自治会費は退会すれば止まり、共益費は止まりません|築古アパートのオーナーが契約書で分けておく2つの行

結論からお伝えすると、自治会費は、入居者が退会を申し出れば、その後の分は止まります。共益費は止まりません。この線を引いたのは最高裁で、しかも舞台は埼玉県新座市の県営住宅でした。築古アパートで自治会費を家賃や共益費に混ぜて集めていると、この2つの区別が契約書の上で消えてしまいます。先に分けておくのが、あとで揉めないいちばんの近道です。

秋口、自治会の班長さんから電話が入ります。「アパートの6世帯のうち、会費をいただけているのは2世帯だけで。大家さんのほうでまとめて払っていただけませんか」。一方で、2階の入居者からは「自治会には入っていないのに、共益費から引かれていると聞いた」と管理会社に問い合わせが来ている。どちらの言い分にも、条文と判決で答えが出ます。

自治会費と共益費の違いを示した図。自治会費は退会で止まり、共益費は入居中は続く。自治会の構成員は住所のある個人で、契約書では行を分ける。

自治会は、法律ではどういう団体か

自治会・町内会が法律に出てくるのは、地方自治法260条の2です。1項は、区域に住所を有する者の地縁に基づいて形成された団体を「地縁による団体」と呼び、市町村長の認可を受けたときに初めて、権利を有し義務を負うとしています。認可を受けていない自治会は、法律の上では「権利能力のない社団」という扱いです。

大家さんに関係するのは、認可の要件です。2項3号は、「その区域に住所を有するすべての個人は、構成員となることができるもの」であることを求めています。構成員の単位は、住所を持つ個人です。アパートに住んでいない大家さんは、この書き方では構成員の側に入りません。7項は認可地縁団体に「正当な理由がない限り、その区域に住所を有する個人の加入を拒んではならない」と定めていますが、これは断ってはいけないという団体側の義務で、住民に加入を義務づける条文ではありません。

最高裁は、自治会費と共益費を別々に判断しました

平成17年4月26日の最高裁第三小法廷判決(平成16年(受)第1742号)は、新座市の県営住宅3棟の入居者でつくる自治会が、退会を申し出た入居者に共益費と自治会費を請求した事件です。規約では、共益費は1世帯あたり月額2,700円、自治会費は月額300円でした。

  • 自治会費…自治会は強制加入団体ではなく、規約に退会を制限する規定もないので、会員はいつでも一方的な意思表示で退会できる。退会の申入れ(平成13年5月24日)より後の分は払わなくてよい
  • 共益費…街路灯・階段灯の電気料金、屋外散水栓の水道料金、排水施設の維持、害虫駆除などに使われる費用で、入居者は入居に際し、そこに入居している限り支払うことを約したといえる。退会が有効かどうかにかかわらず、支払義務は消えない

結論として、入居者が払うべき額は24か月分の共益費64,800円と、退会前3か月分の自治会費900円とされました。原審の東京高裁は「退会は条理上許されない」として全額を認めていましたが、最高裁はそこを変更しています。

大家がまとめて払えば、入居者の分は済むのですか?

済むかどうかは、その自治会の規約と、大家さんと自治会の取り決め次第です。判決から読めるのは、自治会費の支払いの根拠が「会員であること」だという点です。大家さんが1棟分をまとめて払う約束をした場合、それは大家さんと自治会の約束で、入居者が会員になったことにはなりません。反対に、入居者が退会したあとも大家さんが払い続けるなら、それは大家さんの判断での支出です。

築古アパートで起きやすい3つの形

  1. 共益費に自治会費を含めて集め、大家から自治会に払っている…入居者が「退会する」と言ったとき、共益費のどこまでが自治会費なのか契約書から読めません。判決の言う「共益費」と同じものだと思われると、退会しても下がらない理由の説明ができなくなります
  2. 募集の段階で「自治会加入必須」と書いている…判決の考え方からすると、加入を契約の条件にしても、入居後の退会を止めるのは難しいと考えられます。書くなら「加入をお願いしている」「会費は月◯円」までにとどめるほうが、実態と合います
  3. 自治会費を大家が負担し、入居者には知らせていない…ごみ集積所の管理や防犯灯の電気代を自治会が持っている地域では、大家さんが払うこと自体に筋はあります。ただ、何に払っているのかを入居者が知らないと、回覧板も清掃当番も「関係ない」で終わります

さいたま市では、家庭ごみの集積所を新しく設けるときの申請書に自治会長の印を受ける流れがあります。ごみの話と自治会の話は、築古アパートではほぼ同じ話です。集積所まわりの段取りはごみ出しのルールが守られないときに書いています。

最高裁平成17年4月26日判決で分けられた自治会費と共益費の比較図。自治会費は会員であることが根拠で退会後は請求できず、共益費は入居時の約束が根拠で退会しても続く。

契約書でどう分けるか

おすすめは、共益費と自治会費を別の行にすることです。

  • 共益費:建物の共用部分(階段灯・共用水道・清掃など)の維持に使う費用。月◯円
  • 自治会費:◯◯自治会の会費。月◯円(年◯円)。加入は任意で、退会された場合は翌月分から請求しない

こう書いておけば、入居者が退会したときに下げるのは自治会費の行だけで、共益費は動きません。判決が引いた線を、そのまま契約書の行に写すだけです。すでに共益費に混ぜて契約している部屋は、次の更新のときに行を分ける形で切り替えると、入居者に説明しやすくなります。

共益費の中身そのものを見直すときは築古アパートの共用部の電気代が上がったときを、入居時に渡す紙の効き方は入居のしおりは、渡しただけでは契約の内容になりませんをあわせてご覧ください。

都合の悪いことも書いておきます

判決は「規約に退会を制限する規定がない」自治会についてのものです。規約の中身が違えば、同じ結論になるとは限りません。また、自治会費の中に、ごみ集積所や防犯灯のように入居者が実際に使っているものの費用が入っている場合、退会した入居者にその分をどう求めるかについて、この判決は触れていません。個別の自治会との取り決めで迷ったら、市町村の自治会担当課や弁護士に相談してください。

今日やることを1つだけ選ぶなら

いまの契約書と重要事項説明書を開いて、「共益費」の行に自治会費が混ざっていないかを確かめてください。混ざっているなら、自治会費がいくらで、自治会の規約に退会の定めがあるかを班長さんに聞く。それだけで、次に退会の話が出たとき、共益費を下げずに済む根拠が手元に残ります。

出典

  • 地方自治法260条の2(e-Gov 法令API・2026年9月25日時点)
  • 最高裁判所第三小法廷 平成17年4月26日判決(平成16年(受)第1742号 自治会費等請求事件・集民216号639頁)。一般財団法人不動産適正取引推進機構が裁判所ウェブサイトの裁判例情報をもとに作成した資料で全文を確認

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