DIY可の物件にすると入居は増えるのか|築古アパートのオーナー向け

結論からお伝えすると、DIY可にしても募集の間口はあまり広がりません。広がるのは「間口」ではなく「深さ」——その部屋を気に入った少数の方が、そこに住み続ける理由が1つ増える、という効き方です。そして、線引きを文章にしないまま募集を出すと、退去のときに戻せない状態を前にして、判断する材料がなくなります。

たとえば、こんな場面があります。10月の平日、半年ぶりに内見が入った築40年の1DK。仲介の担当者から翌日に電話が入ります。「あのお客様、壁を自分で塗りたいそうなんです。それができるなら決めたいと」。少し考えて「原状回復してもらえるなら」と答えれば、契約はその月にまとまります。半年後、入居者からメールで写真が届きます。洋室の壁が薄い青に塗られ、キッチンの吊り戸棚には棚板が足されている。ここまでは想定内です。想定していないのは、その2年後の退去立会いです。棚板を外したあとの壁に、ビスの穴が縦に4つ並んでいる。「元に戻す」とは、この穴を埋めることなのか、壁ごと張り替えることなのか。決めていないので、その場で決めることになります。

DIY可にする前にオーナーが決める6項目を並べた図。3つの層への仕分け、認めない範囲、入居前の写真、事前の届出、原状回復の決め方、誰に貸す部屋か。

DIY可にすると募集の間口は広がるのか

広がらないことがあります。部屋を自分で手直ししたい方は一定数いますが、部屋探しをしている人全体から見れば多数派ではありません。「DIY可」という条件だけで検索する人が、自分の物件のエリアにどれだけいるかは、仲介に聞かないと分かりません。

効き方は、むしろこちらです。

  • 内見に来て気に入った方に対して、決め手が1つ増える
  • 自分で手を入れた部屋には愛着が出るため、住み続ける理由になりやすい
  • オーナーが手を入れきれない部分を、入居者が自分の好みで補える

逆に言えば、内見そのものが入っていない部屋では効きません。募集が止まっている場所を先に特定してください。昭和築アパートの空室が埋まらない5つの原因家賃を下げる前に試す4つの手が、その順番を整理する助けになります。

「DIY可」と書くだけでは伝わらない

手を入れてよい範囲を3つの層に分ける

募集条件に「DIY可」とだけ載せると、入居者が想像する範囲と、オーナーが想定している範囲がずれます。ずれたまま2年が過ぎると、退去時にそのずれが表に出ます。貸す前に、次の3つに仕分けて紙に書いてください。

  1. 届出なしでやってよいこと(壁紙の上に貼ってはがせるもの、家具の設置など)
  2. 事前に相談すれば認めること(壁の塗装、棚の取り付け、床材を上に敷く、など)
  3. 認めないこと(壁を抜く、給排水や電気の配線を触る、窓や玄関など外から見える部分を変える)

3つめは安全と建物の構造に関わる部分です。どこまでが構造や設備に触れる工事にあたるかは、一般的な整理では判断しきれません。建築士や、工事を扱う専門業者に確認してください。

写真と届出の残し方を決めておく

やってよい・悪いを決めたら、記録の取り方も同時に決めます。

  • 入居前の各部屋を、日付の分かる形で写真に残す
  • 手を入れる前に、内容をメールなど文字で残る形で届け出てもらう
  • 作業のあとの写真も送ってもらう

この3つがないと、退去のときに「入居前からあった傷か」を確かめる方法がありません。

原状回復義務をどう扱うか

DIY可の物件では、原状回復の扱いに大きく2つの方向があります。

  • 戻してもらう:入居時の状態に戻す前提。分かりやすい反面、入居者は手を入れにくくなり、DIY可にした意味が薄れる
  • そのままでよいとする:手を入れた状態のまま返してもらう。入居者は動きやすいが、次の募集をその状態で出すことになる

実際には「塗装はそのままでよいが、取り付けたものは外して穴を埋めて返す」のような中間の決め方が使われます。どの形にするにしても、その文言が契約として有効かどうかは書き方と説明の仕方で変わります。契約書に落とす前に、契約書を作る宅建業者や弁護士に確認してください。「他の募集がこう書いていたから」で写すのは危険です。

元に戻せなくなる手直しもある

手直しの中には、あとから元に戻せないものがあります。

  • ビスの穴は埋められても、下地に入った穴の位置は残る
  • 塗装は上から塗り重ねられるが、濃い色を薄い色に戻すには手数が増える
  • 和室の柱や建具に穴を開けると、部分的な補修が難しいことがある
  • 床に接着してしまった材は、はがす作業そのものが工事になる

触られたくない部分があるなら、そこは最初から「認めないこと」に入れます。和室をどう扱うかで迷っている場合は、和室を洋室に変えるかを先に読んで、自分で洋室化するのか、入居者に任せるのかを決めてから条件を出したほうが整理しやすくなります。

DIY可で貸し出すまでの手順を6段で示した図。仕分け、専門業者への確認、宅建業者への文言確認、入居前の写真、事前の届出、作業後の写真の保管。

向く部屋と、向かない部屋

すべての空室に付ける条件ではありません。

  • 向きやすい:長く住んでほしい部屋、オーナー側で手を入れる予定がない部屋、水まわりが動かせない築古の部屋
  • 向きにくい:次の売却を考えている物件、短期入居が中心のエリア、共用部との境目が曖昧な部屋

設備の古さで決まらない部屋を、条件でどう動かすかという話は3点ユニットの部屋はもう決まらないのかにも通じます。誰に貸す部屋なのかが決まっていれば、DIY可を付けるかどうかも判断しやすくなるので、築古アパートは誰に貸すか(入居者層の決め方)を先に見てください。

まとめ

DIY可は、募集の間口を広げる手ではなく、気に入ってくれた方に長く住んでもらうための手です。そのかわり、線引きと原状回復の決め方を先に文章にしておかないと、退去時に判断できません。埼玉・千葉県西部・栃木県南部の築古物件でも、同じ築年数で向き不向きが分かれます。

今日やることを1つだけ選ぶなら、「届出なしでよいこと・相談すれば認めること・認めないこと」の3つに、自分の部屋で仕分けを書き出してください。この3行が書けてから募集条件に載せれば十分間に合います。そのうえで、原状回復の文言と、構造や設備に関わる範囲については、宅建業者・弁護士・建築士に確認してください。

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