滞納家賃の分割払いを裁判所で固めるなら、民事訴訟法275条の「訴え提起前の和解」があります|築古アパートのオーナーが読む275条
結論からお伝えすると、家賃の滞納を入居者と分割で払う約束をしたとき、その約束を裁判所で固める方法の1つが、民事訴訟法275条の「訴え提起前の和解」です。簡易裁判所に申し立て、和解が調えば、その記録は確定判決と同一の効力を持ちます。口約束や、私的に交わした念書とは、そこが違います。
仮の話です。家賃を4か月ためた入居者が、事務所を訪ねてくる。「全額は今は無理。毎月3万円ずつなら払う」。大家さんは、その場で一筆書いてもらう。ところが2回払ったところで連絡が途絶え、残りは手つかずのまま。手元にあるのは、署名入りの紙1枚だけ。この紙で、すぐに差し押さえの手続きに進めるかというと、そうはなりません。
訴え提起前の和解は、どんな制度か
民事訴訟法275条1項は、民事上の争いについて、当事者は、請求の趣旨及び原因並びに争いの実情を表示して、相手方の普通裁判籍の所在地を管轄する簡易裁判所に和解の申立てをすることができる、と定めています。裁判を起こす前に、裁判所で話し合いをまとめる手続きです。
- 申立先:相手方(入居者)の普通裁判籍の所在地を管轄する簡易裁判所です。普通裁判籍は、人の場合は住所で決まるのが基本です(民事訴訟法4条)
- 和解が調わないとき:期日に出頭した双方が申し立てれば、裁判所は直ちに訴訟の弁論を命じます。この場合、申立ての時に訴えを提起したものとみなされます(275条2項)
- 相手が来ないとき:申立人または相手方が期日に出頭しないときは、和解が調わないものとみなすことができます(275条3項)
入居者が期日に来なければ、この手続きは成立しません。分割払いの約束を強制的に実現する手段ではなく、双方が裁判所に出向いて合意する手続きだと考えてください。
和解が調うと、何が手に入るのか
民事訴訟法267条1項は、裁判所書記官が和解について電子調書を作成しファイルに記録したときは、その記録は確定判決と同一の効力を有する、と定めています。
そして民事執行法22条7号は、強制執行を行うための書類(債務名義)に、確定判決と同一の効力を有するものを挙げています。つまり、調った和解の記録は、そのまま債務名義になる形に読めます。実際に強制執行を始めるには、執行文を付けた債務名義の正本が要ります(民事執行法25条)。
分割払いの約束が守られなかったとき、大家さんは、改めて訴えを起こして判決を待たなくても、この記録を使って強制執行の手続きに進めます。私的な念書との違いは、ここです。

時効にはどう効くのか
民法147条1項3号は、民事訴訟法275条1項の和解による場合を、時効の完成猶予の事由として挙げています。その事由が終了するまでは、時効は完成しません。和解が不成立で終わった場合は、終了から6か月を経過するまでです。
確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、事由が終了した時から新たに進行を始めます(147条2項)。5年が近い古い滞納があるときは、この点が効いてきます。時効の数え方は、滞納家賃の時効は5年ですが、入居者が援用するまで請求は消えません|築古アパートのオーナーが読む民法166条・145条・152条にまとめています。
申し立てる前に、何を決めておくか
- 滞納の総額と月ごとの内訳を、契約書の支払期日に沿って一覧にする
- 入居者が払える月額と、払い終わる時期を、入居者と話して確かめる
- 分割の途中で1回でも遅れたときに、残りをまとめて請求できる形にするかを決める
- 入居を続けてもらうのか、退去を求めるのかを決める
和解の条項に何を書くかは、裁判所での話し合いで決まります。条項の書き方によって、強制執行で取れる範囲が変わります。書き方は、弁護士か司法書士に相談しながら決めるのが確実です。

都合の悪いことも書いておきます
この手続きは、入居者が同意して出頭することが前提です。滞納者が連絡を絶っているときは、使えません。和解が調っても、入居者に差し押さえられる財産や給与がなければ、回収できる保証にはなりません。申立てには手数料と、書類を整える手間がかかり、少額の滞納では、手間のほうが重くなることもあります。
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今日できること
- 分割払いの約束をしている入居者がいれば、その約束が書面で残っているか、誰の署名があるかを確認する
- 滞納の一覧に、月ごとの支払期日と、入金の記録を並べて書く
- 書面だけで済ませている分割払いについて、裁判所の和解にするか、他の方法にするかを、専門家に相談する予定を入れる
出典
民事訴訟法4条・267条・275条、民事執行法22条・25条、民法147条(e-Gov法令検索・2026年10月1日時点)。


