内見のときのにおいはどこから来るのか|築古アパートのオーナーが消臭剤の前にやる3つ
案内の担当者が鍵を開け、ドアを引いた瞬間に、内見者が半歩下がることがあります。言葉には出しません。「ちょっと、こもってますね」と担当者がフォローして、窓を開けに行きます。10分後には気にならなくなっているのですが、申込は入りません。翌週の報告は「もう少し検討したいそうです」でした。
結論からお伝えすると、空室のにおいの多くは「部屋のにおい」ではなく「排水口から上がってきた下水のにおい」です。そして築古アパートには、においがこもりやすい構造上の理由があります。消臭剤は最後です。順番を間違えると、においの上に別のにおいを重ねることになります。

においの出どころは、たいてい3つしかない
空室で起きるにおいは、原因で分けると次の3つに整理できます。混ざっていることもありますが、対処の順番はこの並びです。
- 排水トラップの封水切れ(下水のにおい・数週間の空室で起きる)
- 空気が動いていない(こもったにおい・締め切りが続くと必ず起きる)
- 前の入居者の生活臭が残っている(タバコ・ペット・調理。壁と天井に吸われている)
1と2は、費用がほとんどかかりません。3だけが工事の話になります。1と2を先に潰さずに3の見積もりを取ると、必要のない工事を買うことになります。
排水トラップの水は、最大でも10cmしかない
洗面台や浴室の排水口の下には、S字やワン型の「排水トラップ」があります。ここに溜まった水が蓋の役目をして、下水管のにおいと虫が室内に上がってくるのを止めています。
この設備は国の告示に定義がそのまま書かれています。「排水トラップ(排水管内の臭気、衛生害虫等の移動を有効に防止するための配管設備をいう)」(昭和50年建設省告示第1597号 第2 三)。においと虫を止めるための設備だ、と国が定義しているわけです。
そして深さの基準も同じ告示にあります。
「排水トラップの深さ(排水管内の臭気、衛生害虫等の移動を防止するための有効な深さをいう。)は、五センチメートル以上十センチメートル以下(阻集器を兼ねる排水トラップにあつては、五センチメートル以上)とすること」(同 第2 三 ニ)
ここが要点です。においを止めている水は、深くても10cm。それ以上は法令上も認められていません。誰も使っていない部屋では、この水が蒸発します。夏場なら数週間、冬でも数か月で減ります。水が切れた瞬間、配管はただの穴になり、下水のにおいがまっすぐ上がってきます。
やることは、水を流すことだけ
対処は拍子抜けするほど単純です。空室の間、月に1回、各排水口に水を流す。キッチン、洗面、浴室、洗濯機の防水パン、そして忘れられがちなベランダや廊下の排水口です。
コップ1杯では足りません。トラップの中の水を入れ替えるつもりで、10秒ほど流してください。長期の空室なら、蒸発を遅らせる目的で市販の封水蒸発防止剤を入れる方法もあります。
内見が入ってから慌てて流しても間に合います。におい自体は、水が戻れば止まります。ただし部屋に広がったにおいが抜けるまでには時間がかかるので、内見の前日ではなく2〜3日前に一度行ってください。
なぜ築古の空室は、これほどこもるのか
「最近の家はこんなにおいがしない」と感じている方は、正しいです。理由は掃除の差ではなく、法令の切り替わりです。
シックハウス対策として建築基準法が改正され、居室を有するすべての建築物に機械換気設備の設置が原則として義務づけられました。国土交通省は「シックハウス対策に係る法令等は、平成15年(2003年)7月1日に施行されました」と公表しています。住宅の居室で求められている換気の量は、建築基準法施行令第20条の8で換気回数0.5回/時(部屋の空気が2時間で入れ替わる量)とされています。
裏返すと、2003年6月以前に建てられた部屋には、24時間動き続ける換気設備を付ける義務がありませんでした。昭和築のアパートに換気扇はあっても、それは「回したときだけ回るもの」です。誰もいない空室では、誰も回しません。
