私道の掘削承諾書がもらえなくても、水道を引く権利は民法にあります|築古アパートのオーナーが読む213条の2

結論からお伝えすると、私道の持分がなく、掘削の承諾書がもらえなくても、水道・ガス・電気を引き込む権利は民法に書かれています。2023年4月1日に新しく入った民法213条の2です。ただし、この権利があっても、相手に黙って掘ってよいことにはなりません。条文が求めているのは「あらかじめの通知」と「損害が最も少ない方法」で、さいたま市の水道局も、利害関係者から同意を得るよう引き続き努めてほしいと案内しています。

築古アパートの給水管を引き直す見積りを取ったら、指定工事店から一言。「前の私道を掘るので、所有者さん全員の承諾書をもらってきてください」。私道は奥の家まで続く細い道で、登記を見ると所有者は4人。そのうち1人は連絡先が分からない。ここで工事が止まる物件は、築古の住宅地では珍しくありません。

2023年4月1日まで、この条文はありませんでした

e-Gov の法令APIで民法213条の2を時点指定して取ると、2023年3月31日時点ではエラーが返り、4月1日時点で本文が返ります。令和3年の民法改正で新しく置かれた条文です。1項は次のとおりです。

「土地の所有者は、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用しなければ電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付を受けることができないときは、継続的給付を受けるため必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用することができる。」

それまでは明文の規定がなく、通路の通行を定めた210条などを類推して考えるしかありませんでした。承諾書の慣行が強く残っているのは、この空白の時代が長かったからです。

私道を掘る前にやることを示した図。目的・場所・方法の通知、損害が最も少ない方法、土地の損害への償金、自力執行はできないこと。

権利があるときに、大家がしなければならないこと

213条の2は、権利と一緒に手順も書いています。

  • 場所と方法…他の土地や他人の設備のために損害が最も少ないものを選ばなければならない(2項)
  • 事前の通知…あらかじめ、その目的、場所及び方法を、他の土地等の所有者と、他の土地を現に使用している者に通知しなければならない(3項)
  • 工事のための使用…設備を設置するために他の土地を使うことができ、その際は隣地使用の209条の一部が準用される(4項)
  • 償金…他の土地に設備を設置した者は、その土地の損害に対して償金を支払わなければならない。1年ごとに支払うこともできる(5項)
  • 他人の設備を使う場合…使用開始のために生じた損害に償金を払い(6項)、利益を受ける割合に応じて、設置・改築・修繕・維持の費用を負担する(7項)

3項の通知先に「現に使用している者」が入っていることに目を留めてください。私道の所有者だけでなく、そこを使っている借家人にも知らせる形です。工事の日程と、通れなくなる時間を書いた紙を用意しておくと、この通知と、工事当日の苦情対策が1枚で済みます。

もらえない承諾書は、もういらないのですか?

さいたま市水道局は、民法改正にあわせてさいたま市給水条例18条に3項を加えました(令和5年4月1日施行)。他の者の給水装置から枝分かれさせて引く「支分引用」には、その所有者と使用者の承諾が要ると1項で定めていますが、民法213条の2第1項により支分して設けようとする場合は、1項を適用しないという規定です。

そのうえで、水道局は次のように書いています。

  • 設備設置権や設備使用権がある場合でも、一般的に自力執行は禁止されている
  • 今回の変更は、利害関係者に無断で給水装置工事を実施できることを意味するものではない
  • 他人の設備を使うことや他の土地を掘削することについて、利害関係者から同意を得ることに引き続き努めてほしい

(出典:さいたま市「民法改正に伴う給水装置工事の対応」2026年3月12日更新)

つまり、承諾書は「なくても申請の入口で門前払いにはならない場合がある」ものに変わりましたが、「集めなくてよいもの」にはなっていません。水道局は、支分引用以外に引く方法がないときは、事前通知や同意の有無を確認するとしています。

さいたま市給水条例の承諾の扱いを比べた図。支分引用の原則は所有者と使用者の承諾が要り、民法213条の2による場合は18条3項で1項を適用しないが同意を得る努力は続ける。

土地を分けて売った先の私道なら、話はもっと単純です

213条の3は、分割によって他の土地に設備を設置しなければ継続的給付を受けられない土地が生じたときは、他の分割者の所有地のみに設備を設置できると定めています。この場合、213条の2第5項の償金の規定は適用されません。土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合にも準用されます(同条2項)。

もとは1つの土地を分けて売った分譲地で、私道も分けた人たちが持っている、という形なら、この条文が効く可能性があります。登記事項証明書で、私道がいつ、どの土地から分かれたのかを見ておくと、話し合いの相手がはっきりします。私道の確認の順番は私道と境界、越境をいつ確認するかで書いています。

都合の悪いことも書いておきます

権利が条文にあっても、相手が拒めば、工事はそこで止まります。自力執行は許されないので、最終的には裁判などの手続きで権利を確かめることになり、そのぶん時間がかかります。給水管の引き直しを急ぐ事情(漏水・鉛管・受水槽の老朽化)があるなら、通知と話し合いは早めに始めるほうが結果的に早く終わります。

また、共有の私道で工事をするとき、共有者のうち何人の同意が要るかは、工事の内容によって変わります。法務省は「複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書(所有者不明私道への対応ガイドライン)」で、場面ごとの考え方を示しています。受水槽から直結給水へ切り替える話は受水槽をやめると、断水のとき水が1滴も出なくなります、下水の接続は「下水道が来たら3年以内」は、くみ取便所の話ですもあわせてどうぞ。

今日やることを1つだけ選ぶなら

前面の私道の登記事項証明書を取り、所有者の名前と住所を一覧にしてください。そのうえで、213条の2第3項の3点(目的・場所・方法)を1枚に書いた通知文を作る。承諾書をお願いするときも、この1枚を添えれば、何を頼まれているのかが相手に伝わります。工事の申請で何を求められるかは、指定給水装置工事事業者と水道局の窓口に、権利の有無や争いになったときの進め方は弁護士にご確認ください。

出典

  • 民法209条・210条・213条の2・213条の3(e-Gov 法令検索・2026年9月24日時点)
  • 民法213条の2(e-Gov 法令API・時点指定 2023年3月31日/2023年4月1日)
  • さいたま市「民法改正に伴う給水装置工事の対応」(2026年3月12日更新)
  • 法務省「複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書」

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