築古アパートの引渡しを受けたあとに地震で建物が壊れても、買主は代金の支払を拒めません|築古アパートのオーナーが読む民法567条

結論からお伝えすると、築古アパートの売買で、売主から引渡しを受けたあとに、地震や台風のような、売主にも買主にも責任のない理由で建物が壊れても、買主は、履行の追完(修補など)の請求も、代金の減額の請求も、損害賠償の請求も、契約の解除もできません。代金の支払も拒めません。民法567条1項が定めています。基準になるのは、登記でも代金の完済でもなく、引渡しです。

仮の話です。個人から築古アパートを買い、12月25日に引渡しを受けました。3日後の地震で、外階段の手すりが外れ、外壁にひびが入りました。代金は、まだ半分残っています。残りを払わなくてよいのか。条文を順に並べます。

引渡しの前後で、壊れたときの負担の移り方を整理した図

引渡しの前と後で、損害を負う側はどう変わるか?

  • 引渡しの前:当事者双方の責めに帰することができない事由で、建物が引き渡せなくなったとき、買主は、反対給付である代金の支払を拒めます(536条1項)。建物の全部が滅失して履行が不能になったときは、催告なしで契約を解除することもできます(542条1項1号)
  • 引渡しの後:同じ理由で滅失または損傷したときは、買主は、追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求、契約の解除ができず、代金の支払も拒めません(567条1項)

つまり、損害を負う側が、引渡しを境に、売主から買主へ移ります。567条の見出しが「目的物の滅失等についての危険の移転」とされているのは、このためです。仮の話の買主は、引渡しを受けたあとの地震なので、567条1項の側に立ち、残りの代金も払うことになります。

買主が受け取りを拒んでいたら、どうなるか?

567条2項は、売主が契約の内容に適合する目的物で引渡しの債務の履行を提供したのに、買主が受けることを拒み、または受けることができない場合を定めています。その提供があった時以後に、当事者双方の責めに帰することができない事由で滅失または損傷したときも、1項と同じ扱いです。買主の都合で引渡しを受けないまま日が過ぎても、売主が提供した時から、損害を負う側は買主に移ります。

引渡しのあとで見つかった不具合は、同じ扱いか?

別の話です。567条は、引渡しのあとに、双方の責めに帰することができない事由で、目的物が滅失または損傷した場合の条文です。引渡しの時にすでに種類、品質、数量に関して契約の内容に適合していなかったものは、562条以下の契約不適合の問題で、買主は追完や代金の減額を求められる場合があります(562条1項・563条1項)。

地震のあとには、「もともと傷んでいたのではないか」と争いになりやすくなります。引渡しの日の建物の状態を、日付の分かる写真で残しておくことが、どちらの話かを分ける材料になります。引渡しの前に生じた家賃の精算は、売買の引渡しの前に生じた家賃は、売主のものです|築古アパートのオーナーが読む民法575条に、支払日が書かれていないときの扱いは、売買契約書に代金の支払日が書かれていないとき、引渡しの期限と同じ期限が付いたものと推定されます|築古アパートのオーナーが読む民法573条・574条に書きました。

引渡しの前と後で、買主ができることを比べた図

都合の悪いことも書いておきます

  • 567条は、売買の目的として特定した物に限る条文です。壊れた理由が売主や買主の責任によるときは、別の条文(415条や536条2項など)で見ることになります
  • 契約書で別の定めをすることは、一般には可能です。実務の売買契約書には、引渡しの前の滅失や損傷の扱いを定める条項が入っていることが多く、条文は、定めがないときの原則です
  • 保険は、条文からは出てきません。売主の火災保険は、引渡しで終わるのが通常です。買主が自分で入る必要があり、地震による損害は、火災保険だけでは対象にならないのが一般的で、地震保険は火災保険に付ける形になります

今日できること

  1. 売買契約書で、「引渡し」「滅失」「毀損」「危険負担」の語を探し、条文と違う定めがないかを見る
  2. 引渡しの日と、自分の火災保険(地震保険の付帯を含む)の始期が、そろっているかを確かめる
  3. 引渡しの日に、建物の外観と共用部を、日付の分かる写真で残す

地震保険の中身については、木造アパートの地震保険料は埼玉も東京も同じです|築古オーナーが付帯率70.8%の中身から決めるで、火災保険の更新前の確認は、築古アパートの火災保険|オーナーが更新の前に確認する5つのことで書きました。火災保険の証券で見る欄は、大家が火災保険の証券で確認する5つの欄|地震・水濡れ・賠償・家賃収入にまとめています。

出典

民法536条・542条・562条・563条・567条(e-Gov 法令検索・2026年10月6日時点)。

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