親族に家賃なしで部屋を貸すと、借地借家法の保護はありません|築古アパートのオーナーが読む民法595条と599条

結論からお伝えすると、アパートの1室を親族に家賃なしで貸すと、その契約は賃貸借ではなく「使用貸借」になります(民法593条)。使用貸借には借地借家法がかかりません。借地借家法1条が対象にしているのは「建物の賃貸借」だからです。そのうえで民法は、ふだんの修繕費(通常の必要費)は借りる側が持つ(595条1項)、出ていくときは借りる側が原状に戻す(599条3項)と定めています。家賃をもらわない代わりに、大家と親族のどちらが何を持つのかが、賃貸借とは逆になるところがあります。

たとえば、10室の築古アパートで1室だけ空きが続いていたところ、「就職したばかりの甥を、しばらく家賃なしで住まわせてあげてほしい」と頼まれたとします。鍵を渡して、口約束で始める。半年後に給湯器が壊れたとき、交換費用は誰が出すのか。ここで揉めるのは、ほとんどが「家賃はもらっていないけれど、普通の入居者と同じつもりでいた」というずれです。

親族に無償で貸すと変わる3つ(修繕・対抗力・退去時の原状回復)

家賃をもらわないと、何が変わるのですか?

民法601条の賃貸借は、相手方が賃料を支払うことを約束して成り立つ契約です。一方、593条の使用貸借は無償で使用及び収益をして、終わったら返すことを約束する契約です。家賃の有無で、適用される条文の束が丸ごと入れ替わります。

  • 借地借家法がかからない:更新拒絶の正当事由や、建物の引渡しで新しい所有者に対抗できる31条の保護は、建物の賃貸借の話です
  • 修繕の考え方が変わる:賃貸借なら賃貸人が修繕する(606条1項)が、使用貸借ではふだんの必要費は借主の負担(595条1項)
  • 終わり方が変わる:借主が亡くなると終わる(597条3項)。期間も目的も決めていなければ、貸主はいつでも解除できる(598条2項)

終わり方の条文は、土地を親子で無償で使う場面として建物だけを売って土地を残すなら、先に決めるのは地代を取るかどうかですで扱っています。ここではお金と、出ていくときの話に絞ります。

給湯器が壊れたら、誰が直すのですか?

595条1項は「借主は、借用物の通常の必要費を負担する」と定めています。電球やパッキンの交換のような、使っていれば当然かかる費用は親族の側です。では、給湯器の交換のような大きな費用はどうか。595条2項は、通常の必要費以外の費用について583条2項を準用し、そこから196条(占有者の費用償還)につながります。どこまでが「通常」かは条文に線が引かれていないので、口約束のまま始めると、壊れた日に初めて話し合うことになります。

さらに600条1項は、借主が出した費用の償還は貸主が部屋の返還を受けた時から1年以内に請求しなければならないと定めています。親族が自分で給湯器を替えていた場合、退去から1年たつと、その費用の請求はできなくなります。

出ていくとき、部屋はどこまで戻してもらえますか?

599条は、使用貸借が終わったときの借主の義務を2つ定めています。

  • 付けた物は外す(1項):受け取ったあとに部屋へ付けた物は、借主が収去する。ただし分離できない物や、外すのに過分の費用がかかる物は除く
  • 付けた傷は直す(3項):受け取ったあとに生じた損傷は、借主が原状に戻す。ただし借主の責めに帰することができない事由によるものは除く

また、594条2項は貸主の承諾なしに第三者へ使わせてはならないと定め、違反すれば貸主は解除できます(同条3項)。「甥が友人と2人で住み始めた」という場面は、ここに当たりえます。家賃を払ってくれている入居者の退去と比べたいときは退去後の残置物はオーナーが捨てていいのかも見てください。

家賃を取る賃貸借と取らない使用貸借の比較

固定資産税の分だけ払ってもらえば、賃貸借になりますか?

ここは条文だけでは線が引けません。601条は「賃料」を支払う約束を要件にしており、その金額が使用の対価といえるかどうかで判断されます。固定資産税や管理費の実費だけをもらう形は、賃貸借ではなく使用貸借と扱われる可能性があります。どちらに当たるかで、上の修繕や終わり方の結論が変わるので、中途半端な金額をもらうなら、賃貸借として契約書を作るか、使用貸借として書面に残すか、どちらかに決めるのが安全です。迷うときは弁護士に確かめてください。

都合の悪いことも書いておきます

家賃なしで貸せば、その部屋からの家賃収入はゼロです。税金の扱い(その部屋にかかる費用を経費にできるか、親族への利益の移転とみられないか)は、物件と金額によって変わりますので、この記事では扱っていません。税理士か税務署に確かめてください。また、使用貸借は貸主から終わらせやすい分、親族の側の暮らしは不安定です。「いつまで」「何のために」を決めずに始めると、親族の関係がこじれたときに出口の話が一番もめます。

今日やることを1つだけ選ぶなら

親族に無償で貸している部屋があるなら、「いつまで」「何のために」「修繕はどこまで誰が持つか」の3行だけでも書面にして、お互いに署名してください。598条と595条の線を、口約束ではなく紙で先に引いておく。それだけで、壊れた日と出ていく日の話し合いがまったく違います。

出典

  • 民法593条から600条、601条、606条(e-Gov 法令検索・2026年10月12日時点)
  • 借地借家法1条・31条(同上)

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