「内見」という言葉は、法律に1つもありません|築古アパートのオーナーがオンライン内見の動画を撮る順番

結論からお伝えすると、「内見」という言葉は、日本の法令に1つも出てきません。宅地建物取引業法にも、借地借家法にも、民法にもありません。ルールが無いので、オンラインで見せようが現地で見せようが自由です。そのかわり、守ってくれるものもありません。

一方で、よく混同される重要事項説明のほうには、きちんと制度があります。「オンラインで見てもらったから、そのあとも全部オンラインでいい」ではありません。ここを分けてから、築古アパートで動画をどう使うかに進みます。

内見と重要事項説明の違い。内見という語は法令にない。内覧が出るのは民事執行法の競売の条文だけ。重説は条文に対面と書いていない

法令検索に出てくるのは「内覧」だけ、しかも競売の話です

e-Gov法令検索で「内見」を引くと、ヒットは0件です。近い言葉の「内覧」で引くと出てきますが、当たるのは民事執行法と執行官法の2つだけ。賃貸の法律ではありません。

民事執行法64条の2は、その「内覧」を括弧書きで定義しています。「不動産の買受けを希望する者をこれに立ち入らせて見学させることをいう」。競売にかけられた不動産を、買いたい人に見せる手続きです。裁判所が執行官に命じて行います。

興味深いのは、この条文の1項ただし書です。占有者の権原が差押債権者などに対抗できる場合で、その占有者が同意しないときは、内覧を命じないと書いてあります。裁判所の手続きであっても、住んでいる人が嫌だと言えば実施されないのです。

日本の法律が「部屋を見せること」について唯一きちんと書いた条文が、「住んでいる人の同意が要る」という条件付きだった——これは、賃貸の実務で押さえるべき線とちょうど同じ形をしています。

入居中の部屋は、撮れません

民法601条は、賃貸借を「当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる」と定めています。

使用と収益をさせる約束をしている以上、入居中の部屋は、その期間は入居者のものとして扱います。次の募集のために動画を撮りたいからといって、大家さんの都合で入って撮れるものではありません。立入りの根拠は契約書の条項で、そこに何が書いてあるかは物件ごとに違います。修繕の日程を入居者からもらえないときで、契約書の2つの条文の読み方をまとめてあります。

だから答えは1つしかありません。撮るのは空室のうち。退去立会いが終わって原状回復が仕上がった、その数日が唯一の窓です。ここを逃すと、次に空くまで撮れません。

制度があるのは、重要事項説明のほうです

ここが混ざりやすいところです。順に分けます。

重要事項説明は、条文に「対面で」と書いていません

宅地建物取引業法35条1項は、宅地建物取引士をして、定められた事項について書面を交付して説明をさせなければならないと定めています。説明の場所についての要件は、条文にありません。

賃貸取引でテレビ会議等を使う重要事項説明(IT重説)が平成29年10月1日から本格運用に入ったのは、法律を変えたからではなく、「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」に、対面による説明と同様に取り扱う旨を国土交通省が追加したからです。あわせて実施マニュアルが作られました。

書面を電子で渡せるようになったのは2022年5月18日です

説明のやり方と、書面の渡し方は別の話です。書面のほうは同法35条8項が根拠になりました。「書面の交付に代えて、政令で定めるところにより……相手方等の承諾を得て、宅地建物取引士に、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法……により提供させることができる」。

国土交通省の案内によると、宅地建物取引業の書面の電子化を可能とする政省令は令和4年4月27日に公布、令和4年5月18日から施行です。同じ日付で解釈・運用の考え方も改正されました。実施マニュアルは令和6年12月に新しい版へ入れ替わり、ハンディガイドと「承諾取得例」も公開されています。

条文に「承諾を得て」と書いてあるとおり、電子で渡すには相手方の承諾が要ります。勝手にPDFを送って終わり、ではありません。国が承諾の取り方の例まで出しているのは、ここでつまずく現場が多いからです。

大家さんの側でやることはありません。これは仲介会社の手続きです。ただ「うちはIT重説に対応していますか」と一度聞いておくと、遠方の入居希望者を取りこぼしにくくなります。

空室で動画を撮る順番。玄関の外から入って一周し、収納を開け、水を流し、窓を開け、最後にメジャーで幅の分かる場所を1か所映す

築古アパートで、動画は何を映すと効くのか

写真は良いところを選んで撮れますが、動画は通しで映るので、隠せません。築古では、これが弱点ではなく武器になります。不安なのは「写真に写っていないところがどうなっているか」だからです。

撮る順番はこうします。

  1. 玄関の外から入って、止まらずに一周する。切らずに1本で撮る。継ぎ目があると隠したように見えます
  2. 収納は必ず開けて、中を映す。写真では省かれがちで、いちばん聞かれるところです
  3. 水まわりは、蛇口を出して水が流れるところまで映す。築古で最も心配されるのが水です
  4. 窓は開けて外を映す。隣の建物との距離と、入る音が伝わります
  5. 最後に、メジャーを当てて幅の分かる場所を1か所だけ映す。洗濯機置場か冷蔵庫置場。ここが合わないと契約が流れます

パノラマ(360度)は、間取りのつながりを伝えるのに向いています。逆に、細かい傷みや設備の型番は伝わりません。パノラマで全体、動画で水まわりと収納、写真で1枚目の顔をつくる——役割を分けるのが現実的です。1枚目に何を選ぶかは募集写真は何枚・どの順番で載せるかに書いてあります。

撮る前に部屋を仕上げておくのは写真と同じです。空室の掃除はどこまでやるかの5か所を落としてから回してください。

見せたものと違う、と言われないために

動画は情報量が多いぶん、実物との差も出やすくなります。広さを広く見せるレンズ、明るく見せる補正、撮影後に替えた設備。この3つは後で揉めます。

難しいことはありません。撮影した年月を掲載欄に書いておく。それだけで「その時点のもの」と伝わります。設備を替えたら撮り直す。替えていないなら、古いままで構いません。

現地の内見に大家さんが出るかどうかは、また別の判断です。内見にオーナーは立ち会うべきかと、鍵を渡して見てもらう形をとる場合の準備は入居希望者だけで空室を見てもらうときの準備にまとめてあります。

都合の悪いことも書いておきます

動画を付ければ決まる、という話ではありません。動画は「見に行くかどうか」を決めてもらうための道具で、契約を決めるのは現地です。遠方の方が現地に来ないまま決めることもありますが、多数派ではありません。

それから、撮影そのものは仲介会社の仕事として組まれていないことが多く、頼めば出てくるとは限りません。大家さん自身がスマートフォンで撮って渡すほうが早い場面は珍しくないです。画質は問われません。手ぶれと、暗さと、途中で切ることの3つだけ避ければ足ります。

なお、公開のしかたや掲載の扱いは媒体ごとに決まりがあります。ここは断定しません。掲載先の規定と、媒介契約の内容を確かめてください。

今日やることを1つだけ選ぶなら

いま空いている部屋があるなら、今週のうちに1本撮ってください。玄関から入って止まらずに一周、収納を開けて、水を流す。3分で足ります。次に空くのがいつかは誰にも分かりません。空いている今しか撮れない、というだけが理由です。

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