築古アパートの水回りはどこまで直すか|オーナーが洗面・便器・シンクを直す順番と金額が変わる分かれ目
退去した部屋を見に行くと、洗面台の扉の下が水を吸って膨らみ、キッチンの水栓はレバーを上げるたびに首が揺れていました。便所は和式ではないものの、便座はただのふた付き。工事会社から届いた見積書には「水回り一式」と1行だけ書かれていて、金額の下に何が入っているのかは分かりませんでした。
結論|築古の水回りは「全部」ではなく「順番」で決める
結論からお伝えすると、築古アパートの水回りを一度に全部替える必要はありません。手を付ける順番は「使えない → 使いにくい → 古く見えるだけ」の3段で決まります。そして金額を決めているのは器具のグレードではなく、その部屋の取り付け条件です。同じ「キッチンの水栓交換」でも、壁に付いているか天板に付いているかで1万2,000円変わります。
見積が「一式」で出てくるかぎり、この差は見えません。逆に言えば、条件を先に割ってから見積を依頼すれば、直す範囲を自分で決められるようになります。

「水回り一式」の見積では判断できない理由
水回りの工事は、器具の値段より取り付けにかかる手間のほうが金額を動かします。見積を頼む前に、次の4点を先に割ってください。
- 水栓が壁に付いているか、天板(デッキ)に付いているか
- 便所の壁にコンセントがあるか
- 既存の器具の撤去と処分が金額に入っているか
- 他の工事とまとめて頼むか、その1か所だけ単発で頼むか
大家さんの内装屋が公表している設備工事の料金表を見ると、水栓交換の水準はこうなっています。
- キッチンのシングルレバー水栓(壁付け)……25,800円〜(税込28,380円〜)
- キッチンのシングルレバー水栓(デッキ型)……37,800円〜(税込41,580円〜)
- キッチンのシングルレバー水栓(ワンホール)……37,800円〜(税込41,580円〜)
- 浴室のサーモシャワー混合栓(壁付け)……29,800円〜(税込32,780円〜)
- 浴室のサーモシャワー混合栓(デッキ型)……41,800円〜(税込45,980円〜)
(出典:大家さんの内装屋「設備工事」の料金表・2026年8月16日時点。いずれも設備の撤去・処分・材料込み)
この水準は、継続して工事を発注する事業者向けの業者価格です。大家さんが個別に1か所だけ工事会社へ頼む場合は、ここから2〜3割ほど上を見ておいてください。
温水洗浄便座の金額を決めているのは、便器ではなく壁のコンセント
いちばん分かりやすいのが便座です。同じ料金表では、温水洗浄便座への交換は32,800円〜(税込36,080円〜)。ところが壁にコンセントがなく、配線工事とコンセント新設が必要な場合は46,980円〜(税込51,678円〜)になります。差は14,180円で、金額はおよそ1.4倍です。
便座そのものの値段ではありません。昭和のうちに建てられた部屋の便所に、電気が来ていないだけです。だから内見の前に見るべきは便器の型ではなく、便所の壁です。
参考までに、一般の方向けに工事費込みの価格を公表している事業者では、温水洗浄便座の交換工事費が13,800円(税込/オート洗浄・リモコン洗浄タイプは16,800円)、本体と工事と10年保証を合わせた価格が38,990円(税込)からとなっています(出典:交換できるくん「温水洗浄便座(ウォシュレット・シャワートイレ)」・2026年8月16日時点。運営は株式会社交換できるくん)。
洗面・便器・シンク、どれから手を付けるか
3段の順番で並べると、こうなります。
第1段:使えないもの
水が止まらない、詰まる、漏れる、お湯が出ない。ここは内見以前の話です。募集を始める前に直します。判断に迷うところではありません。
第2段:使いにくいもの
洗面台で髪が洗えない、シンクが狭くてまな板が置けない、換気扇が回っているのに湯気が抜けない。内見のときに言葉になって出てくるのがこの層です。同じ料金表では、シャンプードレッサー付きの洗面化粧台交換が幅600mmで88,800円〜(税込97,680円〜)、幅750mmで94,800円〜(税込104,280円〜)。換気扇はプロペラ式が24,800円〜(税込27,280円〜)、天井埋込式が34,800円〜(税込38,280円〜)です(出典:同料金表・撤去処分と材料込み)。
第3段:古く見えるだけのもの
使えるし使いにくくもないが、色や形が古い。ここは最後で構いません。床とクロスを替えたほうが、同じ金額で部屋全体の印象が変わります。空室の掃除をどこまでやるかと内見のときのにおい対策を先に済ませたほうが効くことも多いです。
全部替えないと決まらないのではありませんか?
内見で見られているのは「新しいかどうか」ではなく「使えるかどうか」です。水が出て、お湯が出て、においがしなければ、築年数は決定的な理由になりません。設備をどこまで足すかで迷ったときは、3点ユニットの部屋はもう決まらないのかと設備が壊れた連絡が入ったときの修理と交換の判断ラインも合わせて読んでみてください。

設備の入替は、退去時に入居者から回収できるのか
ここは誤解が多いところです。国土交通省が公表している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に関する参考資料(令和5年3月・住宅局参事官)には、設備ごとの耐用年数の抜粋表が載っています。流し台は5年、カーペットやクッションフロア、クロスは6年とされ、耐用年数を過ぎた設備は残存価値1円に近づく、という考え方が示されています。
つまり設備の入替は、入居者から回収する前提のものではなく、大家さんが計画して出していくものだということです。もちろん故意や過失による破損があれば話は別で、耐用年数を過ぎていても善管注意義務そのものは消えません。ただし個別の負担割合は契約書の内容と傷み方によって変わるため、揉めそうなときは早めに宅建業者や専門家に確認してください。
(出典:国土交通省「『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』に関する参考資料」令和5年3月)
今日やることを1つだけ選ぶなら
部屋を回って、キッチンと浴室の水栓が壁に付いているか天板に付いているか、そして便所の壁にコンセントがあるかを、写真1枚ずつ撮ってください。この2枚があるだけで、次に届く見積は「水回り一式」ではなく、条件ごとの金額で出てきます。判断できる材料が手元に残るのは、そこからです。


