滞納家賃の支払督促では、部屋の明渡しは求められません|築古アパートのオーナーが読む民事訴訟法382条と2026年5月の電子化

結論からお伝えすると、滞納家賃の支払督促は、お金を払わせるための手続きで、部屋を明け渡させることはできません。民事訴訟法382条が対象にしているのは「金銭その他の代替物又は有価証券の一定の数量の給付」だけだからです。さらに入居者の行方が分からないときは使えません(同条ただし書。公示送達によらずに送達できる場合に限る)。そのうえで、2026年5月21日から支払督促は「電子支払督促」として作られるようになり(387条)、申立手数料は電子で申し立てるほうが少し安くなっています。

たとえば、築古アパートの1室で家賃6万円の滞納が4か月続き、24万円になったとします。入居者は電話には出るものの「来月払います」をくり返し、まだ部屋に住んでいる。訴えを起こすほどの手間はかけたくない。でも、何か形に残る手を打ちたい。支払督促が向いているのは、まさにこの場面です。

支払督促が判決と同じ効力になるまでの4段階

支払督促は、どんな流れで進みますか?

  1. 申し立てる:入居者の住所地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に申し立てる(383条1項)
  2. 督促が届く:書記官は入居者の言い分を聞かずに支払督促を発し(386条1項)、入居者に送達される(388条)
  3. 2週間待つ:入居者が送達から2週間以内に督促異議を申し立てなければ、大家の申立てで仮執行の宣言が付く(391条1項)
  4. もう2週間待つ:仮執行宣言付きの支払督促の送達から2週間たてば、入居者は異議を出せなくなり(393条)、確定判決と同一の効力を持つ(396条)

注意したいのは、仮執行の宣言を申し立てられるようになってから30日以内に申し立てないと、支払督促は効力を失うことです(392条)。2週間たったら、忘れずに次の申立てをします。

入居者が異議を出したら、どうなりますか?

適法な督促異議があると、支払督促の申立ての時に、訴えの提起があったものとみなされます(395条)。請求額に応じて簡易裁判所か地方裁判所での通常の裁判に移り、督促の費用は訴訟費用の一部になります。入居者が「払えない理由がある」と争うつもりなら、最初から訴えや別の手続きを選ぶほうが早いこともあります。分割払いで話がまとまりそうなら、裁判所で和解を固める方法を滞納家賃の分割払いを裁判所で固めるなら、民事訴訟法275条の「訴え提起前の和解」がありますに書いています。

2026年5月から、何が変わったのですか?

e-Gov の法令データで時点を指定して比べると、2026年5月20日時点の387条は「支払督促の記載事項」で、紙の支払督促に事項を記載する形でした。2026年5月21日時点では「電子支払督促の記録事項」に変わり、裁判所書記官が電磁的記録として支払督促を作成する形になっています。

手数料も変わっています。裁判所の「手数料額早見表」では、支払督促の申立手数料は書面で申し立てる場合と電子で申し立てる場合で額が違い、たとえば請求額30万円までなら書面4,200円・電子4,000円、50万円までなら書面5,200円・電子5,000円です。通常の訴えの手数料(30万円までで書面5,500円)よりも低く設定されています。金額は2026年10月12日に閲覧した早見表のもので、申し立てる前に裁判所の最新の表で確かめてください。

支払督促が使える場面と使えない場面の比較

支払督促が使えないのは、どんなときですか?

  • 明渡しを求めたいとき:382条の対象は金銭などの給付だけ。退去してもらうには、別に明渡しの訴えなどが要ります
  • 入居者が行方不明のとき:382条ただし書で、公示送達によらずに送達できる場合に限られます
  • 入居者がすでに遠方へ引っ越したとき:申立て先は入居者の住所地の簡易裁判所です(383条1項)。異議が出れば、その裁判所で裁判になります

なお、公正証書で分割払いを決めても強制執行できるのは金銭の支払いだけで、明渡しは入らないという点は滞納家賃の分割払いを公正証書にしても、強制執行できるのは金銭の支払だけで、明渡しは入りませんと同じ構造です。

都合の悪いことも書いておきます

支払督促が確定しても、入居者に差し押さえられる財産や給料がなければ、お金は戻ってきません。また、異議を出されれば通常の裁判になるので、「簡単に終わる手続き」と思って始めると、かえって時間がかかることがあります。滞納家賃の時効との関係(支払督促は時効の完成を猶予する事由の1つ)は滞納家賃の時効は5年ですが、入居者が援用するまで請求は消えませんを見てください。具体的な手続きは、簡易裁判所の窓口か弁護士・司法書士に確かめてください。

今日やることを1つだけ選ぶなら

滞納している入居者が「いまどこに住んでいるか」を確かめてください。まだ部屋に住んでいるなら、管轄はその物件の地域の簡易裁判所で、支払督促が届きます。滞納が始まって間もないなら、まず家賃滞納の対応は最初の1週間で決まるの順番から。

出典

  • 民事訴訟法382条から398条(e-Gov 法令検索・2026年10月12日時点)。387条の改正前後は、法令APIの時点指定で2026年5月20日と5月21日を比較
  • 裁判所「手数料額早見表」(2026年10月12日閲覧)

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