無断で付けた棚は、造作買取請求の対象になりません|築古アパートのオーナーが見つけたときに開く3つの条文

結論からお伝えすると、入居者が大家さんに断らずに付けた棚や建具は、借地借家法33条の「造作買取請求」の対象になりません。33条が対象にしているのは「建物の賃貸人の同意を得て」付けた造作だけだからです。ただし、無断で付けた物でも、外せない形で建物に付いてしまった部分は、民法608条2項の「有益費」として精算を求められる余地が残ります。見つけたときに慌てて「全部元に戻して」と言う前に、条文を3本だけ開いてください。

更新の立会いで2階の部屋に入ると、和室の押入れの中段が外され、壁一面に造り付けの棚が組まれていました。天井には後付けの照明レール、玄関には入居者が自分で替えたレバーハンドル。本人は「住みやすくしただけです。退去のときは置いていきますから」と言っています。置いていかれて困るのか、置いていってもらったほうがいいのか。答えは物ごとに違います。

入居者が無断で付けた物の扱いを示した図。造作買取請求の対象外、特約で外しておける、外せる物は収去が原則、外せない物は有益費の話になる。

33条の造作買取請求は、「同意を得た」物だけです

借地借家法33条1項は、こう書いています。

「建物の賃貸人の同意を得て建物に付加した畳、建具その他の造作がある場合には、建物の賃借人は、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了するときに、建物の賃貸人に対し、その造作を時価で買い取るべきことを請求することができる。」

要件は2つです。①大家さんの同意を得て付けたこと、②期間満了か解約申入れで終わること。無断で付けた棚は①を満たさないので、退去のときに「時価で買い取ってください」と言われても、33条を根拠に応じる必要はありません。

もう1つ、見落とされやすい点があります。借地借家法37条は、借主に不利な特約を無効にする条文を並べていますが、そこに挙がっているのは31条・34条・35条で、33条は入っていません。つまり造作買取請求は、契約書で「請求しない」と決めておける権利です。国の標準契約書を使っている場合は、特約欄に書いてあるかを確かめてください。

外せる物と、外せない物で扱いが分かれます

賃貸借には、民法622条で使用貸借の599条1項・2項が準用されます。

  • 599条1項…借主は、受け取った後に附属させた物を、契約が終わったときに収去する義務を負う。ただし、分離できない物、分離するのに過分の費用がかかる物は除く
  • 599条2項…借主は、附属させた物を収去することができる

ビスで留めた照明レールや、差し替えたレバーハンドルは外せる物です。原則どおり、入居者に外してもらい、元の部品に戻してもらいます。元の部品を入居者が捨てていないかを、この時点で聞いておくと退去が楽になります。

外せない物は、民法242条の「付合」の話になります。不動産に従として付合した物は、不動産の所有者が所有権を取得するという条文です。押入れの中段を壊して組んだ造り付けの棚は、こちらに近い。すると次の論点が出てきます。

無断で付けた棚の費用を、請求されることはありますか?

あり得ます。民法608条2項は、賃借人が有益費を支出したとき、賃貸人は賃貸借の終了の時に196条2項に従って償還しなければならないとしています。条文を読む限り、608条2項には「賃貸人の同意」という言葉がありません。196条2項は「その価格の増加が現存する場合に限り」、支出した金額か増価額のどちらかを「回復者の選択に従い」償還させる仕組みです。

大家さんから見ると、ここで効くのは2点です。価値が上がっていなければ払う話にならないこと、払う額は支出額と増価額のうち大家さんが選べること。築古アパートの押入れを棚に替えた工事が、次の入居者にとって家賃の上がる改良かどうかは、物と間取り次第です。なお、608条も一般に特約で調整できる規定と解されており、有益費の償還を請求しない旨の特約を置いている契約は珍しくありません。

無断の改装だけで、契約を解除できるのか

民法616条は、借主が用法に従って使う義務を定めた594条1項を賃貸借に準用しています。準用されているのは1項だけで、「違反したら貸主は解除できる」とする594条3項は準用されていません。賃貸借の解除は、民法541条の催告解除(相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がないとき)の形になり、さらに実務では、当事者の信頼関係が壊れたといえるかが問われます。

棚を1つ付けた程度で解除まで進むのは、一般的には難しいと考えてください。現実的なのは、文書で「この工事は承諾していないこと」「退去時に元に戻してもらうこと」を伝え、写真と一緒に残すことです。この1枚があれば、あとで「同意をもらった」と言われたときに33条の要件①で答えられます。

通常の使い方で生じる傷みとの線引きは通常損耗と善管注意義務違反はどこで分かれるかに、あえて手を入れてもらう貸し方はDIY可の物件にすると入居は増えるのかにまとめています。

無断の改装を見つけた日の手順の図。写真と日付を残す、承諾していないと書面で伝える、外せる物か分ける、元の部品を確かめる、特約欄を確かめる。

都合の悪いことも書いておきます

「黙認」は同意と見られることがあります。前回の更新で部屋に入ったときに棚を見ていて何も言っていなかった、管理会社が「いいですよ」と口頭で返していた、という経緯があると、同意の有無そのものが争いになります。見つけた日に、承諾していないことを書面で伝えるのが遅れるほど、33条の要件の話は弱くなります。個別の事情で判断が分かれるので、請求を受けたら弁護士に相談してください。

今日やることを1つだけ選ぶなら

いまの契約書の特約欄に、「造作買取請求をしない」と「有益費の償還を請求しない」の2行があるかを確かめてください。無ければ、次の更新のときに足す候補です。あわせて、入居者から工事の相談が来たときは口頭で返さず、承諾するなら何を・どこまで・退去時はどうするかを1枚に書いて渡す運用に切り替えてください。

出典

  • 借地借家法33条・37条(e-Gov 法令API・2026年9月25日時点)
  • 民法196条・242条・541条・594条・599条・608条・616条・622条(e-Gov 法令API・2026年9月25日時点)

Follow me!