滞納する入居者が財産を家族に移したとき、大家は裁判所へ取消しを請求できますが、受け取った側が知らなければ請求できません|築古アパートのオーナーが読む民法424条
結論からお伝えすると、家賃を滞納している入居者が、大家(債権者)を害することを知って財産を処分したときは、大家が、その行為の取消しを裁判所に請求できる場合があります。民法424条1項の詐害行為取消請求です。ただし、その行為で利益を受けた人(受益者)が、行為の時に債権者を害することを知らなかったときは、請求できません。
仮の話です。家賃を半年分滞納している入居者が、名義の土地を、ある日、同居の親族の名義に変えたことが分かりました。連帯保証人はいません。このとき、大家に何ができるのか。条文を順に並べます。
取消しを請求するための条件は何か?
- 債務者(入居者)が、債権者を害することを知って、その行為をしたこと(424条1項本文)
- 受益者が、行為の時に、債権者を害することを知らなかったのではないこと(同項ただし書)
- 財産権を目的とする行為であること(2項)
- 大家の債権が、その行為の前の原因に基づいて生じたものであること(3項)
- その債権が、強制執行によって実現できるものであること(4項)
取消しは、大家が自分で宣言するものではなく、裁判所に請求します。訴えの相手(被告)は、財産を受け取った受益者です(424条の7第1項1号)。入居者本人ではありません。訴えを起こしたときは、遅滞なく、入居者に訴訟告知もします(同条2項)。

家族に贈ったときと、売って現金にしたときで、要件は変わるか?
変わります。入居者が、相当の対価を得て財産を処分したときは、424条の2により、次の3つがすべてそろわなければ、取消しを請求できません。
- 不動産を金銭に換えるなど、隠匿や無償の供与といった、債権者を害する処分をするおそれを、現に生じさせる行為であること
- 入居者が、その行為の当時、対価として得た金銭などを、隠匿等の処分をする意思をもっていたこと
- 受益者が、その行為の当時、入居者にその意思があることを知っていたこと
対価のない贈与は、この上乗せの要件が付かず、424条1項の要件で見ます。
また、特定の人にだけ借金を返す、担保を付けるといった行為(既存の債務についての担保の供与や債務の消滅に関する行為)は、424条の3により、入居者が支払不能の時に行われ、入居者と受益者が通謀して他の債権者を害する意図をもって行ったものに限られます。一部の人に先に返したというだけでは、取り消せません。
取り消せたら、財産は大家のものになるのか?
なりません。取消しを認める確定判決の効力は、入居者と、そのすべての債権者に及びます(425条)。受益者に移った財産の返還を請求でき、返還が難しいときは、その価額の償還を請求できます(424条の6第1項)。財産が分けられるものなら、自分の債権の額の限度で請求します(424条の8第1項)。
請求が金銭の支払や動産の引渡しを求めるものであるときは、大家は、自分に支払うよう求めることができます。受益者が大家に支払えば、入居者に支払う必要はなくなります(424条の9第1項)。不動産は、この条文の対象ではありません。一般には、名義を入居者に戻したうえで、強制執行などで回収を図る形になります。

都合の悪いことも書いておきます
- 訴えには期限があります。入居者が債権者を害することを知って行為をしたことを大家が知った時から2年、行為の時から10年を過ぎると、訴えを起こせません(426条)
- 受益者が知っていたかどうかは、争いになりやすい点です。取消しが認められるとは限りません
- 裁判の手続きには、時間と費用がかかります。滞納の金額が小さいときは、割に合わないことも多く、敷金の充当、連帯保証人や保証会社への請求の整理が先になります。具体的な進め方は、弁護士へご相談ください
今日できること
- 滞納の金額、滞納が始まった月、入居者の財産が動いたと知った日を、日付つきで書き出す(426条の2年は「知った時から」です)
- 土地や建物の名義が変わったと思うときは、法務局で登記事項証明書を取り、いつ誰に変わったかを確かめる
- 敷金の充当、連帯保証人、保証会社への請求の順番を整理する
滞納家賃の時効については、滞納家賃の時効は5年ですが、入居者が援用するまで請求は消えません|築古アパートのオーナーが読む民法166条・145条・152条に、最初の1週間の動き方については、家賃滞納の対応は最初の1週間で決まる|築古アパートのオーナーがやる順番にまとめています。保証会社が家賃を立て替えたあとの契約の扱いは、保証会社が家賃を立て替えても、契約を解除できるのは大家だけです|代位弁済のあとに残る3つの条文で書きました。
出典
民法424条・424条の2・424条の3・424条の6〜424条の9・425条・426条(e-Gov 法令検索・2026年10月6日時点)。


