繰上返済の手数料は、法律では損害賠償です|築古アパートのオーナーが手元資金と比べる順番
結論からお伝えすると、繰上返済は借りている側の権利です。民法591条2項は「借主は、返還の時期の定めの有無にかかわらず、いつでも返還をすることができる」と定めています。それなのに手数料や清算金が要るのは、同じ条文の3項に「貸主は、借主がその時期の前に返還をしたことによって損害を受けたときは、その賠償を請求することができる」と書いてあるからです。つまり繰上返済のときに払うお金は、手続きの対価ではなく損害の埋め合わせという性格を持っています。ここを取り違えると、金額の根拠を聞く相手と聞き方をまちがえます。

「いつでも返せる」は、法律に書いてあります
銀行から借りたお金は、法律の分類では消費貸借です。民法591条は返還の時期について3つの項を置いています。
- 1項:返還の時期を定めなかったときは、貸主は相当の期間を定めて返還の催告をすることができる
- 2項:借主は、返還の時期の定めの有無にかかわらず、いつでも返還をすることができる
- 3項:返還の時期を定めた場合、貸主は、その時期の前に返還されたことで損害を受けたときは、賠償を請求することができる
2項に条件が付いていないところが大事です。「返還の時期の定めの有無にかかわらず」とあるので、20年の約定で借りていても、返す行為そのものは止められません。窓口で「繰上返済はできません」と言われる場面があるとすれば、それは返済を禁じているのではなく、3項の賠償や約定の条件が整っていないという話です。
「早く返すのだから文句はないはず」が通らない理由
ここが実務者でも取り違えやすいところです。もう1つ、民法136条を並べると構造が見えます。
- 136条1項:期限は、債務者の利益のために定めたものと推定する
- 136条2項:期限の利益は、放棄することができる。ただし、これによって相手方の利益を害することはできない
20年で返すという期限は、まず借りた側の利益と推定されます。だから借りた側は自分でその利益を放棄できる——ここまでが2項の本文です。読み落とされるのは、そのあとのただし書きです。放棄はできても、それによって相手方の利益を害することはできない。貸した側は20年ぶんの利息を計算して貸しているので、途中で返されればその見込みが崩れます。だから591条3項の賠償が用意されているという順番です。
「早く返すのだから、貸した側も喜ぶはずだ」という感覚は、条文の側では支えられていません。逆に言えば、賠償の請求は「損害を受けたとき」に限られます。金額の説明を求めるときは、手数料の相場ではなく、契約書に書かれた期限前弁済の条項を開いて話すことになります。
繰上返済の手数料は、いくらだと決まっているのですか?
法律に金額の定めはありません。591条3項は「賠償を請求することができる」とだけ書いていて、いくらとは書いていないためです。実際の金額は、金銭消費貸借契約証書の期限前弁済に関する条項で決まります。見るところは3点です。
- 一部返済と全額返済で条件が違うか
- 固定金利の期間中と変動金利で扱いが違うか(固定期間中の途中返済に清算金の定めがある形が多い)
- 申し込みの期限と、実行できる日(返済日に合わせる定めがあると、思った月に実行できません)
この3点を書き写してから電話をかけると、1回の問い合わせで金額が確定します。条項を読まずに聞くと、「ケースによります」で終わって同じ電話をもう一度かけることになります。

期間短縮と返済額軽減、どちらを選ぶか
同じ金額を入れても、効き方が逆になります。
- 期間短縮型:返済回数が減る。減る利息の総額は大きいが、毎月の手元は変わらない
- 返済額軽減型:毎月の返済が下がる。減る利息は小さいが、空室が出た月の耐える力が上がる
築古アパートで判断が分かれるのはここです。総額で得なのは期間短縮型ですが、築40年を超えた木造アパートは、給湯器の同時故障や外壁の工事のように数十万円が一度に出る場面が読みにくい。毎月の返済が下がっていれば、その月に工事を止めずに済みます。総額の損得だけで選ぶと、現金が薄いときに工事を先送りして空室期間が伸びる、という別の損が出ます。
手元資金は3つの箱に分けてから考える
繰上返済に回せるお金は、通帳の残高そのままではありません。先に3つに分けます。
- 今年出ることが決まっているお金:固定資産税、火災保険、共用部の電気と水道、消防設備の点検
- いつ出るか分からないが必ず出るお金:退去1件ぶんの原状回復、給湯器やエアコンの交換、雨漏りの応急処置
- 残り:ここが繰上返済の候補
2番目の箱を薄くすると、工事の判断が「直すかどうか」ではなく「今月払えるかどうか」に変わります。埼玉・千葉県西部・栃木県南部の築古アパートで、退去のたびに募集開始が遅れる原因の多くはここです(→ 満室なのにお金が残らない築古アパート|オーナーが収支のどこを見直すか)。
繰上返済で「経費」が減ることを見落とさない
返済のうち元金の部分は経費になりません。経費になるのは支払利息の部分です。つまり繰上返済で減るのは経費になっていた利息のほうなので、手元のお金が減ると同時に、所得の計算上の経費も減ります。表面の金利ぶんがそのまま得になるわけではない、という意味です。
木造アパートで耐用年数を過ぎている物件は、減価償却が終わって帳簿上の経費が細くなっている場合があります。その状態でさらに利息が減れば、所得は上がります(→ 耐用年数を過ぎた木造アパートの減価償却をどう考えるか|オーナー向け)。いくら得になるかの試算は税理士に確認してください。ここに書いたのは、条文と経費の区分から確かめられる範囲です。
金利が上がった局面での順番
変動金利の多くが基準にしている短期プライムレートは、最頻値が2026年8月3日実施分で2.375%になりました。2024年9月2日は1.625%だったので、2年で0.75%上がっています(出典:日本銀行「長・短期プライムレート(主要行)の推移」)。
利率が上がる局面では、順番が変わります。先に借り換えの可否を確かめ、そのあとで繰上返済を考えるほうが手戻りがありません。借り換えをすれば新しい契約書になるため、期限前弁済の条項も入れ替わります。繰上返済を実行した直後に借り換えると、入れた現金が担保余力に化けるだけで終わることがあります。返済期間の条件は築年数で先に決まるので、そこから確かめてください(→ 築30年を超えたアパートでも融資がつく条件|オーナーが先に整える資料)。
お金の出入りを月単位で並べる作業そのものは、賃貸経営の数字の基本と同じです(→ 賃貸経営で最初に覚える3つの数字)。
今日やることを1つだけ選ぶなら
金銭消費貸借契約証書の「期限前弁済」の条項に線を引くこと。一部返済と全額返済で条件が違うか、固定期間中の扱いはどうか、申し込みはいつまでか。この3行を書き写せば、繰上返済がいくらでできるのかが1回の電話で確定します。通帳の残高を見るのは、そのあとです。
出典
- 民法591条(返還の時期)・136条(期限の利益及びその放棄)(e-Gov法令検索・2026年9月4日時点の現行法。令和八年法律第四十五号による改正を反映した版)
- 日本銀行「長・短期プライムレート(主要行)の推移」(2026年9月4日閲覧。短期プライムレートは2026年8月3日実施分)https://www.boj.or.jp/statistics/dl/loan/prime/prime.htm


