入金が何日ずれるか ③引き落ちなかったことをいつ知るか。このうち③がいちばん見落とされます。

家賃のカード払いは、法律の枠がはっきりしていない
まず前提の確認から。民法601条は賃貸借をこう定義しています。
賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
一方、クレジットカード決済を規制している割賦販売法は、2条3項1号で「包括信用購入あつせん」を定義していますが、そこに並んでいるのは「商品若しくは権利を購入し、又は…役務の提供を受ける」という3つです(e-Gov法令検索・2026年9月1日時点)。
建物の賃貸借は、物を使わせる契約です。商品の購入でも、権利の購入でもありません。役務の提供に含めて読めるかどうかは解釈の余地があり、ここを断定することは避けます。ただ条文の並びを見るだけで、家賃が割賦販売法の想定の真ん中に置かれていないことは分かります。この前提が、次の項目に直結します。
入居者が「設備が壊れているから払わない」とカード会社に言えるのか
カード払いを入れるときに大家が心配するのは、たいていこれです。割賦販売法30条の4は「包括信用購入あつせん業者に対する抗弁」を定めていて、購入者が販売業者に対して生じている事由をもってカード会社に対抗できる、といういわゆる支払停止の抗弁です。
ところが同条1項は、対象を「第2条第3項第1号に規定する包括信用購入あつせんに係る購入又は受領の方法により購入した商品若しくは指定権利又は受領する役務」に限っています。そして2条3項1号には、次のかっこ書きがあります。
(当該利用者が…契約を締結した時から二月を超えない範囲内においてあらかじめ定められた時期までに受領することを除く。)
家賃のカード払いで使われるのは、ほぼ翌月一括払いです。カードを切った月の翌月に引き落ちる形は「2か月を超えない範囲内」に収まるので、この1号から外れます。1号から外れれば、30条の4の支払停止の抗弁も届きません。分割払いやリボ払いを選んだ場合は2条3項2号の側になり、また別の話になります。
さらに30条の4第4項は、政令で定める金額に満たない支払総額には適用しないと定めています。その金額は割賦販売法施行令21条で、1項が4万円、2項(リボ払いの場合)が3万8千円です。
整理すると、「カード払いにすると、設備の不具合を理由に入居者が支払いを止められるのではないか」という心配は、翌月一括払いを前提にすれば条文の上では生じにくいということになります。ただし個別の契約や決済スキームによって結論は動きます。実際に導入する前に、弁護士か、決済を担う会社の約款で確認してください。

入金の日と、家賃の支払日は別の日になる
家賃のカード払いは、大家が直接カード会社の加盟店になる形ではなく、管理会社や収納代行の会社が間に入る形が一般的です。そうすると、お金の流れに段が増えます。
- 入居者のカードが決済される日
- 入居者のカードから実際に引き落ちる日(翌月の締め日と引落日)
- 決済会社から管理会社に入金される日
- 管理会社から大家に送金される日
この4つは全部ちがう日です。そして大家が見えるのは4番目だけです。契約書に書いてある家賃の支払期日は1番目に近い日で、通帳に着くのは4番目。手元に来るまでのずれは、現金や振込より長くなります。支払期日と送金日がずれる仕組みそのものは家賃はいつ大家の口座に入るのかで扱われています。
引き落ちなかったことを知るのが遅れる
ここが③です。カードの有効期限が切れた、限度額に達した、カード会社が更新のはがきを出したが入居者が手続きをしていない。どれも大家には見えません。
振込なら、支払期日の翌日に通帳を見れば入っていないことが分かります。カード払いは、決済が通らなかったという情報が決済会社から管理会社へ、管理会社から大家へと段を降りてくるので、把握が1か月ほど遅れることがあります。2か月分まとまってから気づく形になると、初動が遅れます。
滞納の対応は最初の1週間で流れが決まります。カード払いを入れるなら、「決済が通らなかった月は何日以内に大家へ知らせるか」を管理委託の話し合いのときに決めておくことが、実務としてはいちばん効きます。滞納の初動の組み立ては家賃滞納の対応は最初の1週間で決まるにまとめています。
申告するのは「入金額」ではなく家賃の全額
カード払いにすると、決済手数料を差し引かれた金額が入ってきます。ここで通帳の金額をそのまま家賃収入として書くと、収入が過少になります。
所得税法36条1項は、収入金額とすべき金額を「その年において収入すべき金額」と定めています。実際に受け取った金額ではなく、受け取るべき金額です。手数料は差し引く前の家賃を総収入金額に入れ、手数料は必要経費の側に別で立てるのが筋になります。
いつの年の収入にするかについては、所得税基本通達36-5がこう定めています。
不動産所得の総収入金額の収入すべき時期は、別段の定めのある場合を除き…契約又は慣習により支払日が定められているものについてはその支払日、支払日が定められていないものについてはその支払を受けた日…(出典:国税庁「法第36条《収入金額》関係」36-5)
カードを切った日でも、大家に入金された日でもありません。契約書に書いた支払日です。12月分の家賃が翌年1月に入金されても、支払日が12月末なら12月分の収入になります。カード払いを入れて入金が遅くなっても、この線は動きません。個別の判断は税務署か税理士に確認してください。
手数料の消費税は、住宅の大家には戻ってこない
住宅の貸付けは消費税法別表第2第13号で非課税とされています。一方、決済手数料は課税仕入れです。非課税売上のために払った課税仕入れなので、その消費税は原則として控除できません。手数料の消費税は、そのまま負担になります。この構造は駐車場を家賃に含めるかどうかの判断とも重なるので、駐車場は家賃に含めるか別契約にするかもあわせて読むと整理しやすくなります。
手数料を家賃に乗せてよいのか
「カード払いの人だけ家賃を高くする」ことができるかという質問があります。これを禁じる条文は割賦販売法にはありません。禁じているのは、カード会社と加盟店が結ぶ加盟店規約のほうです。つまり法律の問題ではなく契約の問題であり、どの決済スキームを使うかで答えが変わります。
実務では、手数料を大家が持つか、管理会社が持つか、家賃に織り込むかの3択になります。ここを決めずに「入れましょう」と言われて入れると、送金額が毎月わずかに減り続ける形になります。1回の判断で年12回動くので、率と金額を先に確かめてください。
決めどころは3つだけ
- 手数料:率は何%で、誰が負担するか。年間でいくらになるかを12倍して見る
- 入金日:現在の送金日から何日後ろにずれるか。ローンの返済日との前後関係を確認する
- 不通知の期間:決済が通らなかった月に、大家へ何日以内に連絡が来るか。ここを書面で決める
収支の見え方が変わる話でもあります。入ってくるお金の形が変わると、どこが減っているのか分かりにくくなります。手元にお金が残らない理由をたどる手順は満室なのにお金が残らない築古アパートにまとめています。
今日できること
入居希望者から聞かれたときに答えられるように、管理会社に「カード払いに対応しているか」「手数料は何%で誰の負担か」「決済が通らなかったときの連絡は何日以内か」の3つだけ聞いてください。この3つが揃えば、導入するかどうかはその場で決められます。
税務・法務の判断が絡む部分は、税理士・弁護士へ確認しながら進めてください。3つを聞くだけなら、今日のメール1本で終わります。