これは欠陥ではなく、建てられた時期の基準の違いです。ただし「放っておくと空気が止まる建物だ」という前提でオーナーが動く必要がある、ということでもあります。
空室のときに何をしておくか
- 浴室の換気扇を回しっぱなしにする。24時間換気に近い状態を人工的に作る方法です。電気代は機種と契約で変わりますが、消費電力20Wの機種を24時間・30日回した場合の電力量は約14kWhです(20W×24時間×30日)。1kWhあたり31円で計算すると、ひと月で450円ほどになります
- 室内のドアと押入れ・下駄箱を開けておく。閉じた空間が残ると、そこだけにおいが濃くなります
- 窓を開ける日を月1回つくる。排水口に水を流す日と同じ日にすれば、行く回数は増えません
それでも残るにおいは、どこに吸われているのか
1と2を潰しても残るなら、においは壁と天井にあります。タバコのヤニ、ペット、長年の調理。クロスの表面を拭いても戻ってくるのは、下地まで届いているためです。
ここで初めて費用の話になります。大家さんの内装屋(当社が運営する原状回復の専門サービスです)の公表料金では、ハウスクリーニングが1R・1K(25㎡まで)で18,000円、1DK・2K(30㎡まで)で22,000円、1LDK・2DK(40㎡まで)で29,000円です。クロスの張り替えはスタンダードで1mあたり1,088円で、古いクロスのめくり代・残材処分代・下地処理代を含む表示になっています(出典:大家さんの内装屋 料金表・税抜。2026年8月15日確認)。同じ料金表には「ヤニ汚れなど、通常より汚れが著しい場合は追加料金が発生する場合がございます」とも書かれています。
注意していただきたいのは、これは継続して発注する事業者向けの業者価格だという点です。オーナーが単発で個別に依頼する場合は、一般消費者価格として2〜3割ほど上を見ておいてください。1R・1Kのクリーニングなら21,000〜24,000円前後、クロスなら1mあたり1,300〜1,400円前後の帯になります。いずれも税抜です。
順番として、においが理由でクロスを全面張り替えるかどうかは、クリーニングを入れてから決めてください。クリーニングで収まるにおいと、下地まで届いているにおいは、入れてみないと分かれません。先に全面を見積もると、必要のない範囲まで含んだ金額が出てきます。家賃を下げる前に試す手の並べ方は家賃を下げる前に試す4つの手にまとめています。
消臭剤と芳香剤は、なぜ最後なのか
強い香りを置くと、内見者は「何かを隠している」と読みます。においに敏感な人ほど、そう受け取ります。使うなら無香のもので、においの原因を潰したあとの仕上げに限ってください。玄関に芳香剤、というのは、いちばんやってはいけない置き方です。
カビのにおいがするときは、別の話になる
湿った土のようなにおいがする場合、原因はにおいではなく水です。押入れの奥、北側の壁、窓まわり。空室でカビが出ているなら、換気だけでは止まりません。負担の分かれ目と初動の順番は結露とカビの相談が入居者から来たときに分けて置いています。においの元をたどって水が出てきたときは、そちらを先に読んでください。
敷地内の配管そのものが原因のこともあります。どこからがオーナーの負担かは敷地内の水道管は誰が直すのかにまとめています。掃除をどこまでやるかの線引きは空室の掃除はどこまでやるか、内見に立ち会うかどうかは内見にオーナーは立ち会うべきかにあります。

今日やることを1つだけ選ぶなら
次に物件へ行くときに、キッチン・洗面・浴室・洗濯機の防水パン・ベランダの排水口に、10秒ずつ水を流してください。
費用は0円で、5分で終わります。これで消えるにおいなら、クリーニングもクロスも要りません。空室のにおいのうち、いちばん多い原因が、いちばん安い方法で消えます。順番を逆にした人だけが、要らない見積もりを取ることになります。


